ヴィオラの初恋の君を探せ!
活動報告より♪
本編154話目の裏側。
ヴィオラの昔に書いたと思われる恋文を拾った旦那様は……?
ユーフォルビア家からヴィオラに、近況報告の手紙が来た。
それにはヴィオラの妹のフリージアが、そろそろ入学準備をするということが書かれてあった。
そのことを晩餐の席でサーシスに話しながら、
「フリージアの制服姿、かわいいだろうなぁ〜」
妹の可愛らしい制服姿を妄想しニマニマしているヴィオラ。そんなヴィオラがかわいくて、
「じゃあ準備のお手伝いに行ってきたら? ゆっくりしてきていいよ」
なんてついうっかり言ってしまったサーシス。
……後ほどこの時の自分のセリフを、ものすごく後悔するとはつゆ知らず。
ヴィオラが実家に帰ったその日の夜。
サーシスが一人寂しく寝室に引き上げようとした時、廊下の隅に紙が落ちているのを見つけた。ただの紙くずにしては丁寧に折りたたんである。
「こんなところになんだ?」
ちょうど見えにくい場所にあったので掃除の時にも見落とされたのだろうと思い、何気なくサーシスは拾い上げた。
少し年季の入ったそれは、どうも手紙のよう。
広げてみるとそれは−−。
「あなたのその優しい瞳が大好きです……!? え? ヴィオラ・マンジェリカ・ユーフォルビアぁぁぁ!?」
何だこれは!? 結婚前にヴィオラが書いたこ、恋文か!? 僕に宛てたものではないことは重々承知してるけど、じゃあ誰に宛てたものなんだよ!? ヴィオラに好きな人がいたのか? そうなのか!?
目の前が真っ暗になったサーシスだった。
* * * * * *
「ここ二、三日、副隊長やけにイライラしてね?」
「うん、機嫌わりーよな。どした、奥様とケンカでもしたのか?」
「聞きたいか、お前たち~」
「「ぎゃっ?! プルケリマ小隊長!!」」
ここ数日イライラしながら仕事をこなすフィサリス副隊長を遠巻きに見ながらひそひそ話していた騎士A・Bは、突然背後から現れたユリダリスに驚き飛び上がった。
「副隊長のイライラの原因を知ってるんですか?」
「もちろんだとも! しっかり聞いてきたからな!」
「「はりきってる時の団長(旧)とか副団長(旧)って、いやな予感しかしないんっすけど……」」
ニカッと笑いながら親指を立てているユリダリスに、ひくっと頬をひきつらせる騎士たち。
少しずつ後ずさりし、ユリダリスから距離を取ろうとするのにガシッと肩を掴まれてしまい、あえなく逃亡は失敗に終わる。
「まあそう言うな~」
「「うわ~、予感的中っぽい」」
「実はな、副隊長、奥様の昔の恋文を拾ってしまったそうなんだよ」
「マジすか!」
「奥様の恋文ぃ? それ、誰に宛てたものなんですか?」
「それがさぁ、誰宛てかが書かれてなくてさぁ。だから知りたくてイライラしてるんだよ副隊長は」
腕を組み、訳知り顔でうんうんうなずきながら言うユリダリスに、
「そんなの、書いた本人の奥様に聞けば早いんじゃないですか?」
「そうだそうだ」
至極まっとうなことを言う騎士たち。
「それがさぁ、奥様は今実家に帰っておられるんだよな。グッドタイミングなことに」
「「いやむしろめっちゃバッドなタイミングでしょ」」
人差し指を立て左右に振り「チッチッ」と言うユリダリスに突っ込む騎士二人。
「いつもの副隊長なら実家に押しかけて行って聞きそうなものを。今回に限ってなんでしないんですかねぇ?」
「自分が『たまにはゆっくりしておいで』って言っちゃったもんだからさ、行くに行けないらしい。そして悶々」
ニヤッと笑うユリダリスを、騎士たちは諦め顔で見つめた。
「……小隊長、楽しそうですね」
「まあな。そこで、忙しくて手が離せない副隊長からキミタチに指令だ」
「「やっぱりキター!!」」
「奥様の初恋の相手を探せ!!」
「「マジかー」」
「手がかりはこれ。ほら!」
ユリダリスはそう言って、オフホワイトの封筒を手渡した。慌てて受け取る騎士A。
「うおっ?! これって……」
「例の、恋文?!」
恐る恐る開けてみると、少し幼いが丁寧な字で、
『あなたのその優しい瞳が大好きです』
みたいなことが書かれてあった。
頭を突き合わせて、その恋文(らしきもの)を読む二人。
人の恋文、しかもあの幻の美少女奥様の書いたものを盗み見しているということに、よけいにドキドキする。
読んでポーッとなる二人に「お前ら宛じゃねーからな」と、ユリダリスの冷たいツッコミが入ったのはご愛嬌。
「本物だからな、大事に扱えよ~!」
楽しそうにミッションを言い渡すユリダリスに、げんなりしながらもそれを遂行するために駆けだす騎士達だった。
そして次の日。
サーシスとユリダリスが屯所で寛いでいるところに、昨日の二人組が駆け込んできた。
「副隊長! 小隊長!! わかりましたよ! 奥様の恋文が誰宛てのものか!!」
「本当か!!」
「お~、早かったなぁ!」
「まずはこれ、お返しします」
「うむ」
まずは丁寧に『証拠物件』であるヴィオラの手紙をサーシスに返す騎士達。律儀である。
それから。
「それは奥様が十歳の頃に書かれた、ユーフォルビア家執事のオーキッド氏にあてた手紙でした!!」
おもむろに調査報告をした。
「オーキッド……?」
「え? じゃあ奥様の初恋って、実家の執事さん?」
オーキッドって、あの爺さんか!? と固まるサーシスに変わってユリダリスが騎士たちに聞き返した。
「はい! いや、違いますね。ちょっとややこしいんですけど、まずその手紙は、奥様が手習いの一環として書かれたものであって、お手本をまねて書かれただけのものです」
「は? 恋文じゃなくて模写だと? 字だけでなく文章も?」
騎士Aの報告にサーシスが愕然とする。
「そうです!」
「そして、とても上手に書けたので、お嬢様……いや奥様か、は、執事のオーキッド氏に見せたのだそうです。オーキッド氏はお嬢様の成長をとても喜ばれて、それを大事にしまっていたのだそうです。それがつい最近になって出てきたので、懐かしくなり、奥様の元に届けたんそうです」
「…………」
「おお~……副隊長の盛大なる勘違い……!!」
絶句するサーシスと、大袈裟に天を仰ぐユリダリス。
「「副隊長!! こういうことはちゃんとご本人に確認してください!!」」
「……わかった。調査、ご苦労だったな。後で一杯おごってやる」
「「ありがとうございます!」」
後日。
「上手に書けたんで、オーキッドにあげたんですよ~。え? 廊下に落ちてました? もお、恥ずかしいですね!」
「できれば宛名を書いておいてほしかったですねぇ」
「? だってただの手習いですし」
「ソウデスネ」
「それに恋なんて一生しないと思ってましたからね!」
「……うちの奥さんが枯れ子だったの、忘れてた……」
ありがとうございました(*^ー^*)




