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第2話『来る一波乱也』

ぼんやりとしていた設定などを固めたため、裏設定の変更に伴い主人公の名前が『柳生貴矩』へと変更になっています。御了承下さい。


最近色々と忙しく更新が遅れてしまい、誠に申し訳ありませんでした。本当ならばもっとまとめて1話分として投稿する予定で既にある程度先まで書いているのですが、このままだとまだ区切りが付かずさらに投稿が遅れそうだったので、多少無理矢理ですが区切りをつけて投稿させていただきます。

「――今夜一晩、私を買ってはくれませんか?」


「ほう……」


 唐突。そうとしか言えない状況だったが、貴矩はこんな時でも常の冷静さを崩さず冷静に状況を俯瞰していた。


 ……この女の子、どう見ても進んで体を売りたい様には見えない。明らかに訳有り、体を売らなければならないほど困っているといったところ。こいつは厄介ごとだなぁ。


 そう考えながら、しかし貴矩は既にこの少女を見捨てる気は微塵も無い。彼女に声を掛けられた瞬間から、彼の中からその選択肢は消えている。

 何故と問われれば、理由としては単純明快。


 ……女性と酒は、世界の宝だ。


 前者のみならある意味勇者らしいともいえたが、そこに|後者(酒)が合わさるといきなり勇者っぽさが消し飛ぶ。しかしそれは紛れも無く貴矩の行動原理の一つであり、信念の一つだった。彼の人生に、困っている女性を見逃すという文言は存在しないのだ。そして美味い酒を飲まないという文言も当然存在しない。今は関係ないが。関係ない話すんな。


 ……だとすれば、まずは。


 ともあれ迅速果断。迷う事無く今後の行動を脳内で定めた貴矩は、不安げな表情で返答を待っている少女に膝を屈めて視線を合わせる。


「そうだな。それも良いかもしれない。しかしいきなりってのはよろしくない。まずはお互いの事を知ろうじゃないか」


 いつの間にやら常の不敵な笑みを浮かべた貴矩のその言葉に、少女は一瞬体を硬くしたものの、


「……分かり、ました」


 言葉を搾り出すようにそう呟いて、ゆっくりと頷いた。


「それじゃあ、ここにいるのもなんだし、適当な店で座って話そうか」


 眉目秀麗な偉丈夫と、薄汚れていても尚目に留まるほどの美少女という二人の組み合わせ。それは当然、人々の注目を今まで以上に集めるものだ。

 こんなに注目された状況では、自分はともかく少女は話どころではないだろうと考えた貴矩は、少女を伴って先ほどの酒場兼定食屋へと移動する。


 一度出たばかりの店、それも飲食店にもう一度入るというのは抵抗を覚える人もいるだろうが、貴矩はいっそ見事なまでにそんな事気にしなかった。逆に先ほどわざわざ手まで振って見送ってくれた看板娘の方が、驚きに目を丸くする。


「あれ? さっきのお兄さんじゃないですか。どうしたんですか? 忘れ物ですか?」


「いや、そういう訳じゃあない。とりあえず水を二杯くれないか?」


「あ、はい。畏まりました――って、アイリスちゃん?」


「ん、リリーお姉ちゃん。こんばんわ」


 貴矩の注文に頷き、未だ頭上に疑問符を飛ばしながらも店内に下がろうとした看板娘の少女リリー。しかし彼女は、トコトコと貴矩の後ろをついて店内に入ってきた薄汚れた少女アイリスを見て足を止めた。


「え、えぇ、こんばんわ」


「む、なんだ。まさか姉妹か?」


「いえ、隣の家に住んでるで。というか、お兄さんこそアイリスちゃんと知り合いなんですか?」


 驚愕――という程でもないがまあまあ驚きのその事実。世間は狭いなとかいつの間にか話し方が砕けて来てるなとか貴矩は思いつつ、しかしそれ以上に気になることがあった。


 ……うーむ、姉妹じゃなかっただけ救いだが、まさか知り合いとは。嫌な予感もしてるし、一波乱来るなぁ。


 元々第六感が鋭かった貴矩が、勇者として様々な苦難や厄介事に巻き込まれていつの間にやら身に付けていた超感覚。それがザワザワと貴矩に波乱の予感を訴えかけてくる。だがあくまで超感覚に過ぎないそれに、波乱回避の方法を教えてくれるといった便利な能力はついていない。


 ……まあ、良いか。


 今まで幾度と無く困難に巻き込まれ正直こなれた感じさえある貴矩は、早々に波乱の回避を諦め流されることに決めた。


「知り合いとは言えないな、名前も今初めて知った」


「えっ? 知らないんですか? じゃあ一体どういう……?」


 どういうことかといえば貴矩は名前も知らない女の子を飲食店に連れ込んだということだが、リリーが知りたいのはそんな上辺だけの状況説明では無いだろう。


 ……しかし、どうしたものか……。


 さしもの貴矩も、リリーとアイリスが知りだとは思ってもみなかった。対応策など考えているはずも無い。

 とはいえ馬鹿正直にこのを一晩買うからとりあえず話でもと連れてきた、などと言えるわけは無い。そういうことをするつもりで買う訳では無いとしても、間違いなく大事件の大波乱だ。

 さてどうしたものかと視線を彷徨わせる貴矩だったが、残念ながらその逡巡は無意味だった。


「このお兄さんに、一晩私を買ってもらう」


「あ、おい」


「へ?」


 アイリスの隠す気も飾る気も無い簡潔な爆弾発言に、貴矩は苦笑いを浮かべリリーは呆けた声を出す。ついでにすぐ近くで話を聞いていた客は飲んでいた酒を噴出した。汚い奴である。


 ……はいはい、大波乱大波乱。


 最早諦めたように乾いた笑いを漏らす貴矩を余所に、物語の歯車は加速して行く。

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