犯人を捕まえろ!
本編205〜206話目の、ロータス視点です。
公爵家領地に来て発覚した『ヴィオラの瞳』原石盗難事件。これまで気付かなかったとは一生の不覚っ……という反省は後からすることにして、今は目先の犯人を捕まえることが先決です。私とステラリア、フェンネルと他こちらの使用人数名で、調査にあたることになりました。
「オレガノの合図が出ましたら、鉱山内に入りましょう。出てきた現場長は——」
さて、尾行からの見張りを、誰にしましょうか。
「それなら彼らを使うといい。ここの土地に慣れているからな」
私が考えていると、フェンネルが、後ろに控えていた使用人を指しました。確かに、もし万が一見張りに気付かれ逃走されても、土地勘があれば探しやすい。
「では、尾行と見張りをお願いします。私とリア、フェンネルさん、オレガノとでこちらの小屋を調査しましょう」
「さっさと済ませてしまおう」
「はい」
「ああ、フェンネルさん、リア、合図です。行きましょう」
分担が決まったところで、オレガノから合図がでました。ゾロゾロと帰途につく坑夫に紛れて、尾行班は現場長の後を追い、私たちは小屋へと向かいました。
小屋の中にある全ての資料を調査し終えたのは、夜中、日付が変わるくらいだったでしょうか。四人で手分けして〝公爵家に提出された報告書〟と〝現場長が保管していた報告書〟を突き合わせました。単調な作業ですから、さっさと終えるべく黙々と作業いたしましたよ。おかげで覚悟していたより早く終わりました。
「……ふう。これで全てのようですね」
「はい」
山積みの資料の中で一斉に背伸びをしたのには、一体感を感じましたね。
「資料からは、五個ほど数字が合わないですね」
「この小屋の中には隠していないようです」
いちおう、小屋の内部に原石を隠していないかも確認していましたが、残念ながらありませんでした。
「隠し場所……となると、次に怪しいのは現場長の自宅でしょうか」
「おそらく」
「それは明日の作業になりますね。ここでできることはもうなさそうです」
あとはこれを元通りに戻すだけで、今日の調査は終わりです。
「片付けは我々でやっておきますから、リアは一旦屋敷に戻って休みなさい」
「えっ? 私もお手伝いします!」
ステラリアが反抗しましたが、婦女子をこんな時間まで働かせているのでさえ良心が痛んでいるというのに、これ以上はさすがにダメですよ。しかし、普通に言って、ステラリアが言うことを聞くとは思えません。
「いいえ。リアは女の子でしょう。夜更かしは美容の敵ですよ」
「うっ……!」
効いたようですね。では、もう一人。
「フェンネルさんも、帰って休んでください」
「私も手伝えるぞ!」
「こんな時間にリアを一人で帰すわけにいかないでしょう? それにご老体は、もうお休みの時間です」
「老人扱いは腑に落ちんが、可愛いリアのためなら仕方ない」
「はい。これ以上心強い護衛はいませんよ! よろしくお願いしますね」
「うむ。任せておけ」
こちらも素直に(?)帰ってくれるようです。
二人が帰った後、オレガノと二人で資料をきっちり元に戻しました。……捜査があったなんて思えないくらいにきっちりと。
「では、我々も仮眠をとりましょうか。明日もまだ忙しい」
「そうですね」
別荘に帰る時間も惜しいので、私たちはオレガノの事務所の仮眠室で休むことにしました。
「明日、現場長が出勤きてきたら、うちの使用人と一緒に現場長を見張っていてください。私たちは入れ替わりに現場長の自宅に行きます。証拠が揃い次第護衛官と共に戻ってきますので、現場長の身柄の引き渡しをお願いします」
「わかりました」
軽く明日の流れを打ち合わせして、私とオレガノも仮眠をとりました。明日も引き続き忙しいですからね、休める時にしっかり休んでおかないと。
そして朝。念の為早目に起きて待っていると、門を見張っていたオレガノが戻ってきました。
「現場長がきました」
「では、こちらは任せますね」
私は現場長の家に急ぎました。時間はありません、さっさと原石を見つけてしまわないと。
現場長の家の前では、すでにフェンネルとステラリアと別荘の使用人が待っていました。
「おはようございます。昨日は早く帰れたおかげで、肌調子もいいし、体調もバッチリですよ」
「ふふふ。リアは朝から元気ですね」
「私も元気だが?」
「そうですね。フェンネルさんも、リアに負けず劣らず肌がピカピカですよ」
「うむ」
「さ、早くやってしまいましょう」
ちょっとした秘密の道具を使って家の中に入ると、そこは一人暮らしの男の部屋らしく、散らかって……いや、適度に荒れていました。
「雑だけど、こういう人物に限ってどこに何があるか把握していたりしますから、抜かりのないように」
「はい」
部屋の中を手分けして探します。広くはない家、すぐに終わるでしょう。
「手紙の類もしっかり確認してください。もしかすると後ろに黒幕がいるかも知れませんので」
「わかった」
現場長の単独犯か、もしくは裏でどこかの貴族が糸を引いているか……?
「ありました!」
すぐに使用人から声が上がりました。そこは食器棚……のような戸棚。いや、食器以外にも訳のわからないものが並んでいるので、多分食器棚、ということで。使用人が手にしていたのは、古ぼけた小ぶりの麻袋。紐を解くと、中から大粒の原石が出てきました。
「このサイズ、質、全て『ヴィオラの瞳』の原石ですね」
「ああ……。昨日の調べ通り、きっちり五つ。よくもまあ」
一緒に石を確認したフェンネルも呆れています。
『ヴィオラの瞳』の原石も見つかったことですし、ひとまずこれで、私たちの調査は終了です。ちょっとした視察旅行のはずが、まさかこんなことになるとは……。
まあしかし、傷が大きくならないうちに事件解決できてよかったと思いましょう。反省と再犯防止の件は、帰ってから考えることにします。
ありがとうございました(*^ー^*)




