厄介な手紙
本編120~121話目あたりの裏側。
オーランティアからの親書に、旦那様たちは……。
オーランティア国王からの親書を持って、使者が来たのが昨日。
そこに何が書かれてあるのか、御前会議の場でも読み上げられた。
それには要するに、
『フルール王国と我が国の友好の印として、我が王女をフルール王国のしかるべきお方に嫁がせたいと思う。そしてそちらからまた、しかるべき女性を王太子妃としていただきたい』
ということが書いてあった。
「王太子妃候補は我が王女の誰かがなるとして、だ。問題はオーランティア王女の相手だ。うちの王太子はまだ五歳。しかし対する向こうは二十歳。あまりに釣り合いが取れなさすぎる」
陛下がこめかみを押さえている。そりゃそうだ。五歳と二十歳じゃあまりだもんな。
「使者は何とおっしゃられているのでしょうか」
重臣の誰かが発言した。
「使者というか、手紙には続きがあってですね。……向こうはフィサリス公爵を指名してきているのですよ」
アルゲンテア宰相が苦笑いしながら答えたが。
「はぁぁぁぁ?!」
会議の場というのも忘れて、僕は思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。
「終戦処理でオーランティアの城にいたでしょう? その時に公爵殿を見て一目惚れをしたそうです。公爵殿が既婚者ということも知らなかったようですが」」
「んなバカな」
宰相が説明してくれるけど僕も陛下も、というか、誰もが呆れ顔。
敗戦国のくせに縁談持ち込みしかも相手指名とか、馬鹿じゃね? 敗戦国という自覚ねえよな。
「話にならんな」
「ですよね」
「却下だ」
「もちろんです」
陛下が親書を僕に渡してきた。
確かにそこには『王女をフィサリス公爵に娶せたい』と書かれてあった。
馬鹿か!!
僕は一読した後そのまま破り捨てようとしたんだけど、
「わ~!! それいちおう大事な手紙~!! 破んな、残しておくんだから!!」
と、慌てたセロシアに止められ取り上げられてしまった。
「すぐさま断りの手紙を出そう」
「使者はうちの部下を使ってください。普通よりものすごく速く届けられますから」
「そうしよう。頼んだぞ」
「では陛下はお手紙を認めておいてください。できるだけ早く。私はその間に使者の手配をいたしますから」
「まかせとけ!」
もはや周りの重臣方を差し置いて、僕と陛下で話が進んでいく。まあ、周りも僕たちの話を聞いてコクコクと頷いているから、満場一致に違いないけど。
僕は会議の場を抜け、騎士団の屯所に戻りすぐさまユリダリスを呼び出した。
「なんでしょうか?」
「オーランティアに陛下の手紙を届ける使者の役をやってほしい」
「はい?」
端的に用件を言うと、ユリダリスがキョトンとした。
そうだよな、普通使者は近衛がやるものではないからな。
しかし聡いユリダリスは、すぐにキリリと顔を引き締めると、
「俺に使者をやれっていうところを見ると、何かめんどくさ……ごほん、難しいことでもあるんですか?」
と聞いてきた。
「――めんどくさいことはない。オーランティアが僕に縁談を持ちかけてきたんだ。向こうの王女との」
「あちゃ~。副団長が既婚と知って、ですか?」
「いや、知らないだろ。別に向こうでプライベートな話は一切しなかったし。というか、無駄な話をした覚えがない」
愛想よくした覚えもないし、僕を指名してくる意味が解らん。しかも件の王女……アレだよな。ちっさくてぶよぶよした……。ちょくちょく用もないのに僕たちのところに顔を出していたっけ。「邪魔だからどこかいけ」ということをやんわりとした表現で伝えたのだけど、全然伝わらなかったな。いろいろ空気の読めない女なんだろう。
「ですよね。で、この縁談の件は奥様はご存知で?」
「僕だってさっきの御前会議の場で知ったんだ、ヴィオラが知るはずもない。というか、知らせる気もない、すぐさま断ったし。そしてその断りの手紙を大至急陛下に書いてもらってるところだ。何度も言うがヴィオラに知らせるつもりはないから、お前も黙っておいてくれ」
「おや、どうして?」
「ヴィオラがこの縁談を知ってみろ。『では私と離縁して王女様をご正妻にお迎えください』とか言いそうだろ……」
僕は頭を抱えた。
ヴィオラにこの縁談のことを知らせないのは、この一言を聞かされるのが怖いからだ!
「あー……」
ユリダリス。かわいそうな子を見る目で僕を見るな!!
「だ・か・ら! 僕とヴィオラのことをよ~く知ってるお前が使者に立って、向こうで『公爵には最愛の妻がいるから、この縁談は絶対ありえない』ということをしっかり伝えてきてほしいんだ。いつもの使者では不安だからな。お前なら大丈夫、安心して使者を任せられる!!」
僕は勢いよく顔を上げ、ユリダリスに白羽の矢を立てた理由をまくし立てた。
「わかりました。副団長と奥様の幸せのためにも、ここは頑張ってきましょう」
「頼んだぞ!」
快く使者を引き受けてくれたユリダリスには感謝する。
そして数刻後。
異例の早さで『この縁談はお断り!』の手紙を認めた陛下。それを受け取ったユリダリスが、馬をかっ飛ばしてオーランティアに向かったのだった。
ありがとうございました(*^-^*)




