交渉前の打ち合わせ
本編191話目あたりの裏側♪
やっぱりブレーンはあの人 ( *`艸´)
私、フィサリス公爵家侍女のステラリアに、王宮から『また戻ってきてほしい』という復帰の打診が来ました。
なんで今さら。
……失礼、少し本音が出てしまいました。
しかし、公爵家の居心地の良さ……もとい、働きやすさを知ってしまった今となっては、誰が王宮女官に復帰したいと思うんでしょうか?
かわいくてお優しい奥様、天使のようなお嬢様にお仕えできる幸せを、誰が手放すというのでしょうか?
それだけでなく、私が結婚したというのもありますけど(ユリダリス様、ごめんなさい!)。
とにかく、私は王宮に戻るつもりはありません。
奥様もこのことについては大変気を揉まれていましたので、私も交渉の場についていくことにしました。
「今さら王宮に戻って来いなんて、乱暴な話だわ。どうせ一の姫様あたりが言い出したんでしょうけど」
「まあまあリア、落ち着いて」
王宮に行く、と奥様に宣言した夜。
私は両親とロータスさんとで『明日の話し合いの決着をどう持っていくか』を検討しました。『行きたくないから行かない』だけでは納得してもらいにくいと考えたんです。私は行かないけど、代替え案があれば交渉しやすいでしょ?
私一人ではいい案が出る気がしないので、両親とロータスさんに相談しました。
「まずは仕事が充実しているし、こちらもお嬢様が生まれて忙しくなったから離れられない、ということはお伝えするとして」
「ロータスさんの言う通り、それが最大の理由ですけど」
「そうですね。それにリアは、普段こそ意識しませんが、今や歴とした伯爵夫人です」
「そうだったそうだった」
ロータスさんの『伯爵夫人』発言に、父さんが深く頷いています。私だって忘れてるってば。
プルケリマ侯爵家から、結婚する時に伯爵領をいただきました。とかいいつつ、私もユリダリス様も全然自覚ないけど。
「でもほんと、なぜ急に今頃王宮に戻って来いなんて言ってきたのかしら」
母さんも困惑しています。
「有能な女官が嫁ぎ先に行ってしまうからでしょう。リアの能力なら一人でその穴を埋めることはできると思います。しかしそれはあまりにもハードな仕事です。私としてもそんなところにリアを行かせたくはありませんね」
「ロータスさん……!」
泣いていいですか?
ありがとうロータスさん。私、貴方のその言葉でまた頑張れる気がします!
……という私情は置いといて。
「そこで代替案なのですが、私はティンが適任だと思ってるんですよ」
「「「ティン!?」」」
「ええ」
頷くロータスさん。
ロータスさんの『まさか』な案に、私たちは驚きました。
弟のティンクトリウスは修行の旅と称していつまでも定職に就かずフラフラと流れ板をやってるような子。王宮にじっとしてられるのかしら?
私と両親がティンに不信感を表しているというのに、ロータスさんは微笑んでいます。
「今回、姫君の輿入れに際して女官と同時に料理人も帯同しています。姫君のお気に入りの料理人ということは、かなりの腕前と考えられます。つまり、今回は、腕のいい料理人も探しているはず」
ロータスさんの推理に私たちは『ほほ〜』と感心しました。
なるほど、だからティンね。
しかし、
「ティン、かぁ〜」
「ティンにちゃんとお勤めなんてできるかしら?」
両親も疑問のようです。というか、我が弟の信用のなさよ。
「大丈夫でしょう。放浪といっても職場を渡り歩いて修行しているようですし。そろそろこちらに帰ってきてもいい頃じゃないですか?」
「そうでしょうか……?」
母さんはまだ心配そうだけど、
「リアの結婚式の時にちょろっと帰ってきて、適当に料理してるところを見たけど、まあまあできる感じだったし」
「え? 料理してたの?」
「ああ。なかなか美味かったよ」
「そうなんだ〜」
父さんはティンの腕前を認めているようです。父さんに認められるってことは、使い物になるってことです。
「じゃあ、明日の交渉は、私の代わりにティンを王宮に差し出す、でいいかしら」
「そうですね。リア、上手く誘導できそうですか?」
「ええ! できる自信あります」
「その場には旦那様もプルケリマ様もいらっしゃいますから、助けてくれるでしょう」
「旦那様たちの助けは借りなくても大丈夫ですよ。こちらには『奥様』や『レティ様』という切り札もありますし」
そう。王妃様も姫君方も、奥様とバイオレット様が大好き。これを武器にしなくてどうしましょう?
「奥様とレティ様か。王妃様も姫君も、うちの奥様とレティ様にメロメロだからね〜」
「でしょう? そこを上手く使わせてもらうわ」
「なるほど。では、私たちは早急にティンを探しましょう」
「お願いします!」
これで明日の方向性は決まりました。
公爵家に残るために、私も頑張らなくては!
ありがとうございました(*^ー^*)




