執事と旦那様
活動報告SS、セリフお題のリクエストより♪
本編165、166話目辺りの裏側のそのまた裏側(あれ? 表??)
綺麗どころトリオとお出かけしてしまったヴィオラを追いかけていった(仕事をほったらかして!)旦那様。残されたロータスは……。
最初から嫌な予感はしていたんです。
奥様が女性騎士のみなさまとお出かけになるのを聞いて何度も『自分もついていく』的な発言をされていましたからね。
でも奥様から諭され、真面目に仕事に取り掛かったと思っていましたのに……。
旦那様は最近お忙しくしておられたので、家の仕事——領地からや鉱山からの報告書、決済など——が溜まっていました。もうこれは休みの日に一気に片付けてもらわなければならないでしょう。
私としてはさっさと片付け……げふげふ、処理していただきたいのですが、旦那様のことです。せっかくの休みなんだから奥様と出かけたいだの一緒に過ごしたいだの駄々をこねるのが目に見えています。
旦那様に仕事をしてもらうにはどうしたらいいかと私が密かに考えていたら、
「お姉様方とお出かけしていいですか?」
奥様が旦那様にお伺いをたてていました。
おや。その日は旦那様のお休みの日ではありませんか! 素晴らしい。奥様がいらっしゃらなければ仕事するしかありませんからね!
女性騎士のみなさま、グッジョブでございます。
旦那様はというと、その日が自分の休みの日に当たっていることに気がついていないのか、
「いいよ」
と軽く返事を返しています。
自分で賛成したんですよ。男に二言はないですよね?
奥様のお出かけ当日。
旦那様はグダグタ言っていましたが、結局屋敷で仕事をすることになりました。
さあ、頑張っていただかないと!
私は旦那様の書斎に溜まった書類を運び込みます。
「……どんだけあるんだよ」
「たくさんございますよ」
「見りゃわかるっ!!」
じとんと書類の山を見る旦那様ですが、さっさと片付けないと奥様が帰ってくるまでに終わりませんよ。
「さあさあ、とっとと片付けてください」
「わーかったよ」
私が急かすと、旦那様はしぶしぶですが取り掛かり始めました。
私も旦那様の書斎にある執務机で、補佐的な仕事を片付けます。
しばらくペンの走る音しかしていなかったのですが、
「ロータス。これとこれとこれの、もう少し詳しい資料が欲しい」
と旦那様が書類をこちらに見せながら言いました。
おお! 旦那様がとうとうやる気を出しましたか!
喜ばしいことです。資料集めなど、いくらでもしましょう!
「かしこまりました。大至急集めてまいります」
「頼んだ」
私は指示された資料を集めるべく書斎を後にし、図書室に向かいました。
なのに。
不足のないよう資料を集めて再び書斎に戻った時には、旦那様の姿は忽然と消えておりました。
『すぐ戻る。帰ったら働く』
という走り書きを残して……。
「どういうことでしょうかね? ヤル気出してたんじゃなかったんですかね?」
「まあまあ。まずは落ち着きましょうか」
一人で仕事するのもバカらしくなって、私は使用人用ダイニングに行きました。
ちょうど手が空いていたカルタムがお茶を入れてくれたので、それをいただきながらつい愚痴ってしまいますが今日は仕方ないでしょう。
「まったくアノ方ときたら。ちょっと目を離した隙に脱出ですよ。脱出。子供ですか?」
「旦那様は奥様大好きですからねぇ。それはいいことなんですが、まさか奥様を追って脱出するとは!」
カルタムはおかしそうに笑ってますが、こっちはたまったもんじゃありません。
「ええ、夫婦仲がいいことはとてもいいことですよ! でも時と場合によりけりです!」
「そうですね」
私の怒りに、カルタムは苦笑いになりました。
もういっそこのままボイコットしてしまおうかと考えていたその時です。
「ロータスさーん、領地からまた書類が届いてますよ〜」
そう言って侍女数名が書類の束を抱えて入ってきました。
また仕事が増え……いや、これは……。
「ふふ……ふふふふ……」
「「「「「ロータスさんが壊れた!?」」」」」
これを旦那様の机の上に山積みしてあげましょう! 旦那様、帰ってきたら容赦しませんからね。覚悟しておきなさい!
さらに増えた書類を旦那様の机に山積みし、後は帰ってくるのを待つだけ。
私は再び自分の仕事を黙々とこなしながら、旦那様の帰りを待ちました。
どれくらい経ったでしょうか。音も立てずにそろ〜っと書斎のドアが開きました。
旦那様、帰ってきましたね!
静かにペンを置き、私は扉の前で仁王立ちになりました。
「おかえりなさいませ、旦那様。散歩は楽しゅうございましたか?」
「げ」
にっこり微笑みながら旦那様に話しかけたんですがねぇ。おかしいですね、旦那様は引きつっておいでです。
「ちょ、ちょっと仕事が煮詰まったから外の空気を吸いにだな……」
言い訳をする旦那様。もうこれはキレてもいいですよね?
「やっと真面目に仕事する気になったのかと喜んで見ればこの有様! ああもう貴方って人は懲りない人だ! 振り回されるこっちの身にもなれ!!」
ふう。スッキリしました。
私が一喝した後の旦那様は、呆然と私を見ているだけでした。
そうでしょう。私がこんなキレたことなど、これまでなかったですからね。まあ今までは、言っても無駄、それだけ諦めていたというか……。まあ、それはいいでしょう。
ほら、やればできる子なんですから頑張って下さい。
「……まあ、戻ってきたのでよしとしましょう。その代わり今からみっちり仕事してもらいますからね」
「はいっ!」
さっきより明らかに増えた書類の山を見てさらにげんなりする旦那様ですが、知ったこっちゃありません。
さっさと片付けて下さい。
それからは、用を足しに行くのにももちろん付いて行かせていただきましたよ!
もう逃がしませんからね。
*** おまけ ***
使用人用ダインにングから出る時。
「ロータスさん」
「カルタム、なんでしょう?」
「今夜は美味しいおつまみと酒を用意しておきますよ」
「ありがとう。では仕事終わりに」
「はい」
ありがとうございました(*^ー^*)
 




