やんちゃな殿下
本編160・161話目の裏話。
旦那様とちびっこ王太子。
旦那様はこのせいで体調を崩しましたとさ♪
フィサリス近衞副隊長と部下である俺たち数人は、ディアンツ王太子殿下に付き添って七日間の国内視察に来ている。
まだ殿下はお小さいので安全かつ穏やかな地方の視察ということで、農業が盛んで自然豊かなゴーニュ地方が選ばれた。
主産業である果実酒の出来栄えを見たり(殿下は果実水な!)、その原料となるムロンブランの果樹園を視察したり。初めて見るものばかりで殿下もご満悦だった。
「コレをお母様のお土産にするんだ〜。ヴィオラにもあげるよ」
山ほどもらったムロンブランのドライフルーツを副隊長に見せている殿下。
「妻には私が買いましたので、それは殿下が全部お持ち帰りください。姫君たちにも差し上げないと後で大変ですよ」
「そ、そうだな! 姉上たちにも差し上げないとな!」
慌てて菓子を仕舞っていたのがかわいい。そうですよね、姫様たちに土産がないとなると、後でどうなることやら。
そしていよいよ王都に帰還という日の朝。
宿泊場所にしていた貴族の家の車寄せで、俺たちは荷物を馬車に積み込んだり馬を整えたり慌ただしくしていた。
殿下とアルゲンテア宰相が馬車で、副隊長以下俺たちは馬で周りを警護する。王都まではまるっと一日かかるけどのんびりした行程だから、騎乗でもそんなに辛くはない。
「さぁ、もう準備は整いましたね? 馬車に乗ってください、出発しますよ」
副隊長が殿下を馬車に乗せようと、お尻を押している。殿下が乗れば出発だ。
しかし一筋縄ではいかないのが、このやんちゃ盛りの殿下。
副隊長に押されながら馬車に乗ろうとしていた殿下だったけど、
「今、川の中で何かキラって光った! きっと宝石だ!!」
と言って副隊長の手を振りほどいたのだ。
この貴族の屋敷の横には大きな川が流れていて、殿下はそこに何か光るものを見つけたと言うのだ。いやそれ、絶対水面の反射でしょう。周りのみんな、同じツッコミしたと思う。
もちろん副隊長も同じで、
「宝石なわけないでしょう!」
慌てて捕まえようとしたのだけど、殿下はその手をすり抜け、
「きれいな石、取ってくる!!」
そう言うか早いか、川へと走り出していた。
「落ちるからやめてください……って聞いてねぇ!」
副隊長の制止の言葉なんて聞いていないよね、殿下。てけてけて〜っと土手を下っている。
「サーシスくん、あれ絶対落ちるから」
「私もそう思います。追うぞ!」
「「「はいっ!!」」」
馬車から顔を出した宰相様が青ざめている。
副隊長は俺たちに声をかけると先頭きって追いかけて行ったので、それに続く。
すばしこい殿下はあっという間に川岸についていたのだが、やっぱり殿下。
足元にあった大きめの石に躓くと、
「わぁっ!」
どぽん。
見事に川へとダイブしてしまった。
「殿下っ!」
副隊長がためらいもなくざぶざぶと川に入っていく。
いつも殿下のことを『生意気なクソガキ』とか言って喧嘩ばかりしている副隊長だけど、こういう時は真っ先に自分が行動するんだよな。さすがっつーか。
今はまだ寒い時期、川の水冷てえんだよ……って、萎えてる場合じゃない!
「うわっ、冷てぇっ!! 殿下、副隊長、大丈夫ですか〜!」
俺たちも副隊長に続いて川へと入った。
幸い殿下が落ちたところは岸に近いこともあり、深さもそれほどなかったのですぐに救出できたのだけど。
「ほら! きれいな石だ!」
「「「「………………」」」」
副隊長に川から救出され抱っこされた殿下は、手に透明な石を持っていた。いつの間に……。殿下、転んでもただでは起きない子だよ。
あ、副隊長のこめかみに青筋が走った……。
それから殿下と俺たちは急いで体を拭き、濡れた服を着替えるのにバタバタした。
その後宰相様や副隊長に『こんな"お約束"は守らんでよろしい』と、殿下はこっぴどく怒られていた。
しおらしく帰り支度をしているその横で、
「出発は遅らせて、少し様子を見ようか。途中で熱でも出たら大変だ」
「そうですね」
宰相様と副隊長が相談していると、
「いやだ! すぐ帰りたい! 早くお母様のところに行きたいっ!!」
殿下が駄々をこね始めた。
「しかし……」
子供らしいわがままに宰相様たちが顔を見合わせていると、ハッと何かを思いついたような顔になった殿下。
あ、いつものいたずら思いついた顔してるなぁって思って見ていたら。
「ほら、公爵も、早くヴィオラに会いたいだろう?」
ニコッと笑いながらいいところを突いてきた。むむ、侮れませんな殿下!
「あ〜うん、まあ、そりゃあ? 早く会えるに越したことはありませんけど」
って、副隊長! そわそわしながら答えないでくださいっ! ……子供にめっちゃ弱いところ突かれてるじゃないですか。
って、わかってるけどね、みんな知ってるけどね。
そこからの副隊長は素早かった。
ふかふかの毛布を数枚用意させると、それで殿下をぐるぐる巻きにして馬車に放り込んだのだ。
「アルゲンテア卿、ちゃんと見張っててくださいよ」
「わかった」
そう言って馬車の扉を閉じた。
「お前たちも体を冷やさないようにしろ」
「「「はいっ!」」」
そう言って俺たちにも、制服の下にもう一枚着込むように指示した。
そのお陰か、俺たちは誰も体調を崩すことなく無事に王都に帰ることができた。
さすが、できる男は違うね!
…………って、当の副隊長が帰った次の日熱出したって聞いて笑ったけど。
ありがとうございました(*^ー^*)
 




