ミモザの決意
本編197話目くらいの裏側♪ ミモザ視点です♪
あの時私は、まだ少し寝ぼけているバイオレットお嬢様を抱っこして奥様の後を追いかけ、旦那様のお出迎えに行くところでした。
階段のところで、奥様が足を滑らせひっくり返るのを目撃していました。
「奥様っ……あ、そうだ」
私の腕の中にはバイオレットお嬢様。お嬢様に、お母様の異常をお見せするわけにはいきません。咄嗟に私はお嬢様の顔を自分の胸に押し当てました。
「むぐ……なあに? みもじゃ」
「うふふ、なんでもありませんわ、レティ様」
階段の下ではダリアさんやステラリアさんが、奥様の様子をみています。奥様は意識がないようで、なんの応答もしていないようです。……ただ気を失っているだけでありますように!
私もその場に行きたいけど、お嬢様に見せるのはどうかと逡巡していたら、
「私がロータスさんを呼びにいってきます。ミモザはレティ様をお部屋にお連れして。呼ぶまで出てきてはいけません」
「はいっ!」
ダリアさんがテキパキと指示を出してくれて、ホッとしました。ああ、やっぱり私はまだまだダメだなぁ。
いいえ、今は自信を無くしてる場合じゃありません。私が不安な顔をしてると、お嬢様までが不安になっちゃいます。
「レティ様、私やデイジーと一緒に、お部屋で遊んでいましょうか〜」
「は〜い!」
作り笑い全開で、お嬢様をお部屋にお連れしました。
しばらくお嬢様の部屋で遊んでいるけど、なんの音沙汰もありません。部屋の外はしばらくバタバタと忙しない感じがしていたんですが、今は静まり返っているし。
奥様、大丈夫かなぁ。
ダリアさんの呼びかけにも、ぐったりしたまま返事もしなかったし……。
今はお嬢様付きのナニーだけど、そもそも私は奥様付きの侍女なのよ。なのに何も知らされないってのは寂しいでしょ。
ちょっと憤慨してみたり。
なんて、様子のわからない奥様のことを思ってボーッとしていたら。
「みもじゃ?」
お嬢様がジッとこっちを見ていました。
「申し訳ございません、お嬢様。ちょっと考え事をしておりました」
「ふうん」
そう言うとまた、デイジーと遊び始めたお嬢様。
あ、そうだ! お嬢様はいつも通りにお過ごしですよ〜って、伝えにいっちゃおう。ご心配は要りませんよ、ってね。
「レティ様、ミモザはちょっと用事で席を外しますね。デイジーも、お利口さんでいてください」
「「は〜い」」
二人揃って手を上げて返事するとか、もうかわいすぎでしょ。でも愛でるのはあと!
「ちょっと奥様の部屋に行って様子を見てくるわ」
「了解!」
私は他の侍女にお嬢様たちのことをお願いして、奥様の元に行きました。
奥様の部屋には医師様が到着していて、すでに診察は終わっていたようです。
「奥様の様子はどう?」
「それが……」
近くにいた侍女は顔を曇らせ、後を続けてくれません。
いや待って、ほんと、何が起こってるの? 嫌な予感に胸がざわつきます。
奥様のそばにいるステラリアさんに話を聞こうと思った時、扉が勢いよく開き、旦那様が入ってきました。
そして、旦那様との会話を聞いていて、ようやく奥様の状態がわかりました。
奥様は記憶を失われている——しかも、公爵家のことだけをすっぽりと。
なんということでしょう! 旦那様不在でも、楽しく過ごしたあの日々を……?
あ、旦那様、失礼いたしました! じゃなくて。
私はその場に膝から崩れ落ちました。
呆然としていると、
「ミモザ、レティを連れてこい」
旦那様が言いました。
ああ、そうですよ! さすがにお嬢様を見れば、奥様だって思い出しますよ!
「かしこまりました」
私はお嬢様の部屋に急ぎました。
結果的に言うと、お嬢様を見ても何も変わりなかった奥様。ダメでしたか……。
内心しょんぼりしながら、でも外面はいつも通りを装います。
これからどうなるのかと、重い足取りでお嬢様をまた部屋にお連れしていると、
「ねえ、みもじゃ」
少し不安そうな顔をしたお嬢様が、私を見上げています。
「はい、なんでしょう?」
「おかあしゃま、ねんねしてたね」
「そうですね」
「おかじぇ?」
お母様が寝ている=病気と捉えたようです。
詳しいことをお話ししても、お嬢様には理解が難しいでしょう。それに記憶喪失も、一種の病気でしょう? ……ならば、今はそれで通す方がいいかもしれませんね。
「そうでございます。お母様はちょっとお風邪をひいてしまったので、しばらくおねんねしていないといけないのです」
「……つまんないでしゅ」
「そうですね。でもレティ様がすこ〜し我慢すれば、お母様、早く治りますよ〜」
「そうなの?」
「そうでございますよ〜」
「わかった! おりこうにまってましゅ!」
いつもの、お日様のような微笑みを浮かべるバイオレット様。
ちょっと心は痛むけど、しばらくはこれで誤魔化せそうです。だから奥様、お嬢様のためにも、早く元に戻ってくださいよ!!
そして私も、落ち込んでばかりいられません。
お母様のことを忘れるくらい夢中で遊んでもらえるよう、乳母、頑張ります!
ありがとうございました(*^ー^*)




