出禁の、その後
活動報告より♪
フィサリス家の夫婦喧嘩の発端となった、業者さんとその娘のその後。
「おまえさァ、えらいことやらかしたんだって? おじさん、頭抱えてたぞ」
ここは王都のマルシェの中にある、先日フィサリス公爵家を出入り禁止になった業者の直営の八百屋の店先。
そこで隣接するパン屋の息子が、幼なじみである八百屋の娘にあきれ返った目を向けていた。
娘はレジのカウンターに頭を預け、意気消沈で店番をしている。
「うるさい! 自分でも反省してるの!!」
「反省してるって割には学習しないよなぁ。彼女持ちの男に手を出してシめられたこともあったよな。それに、この間はいいカモにされて小遣い全部もってかれたんだっけ。それから……」
「人の黒歴史をみなまで羅列しないでよ〜」
パン屋の息子が娘の伝説を指折り数える。
根っからのイケメン好きなこの娘、マルシェで店番していた時からイケメンにひっかかっちゃあ痛い目を見てきた。にもかかわらず、一向に懲りてない。そしてとうとう、イケメンパラダイス……もとい、フィサリス公爵家で、何人ものイケメン使用人たちに声をかけたことが問題になり、娘だけでなく父親までもが公爵本人から『出入り禁止』を言い渡されたのだ。
大口かつステイタスでもある公爵家との取引を、自分の『イケメン好き(本能のままに行動)』がおじゃんにした。もちろん、父親から大目玉を食らった。
「何度痛い目にあっても懲りないお前のバイタリティにはむしろ拍手するわ。つーか、おまえのイケメン好きはもう病気だよな」
「う〜。自分でもわかってるわよ」
「おじさんからこってりお説教されたんだろ?」
「そうよ。しかも『おまえは外商には向いてない、もうおまえを後継ぎにとか考えないから、おとなしくマルシェの店番やってろ』って言われた」
「オレもその方がいいと思うぞ。マルシェだったらどれだけイケメンに声かけても出入り禁止にはならないし、むしろ愛想いい方が売り上げにも貢献できるしな」
「おっしゃる通りデス」
正論を言う幼なじみに、娘はしおらしく頷く。
そんなへこみしぼんだ娘を、呆れながら、でも優しい眼差しで見る幼なじみ。
「おまえさぁ、商売の腕はなかなかのもん持ってるのに、どうにも自分に素直過ぎるところあるからなぁ。……まあそれがかわいいと思うところなんだけどな」
「なによ? ちゃんと最後まではっきりしゃべりなさいよ」
「べっつに〜」
「ほんと、あんたってばおかしな人だよね。で、今日は何しに来たの?」
「ああ、忘れるとこだった。野菜サンドに入れる野菜を仕入れにきたんだよ。それと、それと……あと、そっちのも」
「はいはい、まいど〜」
パン屋の息子が指示する品を、いつもの調子に戻った娘が手際よく紙袋に入れていく。
パン屋の息子はそれをじっと見ながら、
「そういや、おまえんとこが出入り禁止になったのは公爵家だけなのな。他の家では『フィサリス家の都合で取引中止になった』ということになってるみたいだぞ」
自分が聞いてきたことを娘に話した。
「え? どゆこと?」
娘は作業の手を止め、幼なじみに聞き返す。
「パンを納品に行った先で聞いたんだけどな、公爵家が異国との取引の都合で別の業者を使わないといけなくなったから、おまえんちから野菜を買うのをやめたって」
フィサリス家から出入り禁止をくらった業者など、他の貴族も使わなくなるだろう。そうなると、この王都で商売するのは難しくなる。業者も娘も、最悪王都から引っ越さねばならないかもと覚悟をしていたのだけれど……。
それを聞いてボロボロと泣き出す娘。
「わ〜!! めっちゃ泣いてるし」
慌てて手ぬぐいでその涙を拭う幼なじみ。
「泣くくらいなら、もうすんなよ?」
「うん、うん」
「オレが見張っといてやるから」
「うん、うん……うん?」
ありがとうございました(*^ー^*)
活動報告にて書籍5巻発売記念リクエストしておりますので、よろしければお立ち寄りくださいませ♪




