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短編・エッセイらしきもの

最高のプレゼント

作者: 本谷文途

父の日ということで。

 今日は父の日。

 もうプレゼントは買ってある──

 

 今時、高校生の男子が父さんにプレゼントを買うなんて珍しいと思う。

 買ったおれも、友達に父の日のプレゼントどうした? と訊いて、父の日? それいつ? と言われた時には、そんなに父の日は影薄いのか!? と思った。


 皆母の日の方がイメージが強いらしい。

 それも当たり前か。テレビでチョコのCMが流れるくらいだし。

 でも、おれからすれば母の日の方が父の日より影が薄い。なぜなら、おれが幼稚園児だった頃、母さんは交通事故でこの世を去り、それからずっと父さんに育てられてきたから。


 父さんは仕事を一切休まなかったし、家事だってこなした。

 弁当を作ってくれたりもした。今はおれも大きくなったから、自分で弁当を作るし、他の家事だってできるようになってきた。

 バイトも始めたから、お小遣いをもらうこともないし、貯金もしたりしてる。

 これで少しは父さんの負担が減ってればいいと思う──


「……よし。完璧──」


 作った料理をテーブルに並べて、父さんが帰ってくるのを待つ。

 今日は、初めて料理をした時に作ったカレー。それにサラダ。

 カレーは父さんの好きな辛め──

 

「そうだ、プレゼント持ってきとこう」


 自分の部屋に行き、机の引き出しからキレイにラッピングされた細長い箱を取り出す。


「……喜んでくれるかな──」


 プレゼントを渡すのは、今回が初めてだ。

 中学の時はバイトなんかできなかったし、やっていたら退学を免れない。

 

 ──ガチャ……パタン


「ただいま」

「お帰り──」


 帰ってきた。

 プレゼントを隠しながら、リビングに向かう。


「……今日はカレーか」

「うん。辛めだよ」

「ほう。それは楽しみだな──」


 と父さんは控え目に笑った。

 ……疲れてるのかな。

 なんとなく、そんな風に見えた。

 スーツを脱いで、ネクタイを片手で緩める。


「……どうした?」


 ぼんやりと父さんを見ていたら、不思議そうな顔をされた。


「……ううん。何でもない──食べよう」

「そうだな──」


 向かい合って、「いただきます」と言ってから食べ始める。

 

「……ぅっ」


 ちょっと辛くしすぎたかも……

 父さんをちらっと見ると、普通に食べていた。


「……辛くない?」

「ん? 辛くないぞ。ちょっとピリッとするぐらいだ──」


 そう言いながらも、結構なペースで麦茶が消えていく。

 

「辛いよね?」

「辛くないぞ」

「麦茶めっちゃ減ってんだけど」

「…………」

「辛いよね?」

「……ちょっとな──」


 今度は苦笑いで麦茶を飲んだ。

 頑固だなぁ──

 少し可笑しくて笑ってしまった。


         *


「……今日、何の日か知ってる?」


 食べ終わってから父さんに訊ねる。

 父さんは、うーん……と考えてから言った。


「何の日だろうな。今日……あ」


 閃いたのか、パチンと手を叩いた。


「あれだ。社長の誕生日だ。社員皆でプレゼントを渡したよ──でも何でそれを知ってるんだ?」

「いや、知らないよ。てか違うし。……今日は、父の日だよ」

「ああ……。今日──」


 と父さんはカレンダーに目をやった。

 その間に、テーブルの下に置いておいたプレゼントを手にする。


「父さん」

「ん?」


 目線がカレンダーから自分に向けられる。

 目の高さが一緒になっている気がした──


「……いつも、仕事と家事頑張ってくれてありがとう。えっと……これからも、よろしく──。はい、これ──」


 プレゼントを渡す。

 父さんはきょとんとしたあと、プレゼントとおれを見比べた。


「……開けてもいいか?」

「うん」


 父さんは、丁寧にラッピングを外して、箱を開けた。


「……ネクタイかぁ」

「うん。似合いそうなの買ってきた」

「そうか……っ──ありがとなぁ……」


 父さんは珍しく小さな声で言うと、少し俯いて目頭をぐっと押さえた……。


「っ……最高のプレゼントだ──」


 そう言って、こっちを見て笑った顔には、シワが少し刻まれていた。

 久しぶりに見た父さんの笑顔は、母さんがいなくなってから初めて見た、満面の笑みだった──



父の日って、忘れやすいですよね(^^;)

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― 新着の感想 ―
[良い点] 父と子の好ましい関係が良く現されているスッキリとした良品だと思います。 父の日の晩御飯に初めて作った思い出のあるカレー。 こういう細かな心遣いが嬉しくなってくるんですよねー。 [一言] …
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