お供物の効果?
本編198話目あたりの裏側。
お姉様s視点……かな?←
「奥様が大変なことになった」
「私、とても、心配」
「ほんとに。大丈夫かしら?」
ヴィオラとバイオレットに会いに行ったその日、思いもしなかった出来事に遭遇したサーシスの部下たち。
さすがにその場に残るようなことはなく早々に立ち去ったものの。
「このまま様子を観察していたいところだけど、なにせここはフィサリス公爵家」
「——そう簡単に情報収集はさせてくれない」
「ほんとそれ。難攻不落なのよね〜」
「ということで粘るだけ無駄。明日直接副隊長に聞きましょ」
「そうしましょ」
ここはあっさりと退散していった。
次の日。
朝からアルカネットが難しい顔をして自分の席に着いていた。
「どうしたどうしたアルカネット。眉間にシワが寄ってるわよ」
「——無視された」
「ん? 誰に?」
「副隊長に」
アルカネットの返事に、ピシャーンと雷に打たれたようなリアクションをとるカモミールとアンゼリカ。
「なん……だと?」
「どういうことか、詳しく聞かせてくれたまへ」
さっと自分の椅子をアンゼリカの近くに持ってきて、聞く態勢をとった。
「私が今朝、副隊長を見かけたので『おはようございます、奥様のお加減はどうですか?』と聞いたら」
「聞いたら?」
「スルーされた」
「マジか」
「それは感じが悪い」
しかしいつもの副隊長らしくないなと、感じる二人。そしてアルカネットも、〝あ、誤解されてる〟と気がついたようで、
「誤解のないように言っておくけど、感じ悪くスルーされたんじゃなくて〝心ここにあらず〟という感じだったわ」
言葉足らずごめん、と付け足した。
「そうか……。副隊長が心ここにあらずってことは……」
「奥様の容体が芳しくないってこと……」
「おそらく」
「「「おぅ……」」」
だからアルカネットが険しい顔をしていたのかと、納得するカモミールたち。そして三人同じように険しい顔になる。
「頭を打ったって言ってたからなぁ」
「昏睡状態なのかしら?」
「とても副隊長から聞き出せるような状態じゃなかったし」
「こういう時は小隊長の出番か!」
「そうだそうだ、小隊長に聞こう」
ということで三人はユリダリスのところへ、ヴィオラの様子を聞きに行ったのだった。
ユリダリスから『奥様の体調がよくないみたい(かなり婉曲)』と聞いた三人。
「だからあんなに茫然自失状態だったのか」
「奥様大好き副隊長だもんね」
「おいたわしや」
視線の先にはサーシスのいる執務室のドア。
「朝からこもりっきりね」
「あ、そうだ。私副隊長にサインしてもらわないといけない書類あったんだわ。ちょっと持って行ってくる」
「ついでに様子見ヨロ!」
「りょ!」
カモミールはビシッと敬礼すると、自分のデスクに戻って行った。
「失礼しま〜す。副隊長、この書類に目を通してサインお願いしま〜す」
カモミールが執務室に入ると、サーシスは黙々と書類の山と格闘していた。
「副隊長、聞いてます?」
「うん」
「これ、お願いします」
「うん」
ほぼ無意識にカモミールから書類を受け取ると、物凄いスピードで文書に目を通し、
「ここの数字は?」
「あ、はい、多めに予算を組んでいます」
「残ったら返せ。領収書つけて」
「はい」
などなど、的確に質問を入れ確認していく。
機械的に書類を捌いてるんじゃないところがすごいのよねぇ。
カモミールが驚いている間にも書類は確認され、サインがされていた。
「きっと仕事に集中することで現実逃避してるんですね。おいたわしや」
デスクの端には、食べられた形跡のない昼食が置かれたままになっている。
「これは、奥様に。それと、副隊長も少し休憩された方がいいですよ」
と言って、庭園からもらってきた一輪の花と焼き菓子(休憩用に常備している)を、そっと昼食の横に置いた。
「なんか、痛々しいくらいに集中してたわ」
「そっかぁ」
「昼食も食べてなかったし」
「え? マジ? つーかさっき、小隊長と一緒に鍛錬場出ていかなかった?」
「ご飯食べずに鍛錬? そんなの倒れるって」
「そんなに追い込まなくても……。後で私も差し入れしとこ」
「私も」
〜少し後〜
「失礼しま〜す。うわ、カモミールの言ってたこと、本当だった」
アンゼリカが見たのは、書類に没頭するサーシスの姿と、手がつけられた感じのない昼食とお菓子。と、花。
「書類、置いておきますね〜。あとこれも」
用件の書類を置くと、カモミールが置いた菓子の横にキャンディと、こちらも庭園からもらってきた花をそっと置いた。
〜また少し後〜
呼ばれたのでアルカネットが執務室に行くと、渡されたのは抱えるほどの書類の束。
「目を通してサインしてあるから、関係各所に持って行ってくれ」
「はい。そろそろ何か食べたほうがいいですよ」
「ん」
返事はしたけどすでに次の書類を手にしているサーシス。
「こりゃ聞いてないな」
アルカネットはため息をつき、持っていたチョコと花を机に置くと、書類を抱えて出て行った。
綺麗どころトリオを見習ったのか、なぜか他の騎士団メンツも執務室に入る時は菓子と花を持って行った。
そして仕事を終えたサーシスが。
「……なんだこの花と菓子の山は」
「お供物ですかね」
いつの間にかデスクの端にこんもりと積み上がった花と菓子を、険しい顔で見ることになったのだった。
翌々日。
ユリダリスから『奥様が無事に元気になった』と聞いた、綺麗どころトリオと騎士団メンツたち。
「はあ〜! よかった!」
「奥様元気になられてホッとしたぁ」
「これでまた会いに行けるわ」
「「それな」」
喜ぶ綺麗どころトリオ。
「しかし副隊長って、奥様絡むと異常に仕事できる人になるよね」
「「それな」」
ありがとうございました(*^ー^*)




