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パーティの解散

 ボブ、ジム、トムの3人が冒険者になってから10年が経過した。あれから様々な冒険を繰り返してきたが、実績がぱっとしないところは相変わらずだ。その他大勢の冒険者、あるいはパーティである。

 3人の同期はほぼいなくなった。はっきりとは数えてないが、廃業と死亡・行方不明が半々といったところである。残ってる連中はそれなりに有名な奴ばかりだ。ただし、直接の面識は最初から全くないが。

 知り合いは年下が随分と多くなった。先輩や同期がほとんどいなくなったことも大きいが、新人教育を引き受けることが多かったので、その関係からのつながりが意外とあるのだ。ただ、その後輩の中には自分達を超えた者もいるので、3人の心境は複雑だったりもする。


 3人はとある酒場で遅めの夕食を取っている。冒険者ギルドで依頼の事後処理をしてきた後だ。それ程大きくもなければ複雑でもない案件だったが、3人は失敗した。その後始末だった。

 「はぁ、またやっちまったなぁ」

 テーブルを囲む3人の表情は暗い。その中で、もう何度目かわからないため息をついた後にトムが呟いた。

 「あれから多いだよね」

 「しかも今回これで3連続か」

 トムの独り言にボブとジムが続いた。

 ボブの言うあれからというのは、レッサードラゴン討伐のことである。あの依頼に失敗して以来、仕事の達成率が大きく落ちたのだ。

 「俺達、以前もぱっとしなかったけど、ここまで酷くなかったよなぁ」

 「ドラゴン退治に失敗してからさっぱりだ」

 「確かにあれ以来、積極的になれなくなったよね」

 無意識のうちに極端に失敗を恐れるようになった3人は、何をするにしても慎重を通り越して臆病になってしまったのだ。そのため、機を逸することが多くなって依頼に失敗するというパターンに陥っているのである。

 「おら、この家業から足を洗おうかなぁ」

 「え?」

 ボブの呟きにトムは驚いた。

 「やめた後の当てなんてあるのか?」

 「これっていうのはないだよ。でも、最近報酬がないから、もう生活費底をつきかけてるだ」

 「だったら、次の依頼を成功させ……」

 「ほんとに成功するだか?」

 「……」

 途中で声を遮って言い返してきたボブの質問にトムは答えられなかった。

 「今のままじゃその日暮らしの人足と変わらないだ。いや、死ぬ危険があるだけ人足よりも酷いだよ」

 「まぁ、確かに」

 それはトムも自覚していた。以来の達成率が4割を切っている現状では、資金を蓄えるどころか生活費も苦しい。

 「もうおらはこんな生活は嫌だ」

 「僕はまだ続けたいな」

 冒険者という職業を嫌がるボブに対して、ジムは尚もこだわりがあるようだった。

 「なんでジムは続けたいだか?」

 「最近は、敵を華麗にやっつけたいというよりも、未知のものに触れたいという気持ちの方が強くなってきたのさ」

 レッサードラゴンの討伐に失敗して以降、ジムは敵を倒すことよりも好奇心を満たすという方向に嗜好が変化していた。結局のところ、冒険者を続けたい理由を求めているだけということなのだが、無意識なせいかその辺りはジム自身も気づいていない。

 「トムはどうだか?」

 「俺?」

 トム自身は続けたいという思いはある。しかし、これ以上続けても今より良くなるという気がしなかった。

 「う~ん、俺は……」

 どう答えようか、トムは悩んだ。


 翌日、3人は10年間組んでいたパーティを解散させることにした。

 今後のことについては近頃よく話し合うようになっていたが、話す度に3人の方向性の違いがはっきりとするようになり、更には生活の苦しさに耐えられなくなって、ついにそれぞれの道を歩むことにしたのだ。昨夜の話し合いもいつもとそれ程変わらない内容だったが、積もり積もった思いが決壊したということである。

 パーティを結成したり解散したりするのは簡単だ。一緒に組みたい冒険者達が集まり、嫌なら別れる。これだけだ。冒険者ギルドに届ける必要もない。だから、ボブ、ジム、トムの別れも簡単なものだった。

 昼前、3人は冒険者ギルドの前にいた。ジムとトムはいつも通りの出で立ちだったが、ボブは戦士風の格好をしていない。軽装な姿にリュックサック、それに大きな包みを持っている。既に宿は引き払っていた。

 「ボブにしては行動が早いね」

 解散を決めた翌朝に冒険者としての登録を解約したボブは、包みの中にある鎧一式を脇に置いている。これから武具屋で買い取ってもらうのだ。

 ようやく踏ん切りがついたボブの表情は随分とすっきりとしていた。

 「じっとしてても生活費が減るだけだしな。おら、早く稼ぎたいだよ」

 「何するんだ?」

 「しばらく人足として働くだよ。その後、ある程度金が貯まったら一旦村に帰るだ」

 「そっか」

 とりあえず一番気になったことを聞いたトムはそのまま黙る。

 「トムとジムはどうするだ?」

 「俺?俺は、盗賊ギルドで指導教員にでもなろうかと思ってる」

 「へぇ、けど、なりたいって言ってなれるもんだか?」

 「今はちょうど新人が増えてるって話を聞いたから、伝手を頼ってなんとか潜り混むつもりなんだ」

 「ボブはそういうのはしないの?」

 「おらは人に教えるのは苦手だから無理だよ」

 苦笑しながら首を横に振るボブだった。

 「で、お前はどうなんだ、ジム?」

 「僕?僕はこれから冒険者ギルドでどこかのパーティに入れてもらえるように頼むつもりさ」

 いつも通りの様子でジムが2人に話した。

 「そうか。みんな自分の進路はちゃんと決めてるだね。さて、それじゃそろそろおらは行くだよ」

 そう言うと、ボブは鎧一式を収めた包みを持ち上げた。その拍子に金属製の擦過音が中から聞こえてくる。

 「じゃ、元気でな」

 「さようなら」

 「うん、2人も元気で」

 最後にそう短く言葉を交わすと、ボブは2人に背を向けて歩き始めた。

 「よし、それじゃ俺も盗賊ギルドに行ってくるよ」

 雑踏の中にボブの姿が消えると、トムはジムにそう告げて反対側に向かって歩き始めた。

 トムはまだしばらく今の宿を使う予定だ。晴れて指導教員になれたら、別の宿に移るつもりである。

 それに対して、ジムもトム同様にしばらくは今の宿を使う。どこかのパーティに入ることができたら、その宿に移るつもりだ。

 「さて、これから仲間を探すか!」

 伸びをひとつして体をほぐすと、ジムは冒険者ギルドの中へ入った。

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