お・も・て・な・し
書籍第5巻リクエストより♪
お腹の空いた旦那様にヴィオラが手料理を振るまうことになったのですが。
「ふぁぁ……よく寝た。すっきりついでにお腹が減ったなぁ」
ワタシ庭園で仲直りして、そのまま徹夜続きだった(らしい)旦那様がお昼寝して。そして旦那様の目覚めの第一声がこれでした。
「おはようございますって言うのも変ですけど、もうお目覚めなんですね。時間的には午後のお茶の時間ですけど、お茶とお菓子を用意しましょうか?」
そんなに長い時間寝ていたわけではありませんが、さっきよりも顔色がよくなった気がします。
お腹が減ったという旦那様ですが、ご飯を食べるには中途半端な時間です。お茶とお菓子ならすぐにでも用意ができるのでそう提案したら、
「う〜ん、お菓子よりももっとがっつり食べたい」
なんて男の人らしい答えが返ってきました。さすがは細マッチョとはいえ騎士様です。
でも困りましたね、さすがのカルタムもまだ晩餐の用意に取り掛かってないでしょう。
「えぇ〜? 晩餐には早いからまだ用意できてないでしょうし……。そうだ、パパッと何か私が作っちゃいますか!」
「ヴィーが?」
「はいっ! 厨房はこれから晩餐の用意で忙しい時間だから、別棟のキッチンを使って。材料は厨房から調達しないといけないけど……」
「いいね! ヴィーの手料理か、楽しみだな。食べたかったんだ」
旦那様はすぐさま賛成してくれました。
あ、でもせっかく作るんだったら……。
「…………」
「どうかした? 急に黙って」
「いえね、せっかくだから使用人さんたちにも食べてもらおうかなって。私たちのケンカに巻き込んじゃったお詫びで」
ちょっと作るのもたくさん作るのも変わりないですしね! それに普段の感謝も込めて。
「ああ、そうだね。じゃあ僕も手伝おうか」
「って、サーシス様、お料理できるんですか?」
「いや? あ、でも皿を並べるくらいはできる!」
「…………騎士団で見習いの頃に料理とかしなかったんですか?」
「しようとしたんだけど、ユリダリスに無理やり皿並べに連れ出されたんだ」
「…………ちなみに何を作ろうとしたんですか?」
「あの時は確か、適当にサンドイッチか何かを作ろうとして、手当たり次第に具を挟んでたんだったかな。そしたら周りのみんなが血相を変えたんだけどなぜだろう?」
真剣な顔をして考える旦那様。……なんか、容易に想像できてしまったわ。おぼっちゃまで舌は肥えてるけど、料理経験とかまるでなしですもんね。ひょっとしたら調理前の材料すら知らないかも? ……さすがにそれはないか。
「よーし、オッケーです。サーシス様は配膳担当でお願いします!」
ということで急遽別棟で、おもてなし軽食を作ることになりました。
旦那様の言うようにがっつりしたものを作ると晩餐に響くので、相談した結果軽くサンドイッチとスープを作ることにしました。
「そういうことでしたら」と、ダリアとミモザ、ベリスもお手伝いに名乗りを上げてくれました。カルタムは晩餐の準備で忙しいので、軽食ができたら食べに来てねと伝言しておきました。
パンと卵、野菜などを厨房から調達してきて料理開始です!
「サーシス様、パンにバターを塗ってくださいね〜」
「了解」
「ベリスは野菜の皮をむいてね! ミモザも一緒にお願い」
「は〜い!」
「わかりました」
みんなに下ごしらえをお願いして、私はダリアとスープの準備を始めました。
厨房からもらってきた半端な野菜をポイポイっとお鍋に入れていきます。半端といえども実家よりたくさんあるって切ないわぁ……。
「クズ野菜をこうしてコトコト煮込むのがユーフォルビア流なんですよ〜」
「ご実家の味なんですね」
「そうなの! もちろんカルタムのは格別に美味しいけどね、うちのも素朴な味で美味しいんですよ〜。そーいやダリアってお料理したりするの?」
「カルタムがお休みの日は私が作ることになってます。厨房が空いてる時間にパパッと」
「そうなんだ〜」
ほんと、ダリアってばなんでもできちゃうんですね〜!
おしゃべりしているうちにスープベースがいい感じになってきました。
「パンにバター塗れたよ。おっ、いいにおいしてるね」
そこにひょいっと顔を出したのは旦那様。くんくんって鍋の上で匂いを嗅いで……お子ちゃまですか! まあ我ながらいい感じにできましたけど?
「スープができたんです。ちょっと味見してくださいますか?」
「うん、どれ」
「はい、どうぞ」
私がスープを少しとって小皿に入れたものを旦那様の口元に運べば、それに口を寄せてきて、
「うん! 美味しい!」
ニッコリいい笑顔いただきました!
じゃあ、ベースはオッケーということでお次は具ですね! 具沢山だとさらに美味しくなりますよ〜。
「じゃあ、下ごしらえしてもらったお野菜をここに入れてください。お野菜入れたら吹きこぼれないように見張っててもらえますか〜。たまにかき混ぜてくださいね。……それくらいは大丈夫ですよね? 他に何も入れなくていいですからね?」
私は旦那様に杓子だけを握らせて強く念押ししました。騎士団の二の舞はごめ……げふげふ、素人の『隠し味』ほど頼りにならないものはないですからね!
「それくらい僕にでもできるって! 任せとけって」
「ふふ、ではお願いしますね」
旦那様に杓子を渡しスープを任せたら、私はその間にパンに挟む卵をスクランブルエッグにしていきます。できたものからどんどん挟んで、エッグサンドに。もう一種類は野菜を挟んでベジタブルサンドです。
自由に取ってもらえるよう、大皿に盛り付けました。
「ヴィー、スープはこんなものでいい?」
旦那様がスープの具合を見て私を呼びました。
お野菜がちょうどいい感じにしんなりしているのでオッケーでしょう!
「ちょっと味見……うん、美味しいです〜! サーシス様もどうぞ」
そう言ってほくほくの根菜を少し吹いて冷ましてから旦那様の口に運んであげました。だって旦那様、杓子持ってて手が空いてなかったですからね!
パクリと一口食べてから、
「いいね。スープがいい感じにしみてる」
旦那様、満足そうです。
最後に仕上げの調味料を入れてスープの味を調えます。そこはもちろん私がやりましたよ。
旦那様たち男手にお願いして本館前のテラスにテーブルを並べてもらい、出来上がったサンドイッチとスープを運びました。
普段は一斉に休憩をとることのない使用人さんたちですが今日だけは特別。ご主人様命令で、一斉にお茶タイムです。晩餐の準備で忙しい厨房sも、ちょっと一休みということで出てきてもらいました。
「はいは〜い! みなさん今回は色々ご迷惑かけちゃいました。ごめんなさい! これ食べて疲れを取ってくださいね」
私がスープを器に入れている横では、ダリアとミモザがお茶を淹れています。旦那様とベリスとカルタムは、それを配るウェイターをしてくれています。
「これは奥様が作ってくださったのですか?」
ロータスが旦那様からスープを受け取りながら聞くと、
「それは僕も参加したぞ!」
得意げに言う旦那様です。
「ユーフォルビア流のスープに、サーシス様が野菜を投入して仕上げをしてくれたんですよ〜!」
「そうでございますか! それは味わっていただかないといけませんね」
ロータスがうれしそうに笑って言いました。
使用人さんたちに行き渡ったところで、私たちもいただきます。
「ああ、このスープは優しい味がするね、美味しい。空きっ腹に染みるよ」
いつも以上にご機嫌な旦那様が、美味しそうにスープを飲んでいます。
「たまにはこういうのも楽しくていいですね」
「そうだね。使用人のねぎらいも兼ねて、またやろうか」
「はい!」
サンドイッチもスープも好評で、あっという間に完食でした。
お屋敷じゅう巻き込んでのケンカは懲りましたが、おもてなしはまたやりたいなと思います!
ありがとうございました(*^ー^*)




