ロータスの心配
本編197話目の裏側。ロータス視点です♪
「奥様は?」
「まだお昼寝されたままです」
「そうですか。旦那様がお帰りになられたようなので知らせてください。私は先に外でお出迎えしますので」
「わかりました」
エントランスでステラリアといつもと変わらぬ会話をして、私は外に出ました。
「おかえりなさいませ」
「ただいま戻った。ヴィオラは?」
「先ほどまでうたた寝をされていたので、もう直ぐいらっしゃるのではないでしょうか」
「そうか」
「それよりも……」
「ああ……」
「「「「「こんにちは〜!」」」」」
渋い顔をする旦那様の背後からいい笑顔を見せてくるのは、いつもの、旦那様の部下の方々。
またついてきたんですね。
「奥様と〜」
「レティ様に〜」
「会いたくなっちゃいました! あはっ!」
上機嫌の女性騎士様方。ほんとにこの方々は奥様とレティお嬢様のことが大好きすぎますよ。
ああまた、大至急お客様シフトを敷かないと——と考えていた時でした。
「ロータスさん、ちょっと」
エントランスからこっそり出てきたダリアがこっそり耳打ちしてきました。
おや? 表情が優れませんがどうしたのでしょう。
「先ほど奥様が階段で足を滑らせて、転落されました」
「なんですって?」
驚きましたが、声は小さく抑えることができました。
「奥様は今どこに?」
「まだ階段のところにいらっしゃいます」
「わかりました。——詳しいことは後で聞きましょう。ダリア、旦那様とお客様をご案内してください。私は奥様のところに向かいます」
「はい」
「旦那様にはまだ内緒で。適当に……そうですね……お支度に時間がかかっているとでも誤魔化して」
「わかりました」
私はこの場をダリアに任せて、屋敷の中に急ぎました。
奥様は階段のところに倒れていました。
「ステラリア! 奥様は大丈夫ですか?」
「血は出ていないのですが、意識を失っておいでです」
「とはいえ大丈夫とは言い切れませんね」
ステラリアの言う通り、階段にもどこにも出血は見られませんでした。裂傷にはなっていないということですが、必ずしも大丈夫とは言い切れません。
「奥様……大丈夫でしょうか?」
「いつも走り慣れてる階段で……後数段というところで足を滑らせてしまって……」
「私が先回りして下敷きになればよかったものを……!」
周りの侍女たちがオロオロしています。
なるほど、奥様は急いで階段を降りていて足を滑らせてしまったということですか。
「とにかく今は落ち着きましょう。ローザ、医師様をお呼びして」
「はい!」
これですぐ、医師様はきてくださるでしょう。
問題は奥様です。
「頭を強く打ったということですから、あまり動かさない方が良さそうなのですが……」
「お客様がいらっしゃってるんですよね?」
ステラリアの確認に、私はハッとなりました。
旦那様だけならいいのですが、さすがにお客様にまで心配をおかけするのはよろしくありません。
「仕方ない、そっと運びましょう」
旦那様たちが入ってくる前に、慎重にお運びせねば。
医師様がいらっしゃったところで、私はダリアと交代することにしました。
デリケートな診察だと、ダリアの方が適任と思いまして。
そして階下のサロンへ行くと、旦那様たちは軽食とお酒を嗜みながら奥様が現れるのを待っていました。
「なんだ、ロータスか。ヴィーはまだなのか?」
「はい。もう少々お待ちくださいませ」
動揺は顔に出さないよう、いつも通りに答えます。ご心配をかけてはいけません。
「寝癖でもついたのかな? それでもかわいいのに」
旦那様、それどころではないんですよ。今は言えませんけど。
「失礼いたします」
しばらくした頃、ダリアがサロンにやってきました。
いつも通りに見えますが、やっぱり浮かない顔をしています。これは、奥様の容体に、何かあったということでしょうか。
嫌な予感がしていると、
「先ほど奥様は頭を強打されました。幸命に別状もなく、怪我の程度もコブで済んでいるのですが……」
旦那様たちに奥様の現状を伝えました。
「えええええええっ!?」
「大変じゃないですか!!」
「大丈夫!? 大丈夫じゃない!?」
「「「「わぁぁぁぁ!?」」」」
騎士様方はパニックです。
しかしそれとは逆に顔色を失った旦那様が急に立ち上がったので、椅子が大きな音を立てて倒れました。
「……ヴィーが、頭を打った……だと?」
「はい、階段で足を滑らせてしまい……」
「それで、今は大丈夫なのか?」
「それが……意識は戻られたのですが……」
「意識は戻ったのか! それで?」
「はい……」
ダリアが何か言い澱んでいると、騒いでいた騎士様たちがピタッと静かになり、
「お取り込みのようなので、私たちは一旦失礼します! 奥様のご無事が確認されましたら、また改めて来襲いたします!」
「ではっ!」
空気を読んだのか、風のように去って行きました。
「あいつら……って、それはもうどうでもいい! それで? ヴィーはどうなんだ?」
「それがその……少し、記憶が……」
「記憶?」
「少し、曖昧のようでございます」
「…………」
その場に立ちすくむ旦那様。
奥様の記憶が曖昧?
奥様も旦那様も、大丈夫でございましょうか……?
ありがとうございました(*^ー^*)




