ヴィオラについて
活動報告より
~ミモザの証言~
初めてお会いしたのは、旦那様と奥様の結婚式の当日でございました。私が奥様のお支度を担当させていただいたからでございます。
お支度をするための部屋にすでにおられた奥様は、本当に素朴な普通のお嬢様でございました。一番印象に残ったのは、そのはっきりとしたサファイヤブルーの瞳でしょうか。生き生きとした輝きを秘めていたのです。きっとこの方は怜悧な方に違いない、そう直感したのでございます。
今まで髪も肌も手入れなどしたこともないとおっしゃっていましたが、私が少し手を加えさせていただくだけで、王女様もかくやと思われる美少女に変身してしまいました。ええ、けっして私のメイク技術やドレスの補正なんかのせいではありませんよ! ウェディングドレスをまとった奥様は、透明な輝き、儚げな美しさで、思わず私もうっとりと見入ってしまいましたわ。
今はまだ何も手入れされていなくて無造作に束ねられていたストロベリーブロンドも、健康そうに血色のいいなめらかな白い肌も、もっともっと手入れをして輝かせたい。立ち姿も無駄なくすらりと美しい。このお嬢様はきっと宝石の原石なのだと私は確信いたしました。この原石を磨くのは私の天職です。きっとそうです! ですから、お邸にいらっしゃった暁には、私がお嬢様をうんと着飾って、うんと磨いてさしあげるのですわ! うふふふふ~。想像するだけでもわくわくしちゃいますわ! ……っと、よだれよだれ。
でもどうしていつも「私は地味ですから~」と卑下なさるんでしょうねぇ? 軽くメイクしただけですのに『特殊メイクだ!!』と驚かれますし。ご自分の価値がまだ分かっておられませんね。
~ダリアの証言~
結婚式を終えて、旦那様に伴われてお屋敷に帰ってこられたのが初めて奥様にお会いした時でございました。忙しない一日を送られたせいでかなりお疲れのご様子でしたが、次の日にはすっかり回復されておられたのにほっといたしました。
お屋敷や奥様自身をちっとも顧みない旦那様を嘆くでもなく、むしろ鬱々となりがちだったお屋敷を活性化させるために、ご自身で色々すると言い出した時にはどうしようかと思いましたが。しかし奥様は、いつでも使用人の目線で考え、決して上から命令するようなことをなさらないので、結果的に使用人からも慕われ、お屋敷自体も活気に満ち溢れてきました。いざという時には冷静に指示も出せる。お若いのにしっかりした方でございます。アノ旦那様でしたから、このように素晴らしい奥様をお迎えできるとは夢にも思いませんでした……! ああ、申しわけございません。つい感情的になってしまいました。……こほん。ですから、私ども使用人一同、これから先も奥様を全力でお守りしてゆきたいと思っております。しかしご本人はどんどんたくましくなっておられますが……。
~ロータスの証言~
旦那様が突然私を執務室に呼び出し「結婚することにした」と言い出した時には、さすがの私も少々固まってしまいました。別棟のお連れ様に惑溺されているアノ旦那様がです。
「お連れ様とご結婚されるというのですか?」
「そんなの、誰も認めてくれないだろうが」
「では別の方とご結婚されるということですね」
「そうだ」
誰もかれもに反対されているお連れ様との結婚を、とうとう力技で押し切るのかと思いましたが、どうやら違うようでホッとしました。
「では別棟の方とはお別れになるのですか?」
差し出がましいとは思いつつも確認したところ、
「まさか。周りを黙らせるためだけの上辺だけの結婚に決まってるだろう。向こうもそれは承知だ。ああ、そうそう。相手はユーフォルビア家の令嬢だ」
と何でもない事のように言う旦那様を、私は鬼畜だと確信いたしました。ユーフォルビア家といえば、由緒は正しいけど最近どうやら台所事情が危ないともっぱらの噂の伯爵家です。
私が頭の中でユーフォルビア家について思い出していると、
「ユーフォルビア家の借金を肩代わりすることになったから、手配を頼む」
やはりそういうことでしたか。私は思わず天を仰ぎたくなりました。この鬼畜お坊ちゃまめ!!
「……かしこまりました」
心の叫びは心のうちに押し込めて。私は努めて冷静に返事をします。
借金肩代わりの見返りとして、この鬼畜な条件の結婚を承諾させられた可哀相な令嬢。この時点で、私はまだ見ぬ奥様にご同情申し上げました。結婚するが愛人と別れる気は全くない。そして奥様を大事にする様子もない。旦那様がこの様子ならば、奥様は幸せになどなれるわけがない……。ならば私たち使用人だけでも、少しでも奥様に居心地のいい場所だと思っていただけるように心がけよう、と決意いたしました。
実際お輿入れしてきた奥様は……。まあ、マイペースでポジティブなので胸をなでおろしましたが。それでもしっかりと守っていこうというのが、今の公爵家使用人一同のスローガンでございます。
今日もありがとうございました(*^-^*)