貸切パーティ ~お店側編~
活動報告より、加筆修正。
本編67話目の裏側♪ レモンマートルの菓子屋さんのオーナーさんと店員さんの証言デス♪
~ オーナーパティシエの証言 ~
王都でこうして店を構えるようになってまだ半年足らずで、そんな貸切パーティなどしたことがございませんでしたから、急に騎士団の方から『店を貸し切りたい』とおっしゃってきた時はびっくりしましたよ。
『昼過ぎから夕方まで貸し切る。この店で一番いい席だけは空けておく、スイーツはふんだんに用意しておく』というご指示付きでした。一番いい席を空けておくというのは謎だったのですが、当日になってその意味が解りました。サプライズの催しだったのですね!
上司と、その奥様を喜ばせようという企画。いやはや、見ていて温かい気持ちになりましたよ。その上司様は余程慕われていらっしゃるのだなぁと思いましたねぇ。
ですから私どもも、腕によりをかけておもてなしさせていただきましたよ!
ああ、でも私は工房でせっせと菓子を作るのに忙しかったので、店内の様子はあまりわからなかったのですよ。そちらは店の者に話を聞いてもらってもいいですかね?
~ 接客係の娘の証言 ~
騎士団ご一行様がお店に入ってくるなり、先頭の男の人が私に向かって、
「どこが一番いい席かな?」
って聞いてきたので、
「あそこの、隣の公園の花壇がきれいに見える席です」
指し示して答えたら、
「そうですか。おーい、聞いてたか~? あそこは空けておけよ~」
と、後ろに続いていた連れの方たちに声をかけていた。なんで一番いい席をわざわざ空けるのかしらと不思議に思っていると、
「しばらくしたら二人連れが来ると思うんだよ。やたら美形の男と可愛い女の子なんだけどね、そいつらが来たらここに案内してやって?」
とお願いされた。なるほど、そういうことだったのね。だから私は、
「わかりました」
快く了承したのだった。
事前に『今日は貸切です』と書いた札をかけないでくれという指示があったので、貸し切られていることを知らないお客様が来るたびにお断りするのはちょっとしんどかったわ。
「それならそうと書いとけよ!」とお怒りになったお客様に絡まれそうになった時には、すぐさま騎士様たちが助けてくれたからよかったけどね。
そうやってお断りすること何組か。
また何も知らなさそうなお客様がいらっしゃった。あ~またお断りするのかめんどくさいなぁと思い、けだるげになりがちな顔を引っ込め、素早く営業スマイルに切り変えて入り口に向けた途端、私はびっくりして息が止まるかと思ったわ。
だってだって、そこにいたのはと~っても素敵な方だったんだもん。
まるでおとぎ話の中に出てくる王子様のような男の人だった。
「二人なんだが、席はある?」
思わずぽーっと見惚れている私に、王子様はニッコリと笑いかけながら聞いてこられた。
お声も素敵! と、そこでハッと我に返った私は、先程聞いていたことを思い出したの。『美形と可愛い女の子が後からやってくる』って言ってたわよね、騎士団の人。
『美形』はきっとこの方のことだろうとすぐにピンときた。そして男の人の後ろを見ると、やっぱり、可愛らしい女の人がいた。ビンゴだろう。
店内を確認するふりをして先程指示をくれた人の方を見ると小さく頷いたので、この方たちで間違いない。
「お二人様ですか? ええ、大丈夫ですわ。ご案内いたしますのでどうぞ」
私はそう言って、とっておいた一等席に案内した。
店内というほんのちょっとの距離なのに、美形さんがとってもナチュラルに連れの女の人をエスコートしていたのが目に入った。ああ、この人のことを大事にしてるんだなぁということが伝わってきて、自然に笑みがこぼれてきたわ。ちょっぴりうらやましいとも思ったけどね。
しかし、みなさんお知り合いということなのに、まったく素知らぬ顔して各々お茶やケーキを楽しんでいるのが不思議。テーブルごとに不干渉というか、他人のフリ?
でもみなさん、最後に来られた美形カップルの方を熱心に観察しているのは同じ。
気付いていないのは美形カップルのみという状況。なんなんだろう?? 誰かこの状況を説明して?
私も美形カップルをそれとなく観察してみたけど、どこにでもいるラブラブカップルのようにしか見えない。
しばらくすると、カップルにも周りの状況がわかったようで、美形さんは呆れ顔して頭を抱えてしまい、女の人は綺麗なお姉様方に囲まれてしまったようだった。
そうなるとみなさん正体をばらしたのか、先程までのよそよそしさはどこへやら、店内はすっかりスイーツパーティーの様相を呈してきた。
ドンドン注文が入り、私だけでなく接客係全員がフル稼働でありったけのケーキを運んだわ。
わたわたとケーキやお茶、飲み物(うちにはお菓子に合うお酒も少し用意しているの)を運びながらも、私はカップルを観察し続けた。なんというか、目が離せないんだよね。
しばらくすると、美形さんが女の人にケーキをおねだりしたみたいで、女の人は名残惜しそうにしながらも切り分けたケーキを載せたフォークを差し出したんだけど。
何と美形さんは、そのまま「あ~ん」してもらったかのように、ぱくっと食いついてしまったじゃないの!!
それを見ていたほぼ全員、一瞬息をのんだ。しかし二人はその縛りにあらず。
呆れ顔で美形さんを見ている女の人。
ご機嫌な美形さん。
ああもう! ごちそうさま!!
一瞬のフリーズから戻ってきた周りの方々は、ニマニマとしながら二人の様子をさらに見ているけど、周囲の視線に気付かない二人は、その後もずっと「あ~ん」でケーキを食べていた。
美形カップルなので目の保養にはなったんだけど、なんでこんなに胸焼けがするのかしら……?
いやいや、お客様に対してそれは失礼よね。
それでも見ないふりをしながらガン見するという、高スキルを発揮した私だった。
後でオーナーから聞いてわかったんだけど、あの美形さんが『フィサリス公爵様』だったんだね。『超名門貴族で超美形』っていう噂は聞いたことがあるけど、私たちみたいな庶民がそんな雲上人のお姿を見ることなんてほぼないから初めて見た。でも本物を見て納得。すっごい素敵だったもんね! 今度友達に自慢しちゃおっ! ……って、それはまあいい。一緒にいたのが奥様だそう。こちらはとっても可愛らしい人で、ああ、お似合いってこういうことなんだなぁって思ったわ。
公爵様がとっても奥様を気遣っているのを見て、私もあんな素敵な旦那さんに巡り合えたらいいなあなんて夢を抱いちゃったわ。
今日もありがとうございました(*^-^*)




