男たちの会話
前回(73話目)の続き。
旦那様とカルタム・ベリスが寝ずの番をしながらの徒然話。
会話多めです。
ロータスに諭され、早くヴィオラに謝りたくて、僕は別棟に急いだ。
なのにヴィオラの顔を見ることもなく門前払いされてしまったなんて……!
しかも「しばらく別棟で過ごす」って? ああ、もう、凹む。
僕がしょんぼりしながら本館へ戻ろうと踵を返した時。別棟の玄関脇に二つの黒い影を見つけた。
曲者か?!
僕はとっさに身構えたが、よく見ればそれは。
「ベリス? ……と、カルタム!?」
建物に背を預け、腕組みし胡坐をかいて座るベリスとカルタムだった。来た時はヴィオラのことで頭がいっぱいで気付かなかったけど、なんでそんなとこに二人しているんだよ。
そういえば、さっきこいつらも自分の伴侶たちと、なんか険悪なムードを漂わせていたよな?
「……まさか、お前たちも門前払い喰らったのか?」
「まあそういうことでございます」
僕の問いに、カルタムが苦笑いで答えた。そうか、お前たちも仲間か。ん? ちょっと待て。ここからだと、僕が門前払い食らったのもまる見えだったよな? ……かなり恥ずかしい……。いやいや、見えてなかったことにしよう。そうしよう。
「で、ここで何してる?」
「どうせ眠れないのなら、別棟の警護でもしようかなと思いまして。奥様が別棟にいらっしゃるので警備のものはいつもより多めに配置しておりますが、まあ、気分的なものでございます。そしたらベリスが先にいたのです」
「そうか」
ふむ、なるほど。
カルタムの言葉に同感した僕は、二人の隣でドカッと胡坐を組んだ。
「おや、旦那様?」
「……旦那様?」
「うん、どうせ僕も眠れないから、ここで寝ずの番もいいなと思っただけだ」
僕がそう言うと、三人でニヤリと笑う。
「たまにはいいでしょう?」
「……しょっちゅうはしたくないですが」
「だな」
ということで、三人で別棟を特別警護することにした。まあ、たまにはこういうのもいいかな。
「ところでお前たちは何をやらかしたんだ?」
先ほどのエントランスでのやり取りを見るに、どうもカルタムたちが、自分の嫁たちの逆鱗に触れたというのはわかるんだが。
「私は最近、お屋敷に出入りしている業者の娘に甘い顔をしすぎている、とダリアに怒られたんです」
「業者?」
「はい。野菜などを納入している業者ですが、最近自分の娘を取引や納品にこちらによこすのです。なんでも自分の後を継がせたいから勉強させてくれとか言って。それがまた頭の弱い娘で、ちょっと優しく接しただけで勘違いしてしまったのですよ」
「あ〜うん、カルタム、お前『いつも通り』接したのか?」
「ええ、まあ。女性には優しくがモットーでございますから」
そう言って頭を掻くカルタム。いつぞやカルタムがヴィオラと話しているのを見たけど、僕でさえ誤解したからなぁ。ありゃダメだ。
「そりゃ勘違いするだろ」
「ははは。すみません。ですが、勘違いしているのがわかってからは態度を改めましたけど」
「そうか。ちなみにその業者って、アノ業者か?」
「そうでございます」
僕の質問に首を縦にふるカルタム。
僕に愛人がいるとヴィオラに嘘を吹きこんだアノ業者か! 一度ならず二度までも、公爵家に要らぬ騒動を持ち込みやがって……!
あの時はヴィオラの信用を失うかもしれなくて焦りまくった。くそ、思い出しただけでもムカついてきた。
僕があの時のことを思い出しひそかにムカついている横で、カルタムが続けた。
「甘ったるい媚びた声を出すその娘にいいかげんうんざりしていたので、はっきりと『仕事に来てるんだから、きちんとしなさい』と言ったのですが、全然改善されることなく……」
「そんなやつは出入り禁止にしてしまえ」
娘の教育もできないのか。この際、親も娘も両方出禁だ!
僕はカルタムの言葉に、食い気味に言った。
「しかもその娘、私のところだけでなく、ベリスのところや門衛にまで声をかけている始末」
「見境なしか!」
「俺のところには『お屋敷が広くて迷子になった』と言ってふらりと来てから、ちょくちょくくるようになりました」
「そうか。……あまり屋敷内をうろつかれるのは色々拙い」
まさかどこからか送り込まれたスパイとか? 公爵家敷地内をうろつかれるのは問題がありすぎる。
娘のあやしい行動を疑い、僕の顔が険しくなったのを見て、
「娘の身元などは徹底的に調べましたが、スパイということはありませんでした」
ベリスが言った。もう調査済みだったのか! さすがだな。
スパイじゃなければただの尻軽女か。
「そうか。ところで、ベリスはどうしてミモザに怒られたんだ?」
「身元を調べるのに、少し接近していたのを見咎められました」
「そういえばミモザは懐妊中だったよな? 大丈夫なのか?」
「安定はしていますが……。俺も気にはしております。しかし、調査中だったので、やめるにやめられず」
「ああ……それは気の毒だったな……」
接近していたと言っても、向こうが言い寄ってくるのを邪険にせず、したいようにさせていただけというものらしいが。娘の人となりを見てから聞き込みにいったが、まるで裏表なくそのままだったらしい。−−ようするに、頭がお花畑だということだ。
「とりあえず、その業者にはもう一度話をする必要があるらしいな」
「そうでございますね。そちらはロータスが始末すると言っておりました」
「なら安心だな」
ロータス……また仕事を増やしてしまったな。すまない。いや、本当にすまないと思ってるぞ!
ありがとうございました(*^ー^*)




