ヴィオラがいない!
活動報告より。旧題『ヴィオラの里帰り』。本編49話目あたりの裏側。
ヴィオラが高価そうな置物を破壊して凹んで里帰り。その晩に旦那様が伯爵家に迎えに行くまでのお話です♪
いつも通り、仕事を終えて屋敷に帰ってきた僕。一番にヴィオラが出迎えてくれたらいいのにな~と思うけど、開いた扉の向こうにはロータス。……いつも通りだ。
「ただいま帰った」
「お帰りなさいませ」
そして繰り返されるいつもの会話。早くヴィオラが出てこないかな、と気がせくけど。
「今日はどうだった」
「特に変わりはございませんでしたが、奥様がそこにあった置物を落とされまして」
そう言ってしれっと空になった台座を指さすロータスの指先を追い、視線を動かす。そしてそこをじっと見て、何があったかを思い返す。
は?! あそこは何か置物が置いてあったよな? ……それ、今ロータスが言ってたな。どんなだったかはっきり覚えてないけど、重たそうな壺みたいな何か。え? それをヴィオラが落としたって? いや、ちょ、まてよ!
顔色が変わるのが、自分でもわかった。
「は?! あれは確か割れ物だったと思うんだが? で、ヴィオラは? 怪我はなかったのか?!」
慌ててロータスに確認する。
「はい。幸いにもお怪我はありませんでした」
「はぁ~。ならよかった」
大きく息を吐けば、知らず入っていた力が抜けるのを感じる。何事もなかったように答えるロータスを見ると、本当に大丈夫だったんだろう。あ~、びっくりした。
万が一、ヴィオラの上に落ちてきでもしろ。打ち所が悪かったら大変なことになってたとこだぞ! まあそんなことになってたら、今頃こんなに悠長に会話なんてしてないだろうけど。
やっぱり早く、ヴィオラ出てこないかな。この目で無事を確認したい。
なんてことを思いながら、僕がヴィオラがいつも駆け下りてくる階段に意識をとばしていると、
「しかし」
「しかし?」
ロータスが続けてきた。なんだ、続きがあるのか? 階段から視線を外してロータスを見ると、
「お値段の張る飾り物を壊したとたいそう気に病まれ、落ち込まれている様子でしたので、ご実家での静養をお勧めいたしました」
ん? 実家で静養?
「え?」
「ですから、奥様は只今ご実家におられます」
「何?! 実家?! 実家で静養しないといけないくらい、ヴィオラは落ち込んでいるのか?」
「はい」
「……そんなにひどく落ち込むほど、大事な置物だったか?」
あれって、確か先々代、つまり僕のおじい様が気に入って飾っていたものだったよな。高価と言えば高価だけど……。
「いえ、それほど大事なものではありません。むしろあれが壊れたことを知れば、先代様は喜ばれるかもしれません」
父上は『趣味じゃない』とか言って嫌そうにしてたよな。移動させるのがめんどくさいだけで、あそこに飾ってただけのものだ。だから大事なものでもないし、ひどく落ち込むものでもない。
「だよな。それをヴィオラは知ってるのか?」
「いえ、ご存じありません。というか何も聞く耳持たずの状況になってしまわれて」
あ~……。なんかちょっとわかる気が……。
「そうか。……で? いつ帰ってくるんだ?」
「さあ? ごゆっくりなさってくださいとしか申し上げておりませんので」
「おい!! 期限を設けろよ! 期限を!!」
「はあ」
「もういい! 今から迎えに行ってくる!」
「お夕飯時かと思われますが……」
「構わん! 行ってくる!!」
ロータスは止めにかかったけど、そんなの聞けるか。
僕は入ってきたばかりの扉をまた飛び出し、厩に向かった。
「……やっぱりゆっくりなどできませんでしたね~」
ロータスがボソッとつぶやいていたなんて知りもせずに。
今日もありがとうございました(*^-^*)




