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ミッション:『ヴィオラ・サファイア』をゲットせよ!

書籍第三巻発売記念リクエストより♪

『ヴィオラ・サファイア』が欲しい、綺麗どころトリオ。

手下(w)を使ってミッション遂行しますが……

「『ヴィオラ・サファイア』なるものを、フィサリス公爵家が売り出すらしい」

「最高級品は『ヴィオラの瞳』というらしい」

「まだ世間には出回ってないらしい」


 近衛騎士団の屯所内にある休憩スペースで、綺麗どころトリオが額を突き合わせて何やらヒソヒソと話している。どうやら彼女らの話題は、先日行われたアルゲンテア家の夜会でお披露目された『ヴィオラ・サファイア』についてのようである。

 

「すっごく綺麗だったってうちの弟が言ってた。くそう、私も見たかったわ~!」


 美しい銀糸の髪をきっちりまとめた頭を抱え、悔しそうに歯噛みするアンゼリカ。


「あ~、アンゼリカんとこの弟くん、こないだの夜会に呼ばれてたんだ」

「アンゼリカの実家って、子爵家だもんね。弟くん、白羽の矢が立ったんだ」

「うちの実家に公爵家のお嬢様なんて不釣り合いだと思うんだけどねぇ、是非にって招待がきたのよ~」

「アンゼリカの弟くん、イケメンだし仕事できるしアルゲンテア宰相の覚えもめでたいからね」

「ただの猫っかぶりなのに……って、うちの弟の話じゃなくてっ! サファイアの話っ!」


 ヴィオラ・サファイアの話をしていたはずが、いつの間にか自分の弟の話にすり替わっているのに気付いたアンゼリカが、ハッとなって叫んだ。


「「そうだった」」


 ニヘッと笑ってごまかすカモミールとアルカネットをじとんと一瞥してから、コホンと咳払いを一つしたアンゼリカは続けた。


「宝石商に聞いたら、まだサファイアはロージアに届いてないらしいわ」

「ポミエール? じゃあこないだの夜会でお披露目されたやつは?」

「お披露目用にって、先に採られたサンプルで作らせたらしいよ」

「「なるほど~」」


「でも、夜会で奥様が身に付けていた、なおかつ『ヴィオラ・サファイア』なんて名前ついてる宝石よ? 王都に出回りだしたらあっという間に品薄になっちゃうんじゃない?」

 

 難しい顔になるアンゼリカ。


「そうよね。奥様に憧れてる若いご令嬢だけでなく、公爵家に媚びたいだけの下衆い貴族なんかも手に入れようとするだろうしね」


 険しい顔になるカモミール。


「品薄になる前に手に入れたい!」


 きりっと言い切るアルカネットに、


「いやいや、一番に手に入れて見せびらかしたい! でしょう」


 そこは違うとツッコミを入れるアンゼリカ。

 そして。


「「「要するに、誰よりも早く『ヴィオラ・サファイア』をゲットしたい!」」」


 三人の息が合った。




『ミッション:誰よりも早くサファイアをゲットせよ』。

 三人は「どうやって」「いち早くヴィオラ・サファイアをゲットするか」という議題について話し合いをしている。


「もうさ、ポミエールの店先で、サファイアが到着するのを張っとく?」

「到着次第買い付ける、と」

「いやいや、私らそんなに時間ないでしょ」


 いちおうこの三人、王宮警備隊に表向きは所属していて(本編112話参照)、しかも女性騎士なので主に後宮内部を警備している。男性騎士よりも女性騎士の数がはるかに少ないため、自由がきく時間が少ないのだ。


「よし! あいつら(・・・・)使うか」


 ハッと閃いたアルカネット。


あいつら(・・・・)なら私たちよりも自由がきくし頭数も多いから、代わる代わる店先を張らせたら隙間なく見張れるじゃない」

「いいね~!! こういう仕事は得意だし?」

「サファイアが到着次第、私たちの名前でサファイアを買い付ける、と!」


 いい案が浮かんだと、満足気に大きく首を縦に振る三人。


「ちょっと探して引っ張って来よう! ……休憩時間はまだあるわね。捕まえたあいつらに説明する時間も考えて、捜索に許容できる時間は次の『刻の鐘』(※1)が鳴るまで。そして狩ったらすぐここに捕縛」


 もう『あいつら』は『狩り』の対象と化している。

 カモミールが素早く頭の中で計画をたてていく。もはや本物のミッション並みの真剣さだ。


「「おっけ~!!」」


 キラリ、と輝く三人の瞳。この様子を騎士団メンツの誰かが見ていたら震え上がっていただろう。

 かくして三人は『元・特務師団メンツ』を狩りに……ではなく拉致りに、もとい、探しに、王宮内へと散っていった。


 そしてタイムリミットの『刻の鐘』が鳴った頃。たまたま(不幸にも?)休憩中だった六名の元特務師団メンツが捕獲されていた。




『ヴィオラ・サファイアがいつ店に運ばれてくるか、見張っててね☆』


 という綺麗どころトリオの威圧感たっぷりのお願いに頷いた元特務師団メンツは、休憩時間ごとに代わる代わるポミエールの店を張り込みしていた。

 

 そして数日が経った頃。


「お前ら、あいつらを使ってポミエールの店を張らせているらしいな」


 綺麗どころトリオが休憩しているところに、ひょっこりフィサリス副隊長が現れて言った。


「誰かチクった?」

「見つけ次第締め上げねば」


 目配せしながらひそひそと話す三人。

 そんな三人を呆れ気味に見ている副隊長だったが。


「お前たちが『ヴィオラ・サファイア』を欲しがってると聞いたのだが?」


 ため息交じりにそう言うと、


「奥様のサファイアですよ? 早く手に入れたくて!」

「ぼやぼやしてたらすぐなくなりますもん!」

「そうですよ!」


 くってかかる三人。

 

「だからってアホかお前らは。努力の方向を間違ってるだろう! ため息しかでないぞ。……まあいい。ヴィオラがお前たちに用があるらしいから、今夜うちに寄ってくれ」

「え? 奥様が?」

「久しぶりですねぇ」

「なんでしょうねぇ?」

「それと、あいつら(・・・・)をミッションから解放してやれ。いいな」

「「「はあい」」」


 三人が首を傾げているのを放置して、さっさと踵を返してその場を後にする副隊長だった。




 その夜、副隊長と一緒にフィサリス公爵邸を訪れた三人に、


「お姉様方、サファイアをご所望だとお聞きしました。言ってくださればプレゼントさせていただきましたのに! ポミエールのお店のはもう買い手がついているらしいので、新しく採れたものを差し上げますね。急いではいるのですが、なにぶん自然のものですから、いつ出るかわかりませんの。ちょっとお待ちくださいませね」


 ヴィオラが満面の笑みでそう告げた。


「「「最初から奥様に言えばよかったのかー!!!」」」


 脱力する三人だった。


 ちなみに、張り込みに駆り出された騎士団メンツには、ピエドラ特産の工芸品(商品にならない石を使った髪飾りやブローチ。本編106話参照)がプレゼントされたのだった。




*** おまけ ***


「姐さんたちの『お願い』って、あれ、『お願い』じゃねぇよな」

「『強制』だよ、あれは」

「語尾に『☆』とか『♡』とかついてても、目が笑ってねえもんなぁ」

「あれを突っぱねられるやつなんていねーよ。いたら勇者だ」

「オレ、命は惜しい」

「オレもだよ」

「『お願い』断った時に容赦なく受けさせられる地獄のしごきよりも、『お願い』聞く方がマシ」

「んだんだ」


※1『刻の鐘』:王宮で鳴らされる鐘。『時の鐘』が、始業時間、休憩開始時間・終了時間、終業時間に鳴る鐘で、『刻の鐘』は、休憩時間の半分でなる鐘のこと。あくまでフルール王国の王宮で、です。



ありがとうございました(*^-^*)


裏説53話目にも「あの日の公爵家」を割り込み投稿しています。よろしければそちらも覗いてやってくださいませ!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 小話、面白いです! [気になる点] 誤字報告ができなかったので。。「綺麗どころトリオが休憩しているところに、ひょっこりフィサリス副団長が現れて言った。」 フィサリスさんは団長さん??
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