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再び、お仕置き

業者さんにお仕置き。ロータス視点です。

 奥様が旦那様と喧嘩をされて、別棟に出て行かれた次の朝。

 私は昨夜の別棟の様子を、アマリリスとステラリアから聞き出しました。

 奥様が別棟暮らしを楽しんでいらっしゃるというのは、まあ、いいでしょう。ポジティブな奥様はちょっとおいといて、気になるのはダリアとミモザの件です。


「––やはり、あの業者にはお仕置きが必要ですね。二度目はありません」

「ええ、きっちりカタをつけてやりましょう、ロータスさん」


 そう言ってにっこり笑うステラリアですが、その背後からメラメラと炎が立ち上っています。ふむ、ステラリアも、業者(の娘)のせいで自分の両親が喧嘩に発展したのでおかんむりのようですね。

 しかしあの業者。以前の愛人騒動の時には見逃してやったというのに……。ふう。仕方のない人ですね。

 もう値段交渉だけでは済まされませんよ?




 その日の午後、私は業者とその娘をお屋敷に呼び出しました。「取引のことでお話があります」という名目でしたが、いそいそとやってきた二人。


 娘の方はお屋敷に来るようになってまだ日が浅く、私自身、娘に会うのは今日が初めてです。

 歳は奥様と同じか、少し上くらいでしょうか。地味な顔立ちだというのに、無理やり派手めの化粧をしているのがなんとも。それ相応にしていれば見れなくはないと思うのですが。

 しかし地味なのは顔立ちだけのようです。


「わぁ! 素敵なおじさまですのね! 初めましてぇ」


 なんとも甘ったるい、鬱陶しい話し方をするバカむ……失礼、娘ですね。

 少なくとも取引先に対して『おじさま』はないでしょう! ……決して『おじさま』と言われたことに腹を立ててるのではありませんよ?

 こほん。まあ、それはおいといて。


「おたくは、娘さんに商売の勉強をさせたいと言って、公爵家に出入りさせていたのですよね?」

「は、はい!」

「公爵家の使用人に声をかけるのも、おたくの教育方針なのですか?」

「め、滅相もございません!!」


 こちらを見て頬を上気させ目をハートにしている娘は無視し、私は業者−−娘の父親を見据えて言いました。

 娘とは反対に顔色は悪く、先ほどからせっせと汗をぬぐっています。


「少なくともうちの料理長、庭師長、門衛に色目を使っていたとの報告が上がっています」

「それは、ええ、と、あの、その……」


 私がわざとらしく指折り数えると、しどろもどろになる業者でしたが、その横で、 


「ええ〜? もっと声をかけましたよぉ〜」


 バカ娘が無邪気に声をあげました。ああ、なんて頭の弱い娘なんでしょうか! 父親が横で頭を抱えています。


「おだまりなさい」


「きゃっ!?」


 我ながら低い声が出たなぁと思います。娘がビクッと肩を震わせました。

 娘の馬鹿さ加減についイラついてしまいました。いけませんね。ちょっと落ち着きましょう。

 私が平常心を保とうと密かに深呼吸していると、


「少なくとも、料理長は『仕事できてるんだから、きちんとしなさい』と言ったはずですわよね? その忠告も無視してさらに色目を使うとは、どういうおつもりなのでしょう?」


 横からステラリアが援護してきました。ありがたい。

 ステラリアの冷たい視線に気付いていないのか、娘は全然悪びれる様子もなく、


「だってぇ、公爵家の方ってばぁ、素敵な方ばかりなんですものぉ〜」


 またバカなことをぬかしましたよ。だらしのない笑い方をして、一人できゃっきゃと喜んでいます。 

 それを見たステラリアから『ブチン』という音が聞こえましたね。ええ、私には確実に聞こえました。

 そして。


「男漁りは他所でなさい! 少なくとも仕事先でするものではありません!」


「きゃっ!」


 ヘラヘラ笑っている娘にステラリアが一喝しました。ドスの効いたいい声です。これにはさすがの娘の顔色も変わりましたね。


「一度ならず二度までも公爵家に迷惑をかけた責任は取っていただきますよ?」


 ニコッ。

 平常心を取り戻した私は、父親の方に笑いかけました。


「ひ、ひぃぃ。お許しを!」

「もう二度目ですからねぇ。前回は値段交渉だけで済ませてあげられましたが……。今回はさすがにもうお値引きできないでしょう?」

「大丈夫でございます! 極限まで頑張りますので! なんとか……」


 その場にひれ伏し『取引停止だけは−−』と懇願する父親の姿を見て、


「申し訳ございません!! 私のせいで取引が中止になってしまうなんて……!!」


 さすがの娘も自分たちの置かれた状況にやっと気づいたのか、父親の横に慌ててひれ伏しました。


「もう二度とお屋敷の方にお声をかけたりいたしませんから! 絶対に!! ですから、なにとぞ−−」


 そして言い募る娘。

 って、まだお屋敷に来るつもりですかこのバカは。……こほん。つい本音が出てしまいました。

 さて、どうしましょうか。この反省を本物と見て今回も許すのか、それとも二度目はないとするのか。

 私の足元にひれ伏す業者を冷ややかに見ながら、今後の対応を考えていると、


「話はついたか?」

「旦那様!」


 旦那様が、使用人用ダイニングの入り口にもたれかかり、無表情でこちらを見ていました。

 ああ、この顔は……密かにずっと我々の話を聞いていたのでしょう。そして娘にイラつきましたね、旦那様も。

 

「はい。それについては今、どうしようか考えているところで−−」


 私が旦那様に答えようとした時。


「わぁぁぁ! とっても素敵な方〜!!」


「「「…………」」」


 舌の根も乾かないうちから!! 娘が旦那様を見て叫びました。

 ひれ伏していた体をがばっと起こし、デレデレとしまりない顔で旦那様を見ています。

 旦那様、ステラリア、私、三者三様ですが絶句しました。父親も信じられないといった顔で娘を見ています。

 旦那様の目が眇められました。ああ、これは不機嫌極まりないということですね。ええ、わかります。


「−−出入り禁止だ」

「承知いたしました」


 旦那様が端的に処分を決めてくださいました。それしかございませんよね。私もたった今、出入り禁止を言い渡そうと思ったところです。今日は気が合いましたね。




「ご迷惑をおかけして申し訳ございませんでした!!」


 さすがに業者も今回は抗いません。

 へこへこと頭をさげると娘の首根っこを捕まえ、引きずる様にしてお屋敷から出て行きました。


 これで厄介な問題は解決しましたね。

 あとはみなさん、ご夫婦間で解決してください。夫婦喧嘩は犬も食わないといいますから。

 −−もう私は知りません。

ありがとうございました(*^ー^*)

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