温度差
活動報告より♪
本編152話目の裏側です♪
~使用人用ダイニングにて・侍女たちの会話~
「ちゃっちゃら~ん! 奥様特製ポ~チ~!!」
「え~、何それ何それ!」
「この間ね、小物入れにしていたポーチが壊れちゃったのよ。それを奥様が見てて『作ったげる~!』って言ってくださってね。で、これ!」
「ああ、あれね。もうできたの?」
「そうなのよ〜!」
「ふお~! 奥様お得意のパッチワークじゃない。デザインこまかっ! 相変わらず器用よねぇ、奥様ってば。いい仕事してるわぁ」
「それもつい二、三日前なのよ、ポーチが壊れちゃったのって。あっという間にできちゃうんだから、奥様ってば仕事も早いっ!」
「よっ! 奥様!!」
「ナニソノ合いの手」
「いや、別にぃ?」
休憩時間に侍女数名が、ヴィオラお手製のポーチを見てキャッキャと盛り上がっていた。
と、そこに。
「今、旦那様が大急ぎでサロンに向かって行ったんだけど、どうなさったのかしらね~?」
休憩に来た侍女が首をひねりながらダイニングに入ってきた。
「どこから?」
「う~ん、多分このダイニングの入り口辺りから?」
「じゃあ、さっきの会話を聞いてたのかな?」
「あらやだ。全然気配感じなかったね」
「ほんと」
「聞かれて都合の悪いことは……言ってないよね?」
「うん」
「じゃあ大丈夫か。あ、そうだ、次のお休みさぁ––」
何でもないと結論付けた侍女たちは、また違う話題で盛り上がるのだった。
~廊下にて・サーシスの独り言~
さっきたまたま通りがかった使用人用ダイニングで、思わぬ話を聞いてしまった。
それは、ヴィオラが侍女にポーチを縫ってやったというもの。
別にそれ自体は大したことじゃない。むしろ微笑ましい話だ。
で・も。
かなり以前、僕の部屋にはヴィオラのお手製のものが何一つないから作ってほしいとお願いした。にもかかわらず、まだ一つも作ってもらってないってどういうこと!?
かなり以前だぞ。
なのにあの侍女のポーチはつい二、三日前に、ヴィオラが自ら作ってあげる~って言っただと?!
僕、侍女よりもプライオリティ下って……。正直へこむ。
いいや、きっと気のせいだ! そうだ。
ヴィオラに聞いてみよう。きっと「そんなわけないですよ~」って笑い飛ばしてくれるはずだ!
僕は癒しを求めてヴィオラの私室へと急いだ。
~ヴィオラの私室にて・ステラリアのつぶやき~
「ヴィオラ、ヴィオラ!」
ドンドンドンと、いつもよりもせわしなくノックがされて、旦那様が奥様の私室に入って来られました。
どうしたのでしょうか、やけに悲壮な顔をしています。
「はい、どうなさいました?」
いつもなら優雅にお茶でもいかがですかと旦那様をお誘いする奥様ですが、今日は珍しくワタワタと動きながら旦那様に答えています。実は奥様、これからご実家のお母様とご一緒にお出かけするところなのです。
「ちょっと聞きたいことが……」
「ええと、後からでもよろしいですか? あ、ステラリア、そこの箱を忘れないでね」
「はい」
旦那様が何か言いかけましたが奥様はスパーンと旦那様の話をブチ切ってしまいました。出かける時間が迫っているからですね。そして私に、実家へのお土産の入った箱を持つように言いました。
一瞬で旦那様を視界からシャットアウトしましたね、奥様。早業です。
奥様にあしらわれた旦那様が、ショックを受けて固まっているのを私も視界の端に捉えましたが、母さんもスルーしているところを見ると、ココは私も見て見ぬ振りをするのが正解でしょう。
「では、行きましょうか! ああ、ロータスが待ってるわ。急がないと」
奥様が私と母さんを促しました。旦那様の乱入で少々時間が押してしまったので、奥様が焦っています。
私たちは慌ただしく部屋を後にしました。
旦那様は固まったままなので置いていきますね。誰か回収してくれるわよね?
~サロンにて・通りすがりの侍女が見たもの~
廊下を歩いていると、扉が開いたサロンから旦那様とロータスさんの話し声が聞こえてきた。普通の音量だから内緒の話でもなさそうだけど、聞く気はなかったので通り過ぎようとした。
その通りすがり。
「ヴィオラに邪険に扱われた……」
「急がれているところに旦那様が乱入なさるからでございますよ。タイミングというものがございます」
「だって、ヴィオラが出かけるなんて知らなかったし」
「見ればわかるでしょう」
「……いろいろいっぱいいっぱいだったから、わからなかった」
「…………」
中から旦那様とロータスさんの声が聞こえてきた。
旦那様が奥様のことでへこんでいらっしゃるのを、ロータスさんが傷口に塩を塗……もとい、慰めて? 諭して? あげているところだった。
でもなんで旦那様へこんでるのかしら?
にわかに気になってきた私は、ちょっと立ち止まってお二人の話に耳を傾けた。
「僕の方がずいぶん前にお願いしてあったのに……。侍女の方が後だったのに……」
「それは何か事情でもあるのかもしれませんよ? 奥様に直接お尋ねになったらいかがですか?」
「直接聞こうとしてあしらわれたんだろが」
「そうでございましたね」
ブツブツと文句を言う旦那様。ははーん、これはさっきのポーチの話かしら?
侍女に先を越されてへこんでるってわけね。う~ん、奥様ってば、旦那様より私たちを優先しちゃうんだから☆
それからしばらくして。
奥様が外出から帰って来たところに、旦那様がもう一度果敢にチャレンジした結果。
「え? サーシス様のはベッドカバーを作ろうと思っているので時間がかかっているだけですわ?」
と、あっさり奥様に返されてた。
「あ、そうなの?」
さっきまでの悲壮な顔はどこへやら、旦那様ったらあからさまにホッとした顔になっています。
「はい。一度作りかけてたんですけど、サーシス様が私の部屋に来ちゃったから、ちょっと雰囲気合わなくなったんです。だからもう一度作り直していて、それで時間がかかってるんです。クッションとかがよかったですか?」
「いや、そうじゃないけど……。そっか、そうなのか」
「そうです」
「じゃあ、楽しみに待ってるよ」
「なる早で仕上げますね」
だそうですよ。よかったですね、旦那様!
最後はニコニコ微笑み合ってるお二人を見ていると、ほのぼのした気持ちになったわ。
ありがとうございました(*^ー^*)
活動報告にてまだまだ小話祭り開催中です♪




