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奥様の敵はみんなの敵! 〜フィサリス家の長い一日2−4〜

活動報告より♪


ロータス視点です。

 ベリスにモンクシュッド男爵の正体を探るように指令を出したのがお昼前だったにもかかわらず、午後のお茶の時間にはベリスたち御庭番から報告があがり、この事件の概要はほぼつかめました。


『モンクシュッド男爵』を名乗る詐欺師の犯行。


 やはりモンクシュッド男爵はニセモノでした。

 男は男爵どころかどこの馬の骨とも判らない出自の怪しい者で、娘の方はその若い愛人ということでした。

 二人は共謀してフィサリス家のほかに何件も同じことをしていたようなのですが、ことがことだけに、公にしたくない家が多く表沙汰になっていなかったので、私も知りませんでした。

 泣き寝入りが多く、被害届もあまり出されていないそうなのですが、さすがは旦那様のお勤め先。国内の情報に明るく、プルケリマ副隊長補佐は『モンクシュッド男爵』の事件をご存知でした。

 これまでは上手くいってきたからと調子に乗ってたのでしょう。

 まあ、うちに来たのが運のつきですね!

 フィサリス家を舐められちゃ困ります。しっかり思い知らせてあげますよ。


 そして奥様ですが、すぐに公爵家のお抱え医師様を呼び、診てもらっています。

 よりにもよって、奥様の体調が思わしくない時にこんなことが起きてしまうなんて! これが奥様の体調に響くようでしたら、思い知らせるどころか闇に葬り去ってしまいましょう。




 しばらくして、門衛が執務室にいる私を秘かに呼びにきました。


「プルケリマ近衛副隊長補佐がいらっしゃっています。別棟に悟られぬよう、門のところで待機していただいております」

「ああ、もう到着されましたか」

「はい。プルケリマ様と他に旦那様の部下の方々もいらっしゃっております」

「わかりました。それで、別棟の様子は?」

「二人ともに一歩も別棟から外に出しておりません。中で侍女たちが上手く引き留めております」

「よろしい。行きましょう」


 私は門衛とともに、エントランスで待機しているプルケリマ様のところに急ぎました。




 外から公爵家の護衛騎士と近衛騎士様たちが秘かに警備する中、私はベリスとプルケリマ様と一緒に別棟に入りました。

 しかしすぐに中に入らず、庭から中の様子を伺うことにしました。子どもという人質がいる以上、無事に保護する方法を考えないといけませんから。

 庭に面したガラス越しに、部屋の中が見えます。

「あれが『モンクシュッド男爵』ですか。嫌な感じのやつだな」

「ええ、おっしゃるとおりでございます」

「で、その横に座ってるのが娘……愛人か」

「はい」

「突入した時、出口はどうなってます?」

「外への出口、他の部屋に通じる扉の側には侍女がいます。すぐには逃げ出せないでしょう」

 中では侍女数名が二人をお世話する風を装いながら、しかししっかり出入り口は押さえていました。

「子供はどうなってます?」

「今、侍女が抱いておりますね」

「人質は確保済み、と。それはよかった」

 誘拐されてきた子どもも、あやすふりをしてさりげなく侍女が確保しています。これで子どもが人質にとられるということはなくなりましたので、安心して断罪できますね。

「では、行きますか。俺は部屋の外で待機しています。機会をうかがって部屋に入ります」

 キリッと、しかしどこか楽しそうにプルケリマ様が言いました。

「そうでございますね。私とベリスが先に部屋に入りましょう。では参りますか」


 さあ、招かれざる客は帰ってきただきましょうか!




「お待たせいたしました。モンクシュッド男爵」

「おお、ずいぶん待ちましたよ。で、奥様は戻られたのかな?」


 先程とはうって変わって私がにこやかに話しかけると、馬鹿な男はニヤニヤしながら聞いてきました。少しもこちらの動きを疑っていないところが、愚かとしか言いようがございませんね。

「戻られましたが、あいにく体調を崩されてしまいまして。そのままお休みになられましたので、今日はお会いすることはできません」

 もともと会わせる気などさらっさらございませんが。

「それはそれはお気の毒に!」

「きっと自分が裏切られていたことがショックで、寝込まれたのに違いありませんわぁ」

 大袈裟に驚く偽男爵と、嫌な笑い方をする娘。馬鹿どもが調子に乗ってきました。

 少しイラッとしましたが、これくらいで表情に現すことはございませんよ。私は冷静に続けました。

「まさか、そのようなことはございません。ただ単にお疲れになっただけでございます」

「本当ですかね?」

「ええ。そもそも旦那様に愛人などおりませんし、ましてや隠し子もおりませんから」

「おや、強気ですなぁ」


「ええ、もちろんです。——モンクシュッド男爵親子を騙った詐欺師など、公爵家にはまったく関係ございません」


「は?」

「えっ?!」


「ですから、あなたがたの正体はもう判っております、ということですよ」


 笑い顔のまま固まった二人の顔をじっと見ながら、私はニヤリと笑って見せました。ふふふ。スキッとしました。

 今の状況が理解できないのか、二人が顔を引きつらせているところに、


「ハイハイ、そこまでにしとけ、お前ら。これを見ろ、詐欺と恐喝、おまけに幼児誘拐の罪で逮捕状でてるから」


 颯爽と部屋に入ってきたプルケリマ様が懐から逮捕状を取り出し、二人に見せつけました。

「!! こいつは誰だ?!」

 偽男爵は逮捕状に目を走らせると、途端に血相を変えプルケリマ様を指さしましたので、

「ああ、紹介が遅れました。近衛騎士団副隊長補佐のプルケリマ様でございます。今日は特別に(・・・)あなたたちを捕縛しに来てくださいました」

 私は丁寧にご紹介させていただきました。

「えっ?! 捕まっちゃうの、私たち!!」

『捕縛』という言葉を聞いて焦る娘に、

「そりゃそうでしょ。こうやって何件のお宅を騙したよ? 詐欺だけじゃねぇ、誘拐もしてるからな。罪は重いぞ覚悟しとけ」

 凄みを利かせて言うプルケリマ様。

 ニヤリと笑う副隊長補佐とは反対に、どんどん顔色をなくしていく二人です。


 すると娘……いや、娘役の愛人の方が先に行動を起こしました。

 

 サッとソファから立ち上がると、侍女の抱えている子供を奪おうとしたのです。

「子どもをよこしなさい!」

「あら、それはできませんわ!」

「ギャァッ!」

 子どもを抱いている侍女に掴みかかったのですが、逆にその手を横にいた別の侍女につかまり腕を捻リ上げられ、一回転して背中から床にたたきつけられて動けなくなりました。

 本当に馬鹿ですね。うちの侍女をなめてもらっては困りますよ。


 娘が床に叩きつけられるのを目を見開き見ていた偽男爵でしたが、

「よくも娘を……!」

 そう言うと懐から短刀を取り出し出鱈目に切りつけ暴れ出しました。

「うるさい、暴れるな」

 こちらもすぐさまベリスに手をはたかれ短刀を取り落したところで、

「無駄な抵抗は、本当に無駄だからやめとけ」

 呆れ顔のプルケリマ様に難なく取り押さえられました。




「——これで一件落着ですね。ご協力ありがとうございました~」


 パンパンと手をはたき、爽やかに笑うプルケリマ様です。

 詐欺師二人は、外から入って来た近衛騎士様たちによって縄でぐるぐる巻きにされて萎れています。

「いいえ。こちらこそ、お忙しいところお手を煩わせてしまいました。……これで奥様も安心されることでしょう」

「そうですよね~。奥様に心配かけさせるなんて、こいつらほんっっとに許されないですね」

「ええ。この件を聞いてから奥様は体調を崩されまして、今お部屋で安静にしているところでございます」

「マジですか! それはますます許せませんね!! これは し っ か り 取り調べしないといけませんねぇ。副隊長が聞いたら……想像するのも恐ろしい。それに副隊長だけじゃなくあいつら(・・・・)が聞いたらどうなることやら……」

 捕縛された二人をかわいそうな子を見る目で見遣るプルケリマ様です。旦那様はともかく、あのお方たち(・・・・・・)も……。そうですね、怖いですね!


「女性騎士様たちのことでございますね」

「はい。あいつらも出張に行ってましたが、明日には副隊長ともども帰ってきますしね。そうだ、取り調べはあいつらに任せましょうか」

「それはよろしいお考えでございます」


 奥様に精神的ダメージを受けさせたこと、あの方たちがお聞きになったら……。詐欺師たちはただじゃすまないでしょう。プルケリマ様のおっしゃる通り、ここはあの方たちにお任せするのが最良でしょう!

 私も大賛成です。




「では王宮に帰ります。あ~あ、今日は残業決定ですね。王宮の食堂でつましい夕飯か~」

「よろしくお願いいたします。後で差し入れを持たせましょう」

「おお! ありがとうございます! ホレ、行くぞ~! ん? どうかしたのか?」

「……さあ?」

 プルケリマ様たちが偽男爵たちを引っ立てて部屋を出ようとしたところで、何やら外が騒がしくなりました。

 外はうちの護衛騎士達が警備しているはずです。一体どうしたのでしょうか――?

*** おまけ ***


騎士A「フィサリス家から差し入れきてますよ〜」

ユリーさん「おっ、さんきゅ」


 包みを受け取り早速開けるユリーさん。中に入っていたのは……

ユ「キャラメレ……!」

A「え〜美味しそうじゃないですか、ひとつください」

ユ「やんねーよ」

A「補佐のけちー」


* * * * * *


ありがとうございました(*^ー^*)

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