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ベリス、動く 〜フィサリス公爵家の長い一日2−3〜

活動報告小話より♪


ベリス視点。

ベリス、裏側で働きます。

 フィサリス家に『モンクシュッド男爵』と名乗る怪しい男とその娘が現れた。


「ヤツは自分の娘がうちの旦那様とデキていて、その間には子どもも生まれているから認知するなり養育費をよこすなりしろと言ってきている」


 俺がロータスさんの執務室に行くと、今屋敷で起きていることを簡単に説明した。

「はあ。旦那様の愛人ということですか?」

「ヤツが言うには。ま、間違いなくあれはニセモノです。これを御覧なさい」

 ロータスさんの示したものは分厚い本——フルール王国の貴族年鑑の、モンクシュッド男爵のページだった。

 確かに今別棟で監視している男とは別人のようだ。特に毛髪関係で一目瞭然。

「そうですね」

「金が目的のようですが、場慣れしているのが気にかかります。それに、万が一ということもありますから」

「万が一……」

「旦那様ですからね」

「旦那様ですからね……」


 だからオレたちにあの男に関する情報を集めてほしいと指示を出した。




 ロータスさんの執務室を出てすぐ、オレは御庭番たちを集めた。


「今別棟で監視している人物のことを至急調べてほしい。モンクシュッド男爵と名乗っているが、おそらくニセモノだ。旦那様の愛人とその親と名乗っている。各自顔と特徴を覚えて調査に当たってくれ」

「「「「はっ!」」」」


 手短にこの件について説明すると、御庭番たちはすぐさま行動に移った。これでしばらくすれば、あの父娘のかなりしっかりとした情報が上がってくるだろう。

 だからと言って部下たちだけに任せるわけにはいかない。オレも情報収取のため、王宮に向かった。




 王宮内にある近衛騎士団の屯所では、出張中の旦那様の代わりをプルケリマ近衛副隊長補佐が務めていた。

 本来ならいち使用人であるオレなんかが会えるはずもない偉い人なのだが、ロータスさんからの紹介状のおかげで、すぐさま面会させてもらえる。


「旦那様の戦の時の様子を聞きたいのですが」

「ふむ、今さら? まあ、今頃そんなことを聞いてくるってことは、何かおかしなことでもあった、かな。愛人とか名乗る女が子どもを連れで出てきたとか?」


 軽い感じで副隊長補佐が言うけれど、その鋭さに舌を巻く。というか、そのまんまだ。

「内密の話ですが。プルケリマ様の仰る通り、先ほど屋敷にモンクシュッド男爵という男とその娘が現れまして。娘は旦那様と戦の時に付き合っていて、子どもはその時にできた子だと——」

 オレはかいつまんで事情を説明した。それを真剣な顔で時折相槌を打ちながら聞いていた副隊長補佐だったが、話を聞き終えると、

「マジか~。副隊長んとこにも来たのか」

 そう言ってこめかみを押さえた。

「え? 何か御存知なのですか?」

 オレは、何か知っていそうな副隊長補佐の発言に驚いた。

「その詐欺、前々からちょろちょろ出てるんだよ。社交界に滅多に姿を現さない地方の貴族の名を騙って、『あんたんちの息子がうちの娘に手を付けたんだよ金寄越せ』ってね。浮名を流しまくってる放蕩息子のいるお貴族様んとこを狙って出没してたんだけどなぁ……」

「…………」

「これまでは貴族年鑑も文字だけだったからそれでも通用したけど、今は絵姿入りだから即バレか」

「そうですね」

「そんなことも知らねーなんて、あいつらほんと情報古いな。しかも、以前の副隊長ならまだしも、今じゃすっかり愛妻家で通ってる副隊長のところだろ。ましてや精鋭軍団(使用人たち)のいるフィサリス家に特攻なんて自殺行為にもほどがある」

「そうですね」

「それにしてもフィサリス家を狙うか~。ほんと身の程知らずだよな」

 そう言ってニヤリと笑う副隊長補佐。

「では、あの女が連れていた子供は?」

 あの娘の子どもなのだろうか? 父親は旦那様でないとしても。

「ああ、あれは自分の子じゃない。いつも庶民の子を適当に誘拐してるみたいだ」

「誘拐……っ!? ひどいやつらですね……!」


 人の子を誘拐していたのか! 同じ子どもを持つ身として許されない。

 デイジーが誘拐されたら……全力で犯人を探し出して、後は……。ここではちょっと言えない。


 自分の立場に置き換えてムカムカしていると、オレに構わず副隊長補佐が続けた。

「詐欺事件・誘拐事件、どっちにしても罪は重い。それで、そいつら今どうしてる?」

「屋敷内の別棟にて監視しております」

「ナイス公爵家! あ、えーと、奥様はどうしてる?」

 さっきまでの顔から一変、心配げな顔で副隊長補佐が聞いてきた。

「ショックで体調を崩されております」

「マジか! やっぱあいつら許せねぇな……。よし、じゃあちょっくら逮捕状とってくるわ。近衛の仕事じゃないけど、奥様のために特別出動だ。奥様の敵は俺らの敵! すぐ追いかけっから、あいつら逃がさないようによろしく」


 座っていた椅子からおもむろに腰を浮かすと、足早に部屋を出て行く副隊長補佐。この人たちが奥様大好きな人たちでよかった。


 オレも屋敷に帰ることにした。そろそろ部下たちの情報が集まってくるだろうから。

 ロータスさんへの報告は、午後のお茶の時間に間に合うだろう。


*** おまけ・ある御庭番の聞き込み調査にて ***


 え? フィサリス公爵様の戦の時のご様子ですか? それは毎日忙しそうにしていらっしゃいましたよ。外出はって? 外に出るのは部下の方々のお仕事ですから、あの方はほとんど基地から出られておりませんね。

 それに、暇さえあれば私のところにきて『この手紙をさっさと検閲しろ』だの『妻からの手紙の検閲をさっさと済ませろ』だのプレッシャーをかけてましたからね!

 あのゲロ甘……こほん、愛にあふれるお手紙を毎日のように読まされた私の身になってください!!

 は? 公爵様が浮気してたかって? そんな余地どこにもありませんでしたよ!! 時間的にも気持ち的にもね!

 ……つい興奮してしまいました。とにかく、あの方が浮気をするようなことはありませんね。奥様からのお手紙が来ると、スキップを踏みそうな勢いでいそいそとご自分のブースに戻られましたよ。大事にお手紙抱えて。

 ……はあ。私もかわいい嫁がほしいです。


証言者:当時の従軍検閲官


ありがとうございました(*^ー^*)

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