デートを見張れ!
活動報告小話より♪
書籍5巻発売時リクエスト企画から、セリフお題。
ヴィオラと綺麗どころトリオのデートを尾行していた旦那様は……?
とりあえずロータスを出し抜いて屋敷を抜け出すことには成功したけど、肝心のヴィオラたちはどこにいるんだろうか。
そういや行き先も何も聞かなかった……。僕としたことが、失敗した。
とりあえず僕は街中に向かって歩きながら、ヴィオラたちの立ち寄りそうなところを考える。
レモンマートルの菓子屋か? それとも裏路地に入ったところにある隠れ家カフェか? それともダンデライオンのパン屋か?
時間は昼を少し回ったところだ。
パン屋は早めに行かないと混み合うことを綺麗どころトリオは知ってるから、昼飯時は寧ろ避けるだろう。
隠れ家カフェは女子会をするには不向きだ。あの静かな落ち着いた雰囲気は、楽しくおしゃべりするには似つかわしくない。
昼飯時は、逆に、菓子屋のカフェが空いている。あそこなら女四人が集まっておしゃべりするのにもってこいだし。
……ここはやっぱりケーキ屋からあたるのが正論だよな。
そう考えた僕は、ヴィオラと何度も行っているレモンマートルの菓子屋に向かった。
結果、僕の考えは当たっていて、四人はレモンマートルの菓子屋の一番いい席—隣の公園の花壇が綺麗に見える場所—に座って楽しそうにケーキを食べているのが、店のガラス越しに確認できた。
店の表側からだと遠くてよく見えないので、僕は公園側に回ることにした。
ヴィオラたちの席からほどよく離れてる場所にあった太い木の陰に身を潜める。遠すぎず近すぎずちょうどいい距離だ。ヴィオラたちの様子がよく見えるし、何かあった時に飛び出していっても十分間に合う。ナンパ野郎がきたら瞬殺だ。
そうしてヴィオラたちを観察……もとい、護衛していると、
「あれがフィサリス公爵夫人ですか」
「かわいい人ですね」
「遠くからお見かけしたことはありましたが、いや、家内がべた褒めしているのも納得ですね」
「そうですね。僕が嫉妬するくらいに褒めるからどんな人かと思えば」
「『幻の奥様』がようやくちゃんと拝めましたね」
「ええ、ここまで来た甲斐があったというものですよ」
僕のすぐ後ろから声が聞こえてきた。
よく知った名前が出てきたから何事かと思い振り返ると、僕と同じように木の幹に隠れてヴィオラたちを熱心に見る男どもがいて……って。
「お前ら……」
それはあいつらの旦那たちだった。
「ああ、フィサリス公爵様。こんなところで奇遇ですね!」
「公爵様は奥様がご心配で?」
「僕たちも嫁が心配でね」
なんて笑ってるけど、今の話じゃお前らの目的はヴィオラじゃねーか!
僕がじとんと見れば、
「うちの奥さんがヴィオラ様を褒めまくるから、どんな方なのかなぁって興味が湧きまして」
「ふうん」
「以前のスイーツパーティーの時にこのお店でご一緒しましたが、よく見せてもらえなかったもので。えへへ。やっぱりとってもかわいい人ですね」
「……ふうん」
「声が聞こえないのが残念ですが!」
「…………」
やっぱりヴィオラ目当てじゃねぇか。
「もうちょっと見せてください! そしたら仕事に戻りますんで!」
グイッと体を動かしてさらに店内を見ようとする男ども。もういいだろ、見ただろが。つか、仕事に戻るって?
「……仕事を抜けてきたのか、お前たち」
「「「今は休憩時間ですからね!」」」
ニカッと笑って言うことか!?
騎士団の事務、王宮図書館の司書、執政官秘書と仕事はバラバラなこいつらだけど、示し合わせてきたのか。
「どうでもいいけど、ちゃんと隠れろ。向こうから丸見えじゃないか」
どいつもこいつも偵察素人だから、向こうに感づかれるつーの! お前らの嫁、プロだぞ?
せっかく僕が忠告したのに、
「もうちょっと近くで……って、わわっ!」
「うわっ! おい!!」
今隠れている木の幹から出て、さらに店に近い低木のところに移動しようとして足元の根っこに躓く三人。もうこれギャグか。僕は額に手を当て空を仰いだ。絶対これ見つかったよな。
そう思って恐る恐る店内を見れば、呆れ顔でこっちを見ている四人が見えた。
「……すっげ〜こっち見てるぞ、お前らの嫁」
「ヴィオラ様もじゃないですか」
「すっかりバレちゃいましたね」
「お前たちのせいだろうが!」
テレテレ笑ってるが、お前たちのせいでバレたんだからな! 僕だけなら隠れおおせた自信があるのに!
ヴィオラの目が『何やってるんですかサーシス様』って言ってる。
うわぁ。ヴィオラの視線が痛い……。
偵察(覗き見)がバレ、ヴィオラたちに追い返された僕たちは、それぞれ戻るべき場所に帰っていった。
ああ、そうだ。屋敷に帰ったらロータスがいるんだった……。
「こっそり書斎に戻って、ずっと仕事していたフリしないと」
誰にも見つからないよう細心の注意を払ってこっそり屋敷に入り、書斎のドアを開けたまではよかったんだが。
「おかえりなさいませ、旦那様。散歩は楽しゅうございましたか?」
「げ」
こめかみに青筋を立てながらニッコリ笑うロータスが、ドアの真ん前で仁王立ちして待ち構えていた。
超怒ってるよな、これ。
「ちょ、ちょっと仕事が煮詰まったから外の空気を吸いにだな……」
ロータスの冷気に僕が冷や汗ダラダラで言い訳すれば、それまでいちおう貼り付けていた笑顔の仮面をかなぐり捨てたロータスが、
「やっと真面目に仕事する気になったのかと喜んでみればこの有様! ああもう、貴方って人は懲りない人だ! 振り回されるこっちの身にもなれ!!」
敬語も何もかもぶっ飛ばして一喝した。
ロータスの豹変に唖然となる。ロータスよ、いつもの口調はどこ行った?!
驚きすぎて僕がじっとロータスを見ていると、コホンとひとつ咳払いし、
「……まあ戻ってきたのでよしとしましょう。その代わり今からみっちり仕事してもらいますからね」
いつもの事務的な顔に戻って、机の上に積んであった書類の山を僕に渡してきた。
ちょ、これ、出る前より増えてないか!? あ、でも反論できませんすみません!!
「はいっ!」
「ああ、そうそう。あれからまた処理しないといけない案件が出てきましたので、そちらも乗せておきましたから。もちろん資料はきっちり揃っておりますよ」
「やっぱり増えてたのか」
「当たり前です。ちょっとやそっとで終わる量じゃありませんからね、心してかかってください。タラタラやってると奥様とご一緒に晩餐は無理でございますよ?」
「ワカリマシタ、ガンバリマス」
またいい笑顔を見せるロータスに何も言い返せない僕は、すごすごと自分の机に向かったのだった。
その夜。
「ごめんなさいごめんなさい」
「何ですか旦那様」
「わぁ……『旦那様』呼びに戻ってる」
「どうかしましたか旦那様」
「ちょー他人行儀になってる」
ベッドの上、正座でヴィオラと向き合っている。
帰ってきてからヴィオラがちっとも笑ってくれない。しかも会話が他人行儀! って、怒ってますよねー。はい、すみません僕が悪かったです!!
「今日は溜まってるお仕事してるんじゃなかったんですか?」
「資料が足りなかったから集めてもらってたんだ。で、ちょっと疲れたから散歩に……」
「ふうん?」
じとんと僕を見るヴィオラ。はい、嘘ついてました〜! ヴィオラの目が僕の嘘を見抜いているようでコワイ。
「ヴィオラが心配だったからつい見に行っちゃっただけだよ! もうロータスを出し抜いたりしませんから! もう女子会を覗いたりしませんから許してください!」
ガバッと頭をベッドにつける。
「旦那様、本当ですね?」
「本当です!」
ヴィオラの声がちょっと優しくなる。本当です嘘つかないから許して!
僕の必死さが伝わったのか、
「もういいです。お仕事も終わったんですよね? じゃあもう寝ましょう」
ヴィオラが許してくれた。顔にはやれやれって書かれてるけど気にしない!
仕事はあれから書斎缶詰でなんとか終わらせた。……敬語の飛んだロータスも怖かった。
「ヴィー、許してくれた?」
「はい。もうしないんですよね?」
「もちろんです! じゃあ、許した証拠にそろそろ名前で呼んでほしいんだけど………」
そりゃ前は『旦那様』だったけどさ、今も人前では『旦那様』だけどさ。二人の時は名前で呼んで欲しいわけですよ。今『旦那様』って呼ばれたら他人行儀でさびしい。
おずおずとお願いしたら。
「サーシス様。さっさと寝てください」
「わかりました」
なんかちょっと違う。もっと優しく語尾にハートマークを付けて欲しかったんだけどさ! ……いや、もう今日はわがまま言うまい。
僕は素直に寝床に入ったのだった。
ありがとうございました(*^ー^*)




