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勇者は勇者を見限りました(仮)  作者: 槻白倫
1 オレが見限るまで
10/18

009 開戦

 悲痛な表情でそう漏らす流。


 オレは先ほど感じた嬉しさもどこへやらと吹き飛んでいく。


「……戦争で、死人が出ないはずがない…でもオレは、誰も死なせたくない。甘い理想だってのは分かってる!これが甘い理想で、バカみたいな願望だってのも理解してる!でも!…それでも…俺は………俺は皆と一緒に生きて帰りたい!」


 必死な顔でオレにそう告げる流。


 だが、流にいくらそんなことを言われようとも、流自身にその力がなければ、無論、オレにもそんな力はないのだ。


 オレも流も、皆を皆守れる訳じゃない。それどころか自分を守るだけで精一杯だと思う。力もまだ完全に使いこなせていなければ、魔法だって初歩の初歩までしかできていない。オレに限って言えば、加護のオンとオフを切り替えることが出来るようにはなったが、魔法に関しては全くと言っていいほど使えない。加護の制御に時間を割いていたので魔法を習う事をしなかったのだ。内包魔力はトップクラスで多いらしいのだが、これでは宝の持ち腐れである。


 そんな、力もない、技もない、魔法もないオレに、流がこうして頼ってくることが理解できなかった。


 オレはその流の言葉に報いたいと思っている。だが、それにはオレに力が足りない。でも、それでも…オレは流を…東を…香山や竹ノ塚を…クラスメートを守りたいと思ってしまったのだ。


 最初は流と東以外どうでも良かった。でも、こっちで一緒に暮らしていく内に、皆にも良いところがあって、オレがそれに触れようとしなかっただけだということに気づかされた。皆が持つそれぞれの魅力に、オレは引かれ始めたんだ。


 思えば、こんな思いは初めてかもしれない。オレの中の友人は流と東、その二人だけで完結すると思っていた。でも、違った。こうして他人に触れあって気付いた。オレが勝手に完結させていただけなんだって。


 別に、他の人が信じられないとかじゃない。孤独を愛してるとか、そんなカッコつけた理由でもない。ただ単に、二人だけで十分だという思いがあっただけだ。その証拠に、オレは今まで二人と一緒にいれるだけで良かったし、満足もしていた。クラスメートもオレに積極的に話しかけてくることなんて無かったから、それで良いと思ってた。


 だが、それが今はどうだろうか?気づけば頼られていて、気づけば心配されていて、気づけば一緒にバカやってたりもする。そうして、気付けば、守りたいと思っている自分がいる。


 結局、オレの答えは決まっていたんだろうな…。  


 口ではああだこうだ言って、否定をしていたが、結局オレも、流と一緒で不安だっただけなんだ。この居心地の良い空間を、オレが守れなかったらどうしようと、怖がっていただけなんだ。


 でも、もう賽は投げられた。それがどの目に出るかも分からないが、それでも、動き出してしまったんだ。それなら、オレのやることは一つだ。


「流…」


「なんだ…?」


「気が変わったよ」


「…え?」


「オレは前線に出る。今から、シンに直接出られるか聞いてくる」


「な…んで…?」


 オレの言葉に、流は驚愕に目を見開く。 


「オレも、気に入っちゃったんだよな、今の環境が。皆でバカやって、皆で笑って、皆で一緒に何かをするってことにさ……ははっ…らしくないよな~こっち来てから、オレはらしくないよ、本当にさ…でも、こんならしくないオレも、良いかなって思えてきたんだよ」


「木葉…」


「せっかくこんな風に思えたんだ。これで誰かが死んで、それをはいそうですかで終わらせたくねぇんだ。誰かが死んで、あのときああしとけばって後悔したくねぇんだ。だからオレは、前線に行くよ。オレなら出来るって信じてくれてるお前のためにも、大切を守りたいって言うオレの本心のためにもさ」


 オレは不安げに揺れる流の目を見ると安心させるように微笑んで言った。


「だから、任せておけ」 


 そう言うと、オレは流の言葉を待たずにシンのところに向かった。


 だが、流の目に光が宿ったのを、オレは見逃したりはしなかった。そして、その光が、危ういものであることも見逃したりはしなかった。たが、その危うさの招待がなんだか分からず、オレは流にかけるべき言葉が見つからなかった。






 流の本を離れ、今はシンのところにいる。


 シンに事情を話して前線に加えてもらえるかを訊いてみた。それに、シンは難しそうな顔で言った。


「それは俺の権限だけじゃなんともな…もっと上の人なら何とかできってお思うんだけどよ…」


「そうか…分かった。すまないな、無理を言ってしまって」


「ああ、ちょっと待てって」


 そう言って皆の元に戻ろうとしたところでシンに呼び止められる。


「俺にゃあ権限はねえけどよ。ティラちゃんにならその権限はあるぜ。ちょっくら聞いてくっから、お前はここで待ってろよ」


 そう言うとシンは、ティラがいるであろう方に走っていった。オレは言われたとおり、シンがいた場所をキープしながら歩く。すると、オレの隣にレンが並ぶ。


「コノハは戦う気になったのかい?」


「ああ。もともと戦う気はあったぞ?ただ、自分じゃなくて、皆を守る決心が付いただけだ」


「そうか。それは良いことだ。守る者があるだけで、人は強くなれるからね」


「そう言うレンには守る者があんのかよ?」


「ん?あるよ。あるともさ。オレが守りたい者は、たった一人の血を分けた妹だけだよ」 


 レンのその回答に、オレは思わず黙してしまう。レンの言い方であれば、両親はいないか、いるが仲が悪い、と言った感じだと思ったからだ。


 なんだか悪いことを聞いてしまったかもしれないと思い、思わずレンから目を反らしてしまう。


 そんなオレの姿に、レンは笑みをこぼしながら言う。


「コノハは顔に出やすいな。気にしなくても良いよ。もともとオレから振った話だしね」


「いや、でもよ…」


「…同情ならば不要だよ。そんなものはそこらの魔獣にでも食わせておけばいい。同情よりも、オレは好意を向けられた方が嬉しいよ」


「……そう、か…そう言うなら、オレは何も思わないことにするよ」


「うん、そうしてくれるとありがたいよ」


 爽やかに微笑むレンは、最初から思っていたことだがイケメンだった。


「レンってイケメンだよな」


「え?急にどうしたんだ?」


「いや、イケメンだなと思ってさ」 


「そ、そうかい?そう言われると嬉しいね」


 急なオレの褒め言葉に、戸惑いながら嬉しそうに微笑むレン。


「何やっての?」


 そんなオレ達をちょっと引き気味に見ながら訊いてくるシン。どうやら話は終わったようだ。


「おう、レンはイケメンだなって思ってさ」


「イヤ、何でそんな話になったし」


「ん?何となく?」


「はぁ……まぁ、無駄に気負わなくなっただけマシか…」


 シンは少々呆れ気味にそう言うが、言葉の中に安心したような雰囲気が混じっていたのも確かであった。


「そういや、ティラちゃんに訊いてきたぜ。良いってよ。前線出ても」


「っ!?…そうか…ありがとう、シン」


「別に良いってよぉ…それよか、許可が出たってことは、お前は前線で戦わなくちゃいけねんだぜ?」


「あぁ、分かってる」 


「お前は前線に志願したんだ。撤退しようにも、後続が撤退するまで持ちこたえなくちゃいけない。逃げるときもお前は戦うしかないんだ。それも分かってんのか?」


「ああ」


 真剣な眼差しでオレを見るシン。その瞳をオレも真剣な見る。


 すると、シンは破顔すると言った。


「そこまで真剣な目をしてんなら大丈夫だな。ま、死なねえように頑張れよ」


「安心しろ、避けるのは得意だ」


「避けてるだけじゃダメだろ。ちゃんと攻撃もしろよ?」


「ああ、分かってるよ」


 かくして、オレの前線入りが正式に決まった。


 オレはその後、シンとレンと少し話をすると、その事を流達に話しに入った。話した後、オレはまた二人のところに戻った。その頃には、戦場である荒野に到着していた。


「見えっか?あれが魔王軍だ」


 シンが見ている方向をオレも見る。そこには、無数の魔人族と魔物が陣を形成していた。


 オレは加護を使い敵の顔ぶれと位置と武器、それと強そうな奴を見定める。  


 すると、妙な違和感を覚える。


「前線にいる割りには、そこまで強そうな奴らじゃないな」


「あ?んなこと分かんのかよ?」


「ああ。匂いと見た目。あと、感じ取れる魔力の量と会話で何となくな」


「は~~~お前の能力ってすげぇのな」


 感心したようにそう言うシンに、オレは淡々と返す。


「オレはもっと強力な攻撃系の加護が欲しかったけどな」


「それは高望みってもんだろ?加護なんてものはあるだけ有り難いと思わなくちゃよ」


「……それもそうか」


 確かに、加護が無くてはオレはここには立っていないだろう。もしかしたら、こっちに来たときにあの森でやられていたかもしれない。そうでなくても加護が無く役に立たないと分かれば、国から放り出されていたかもしれないのだ。


 そう考えれば、なるほど、流の不安も納得がいく。加護があっても国のために使わないとなれば捨てられる可能性もあった。だからと言って、今回戦場に来たことについては明らかに時期尚早だと思うのだが、今更そんなことを言っても意味はないだろう。


 今考えるべきことは、どう守り、どう生き残るかだ。


 だが、開戦までまだ時間がありそうだ。向こうもどうやらまだこちらの戦力を分析しているだけのようだしな。


「なあシン。お前は、国王に忠誠を誓っているのか?」


「あ?なんだよ藪から棒に」


 オレの突然の質問に訝しげな顔をするシン。だが、オレの真剣な瞳を見ると、仕方なしといった感じで答える。


「俺は忠誠なんざ誓ってねえ。誰があんな愚王に誓うかってんだ」


「……オレから聞いといてなんだが、そんなこと言っていいのか?」


「かまいやしねえよ。オレだけじゃねぇ。皆思ってることだ。……まあ、国王至上主義って奴もいるからあんま大きな声じゃ言えねえけどよ」


 そう言って周りをチラッと見回すシンは再度言葉を紡ぐ。どうやら国王至上主義の連中はいないようだ。


「今の国王はよ。無駄に税制上げたり、自分のお抱えの貴族とか騎士とかには融通きかせるんだけどよ、それ以外にはほったらかしだ。まったく、国民をなんだと思ってるんだろうな。クソッ!話してたら段々ムカついてきたぜ!」


「…シンは何のために戦ってるんだ?」


「あ?そりゃあお前、家族のためだよ。俺達が戦わなくちゃ、大切な皆が死んじまう。だから俺は、戦うんだ。国じゃなく、家族のために」


 そう言えば、レンも言っていた。妹を守るために戦っていると。


「皆だいたいそうさ。今の国王にゃ愛想尽かしてる。まぁ、宰相は良い奴だと思うけどよ」


「なるほどな…分かった。話してくれてありがとうな、シン」 


「別にこれくらいならな。俺としても愚痴を言えてスッキリしたってのもあるしな」


 そう言ったシンの顔は、言葉通りスッキリした顔をしていた。


「なぁ、最後にもう一つ良いか?」


「なんだ?」


「先鋒はオレに任せてくれないか?」


 オレの頼みに、シンは先ほどまでの笑顔を消し去り、真剣な眼差しでオレを見返す。


「理由は?」


「オレは奴らの弱点になりそうなところも、陣形の脆いところも把握できた。オレが突っ込んだ方が効果的だ」


「…それだけじゃあ任せらんねえな。お前が突っ込んだところで力量不足ですぐにおっちんじまうって可能性だってあるんだしな。勇者であるお前がそうなった場合、志気ががた落ちする可能性もあるんだぜ?」


「それなら逆に、オレが成功させれば志気は鰻登りだろ?」


「成功する根拠がない」


「根拠ならある。オレの加護は、観察と状況把握が得意だ。状況が分かればどこから攻撃が来てどこに誰が、どんな奴がいるのかも分かる。つまり、オレは回避に特化してるってことだ。そうそう攻撃を食らうようなへまはしない。だから、頼む」


 そう言ってオレは頭を下げる。


 実際、シンが渋るのも無理はないと分かっている。シンは、先鋒部隊の部隊長だ。隊のために出会っての日の浅いオレに先鋒を任せるなんて隊を束ねる者として出来るわけがない。先鋒が敵を打ち倒すか倒さないかで、戦況も志気も大きく変わってくる。


 だが、それでもオレはこうやってシンに頼み込んでいる。オレが言ったことが効果的で、また、一つ戦略として間違っていないことも事実なのだ。


 頭を下げるオレとそれを見下ろすシン。他の騎士達の視線もオレ達に集まっているのが分かる。恐らく、流達にも見えているだろう。今回の戦いは、少数同士の小競り合いのようなものだ。数は双方千五百くらいだ。見えない訳がない。


「…はぁ…顔上げろよ、コノハ」  

 

 溜め息の後に放たれたシンの言葉に、オレは素直に顔を上げる。


「分かったよ。先鋒はお前に任せる」


「っ!?…ありがとう」


「ただし、オレも一緒だ。それと、絶対死ぬな。生きて帰ろう」


「ああ。生きて帰ろう」


 オレ達の会話が終わった直後、魔王軍の方から雄叫びがあがる。どうやら、向こうは準備ができたようだ。


 それが分かるとオレは歩き始める。


「シン。オレにも、守る者がある。それは、血の繋がりはないけど、確かに温かくて、守りたいって思える者なんだ」 


「守りたいって思える者に、血の繋がりとかどうとかは関係ねえよ。最終的には守りたいって言う気持ちがものを言うんだからよ」


「…そうだな。お前の言うとおりだ」


 オレは腰に下げた剣を抜き去る。


 目の前にいる魔人族や魔物の爛々とした目の輝きが目に映る。  


「全隊!突撃ィ!!」


 魔王軍の将と思われる者から突撃の合図が出される。魔王軍はそれを聞くと、雄叫びを上げて駆け出す。


 それを見たオレとシンも同時に駆けだした。




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