待ちに待った日
いつ産まれてもおかしくない、まんまるに膨らんだヴィオラのお腹。
早く会いたい、一番に会いたいと思って『お父様のいる時に産まれておいでよ』と言い聞かせていた。
そして今朝も。
朝から御前会議が入っていたので、事務仕事をユリダリスに任せて隊長と一緒に出席した。
「今は特に急を要する案件もないのに……時間の無駄かと」
僕が退屈な会議にぶつぶつと文句を言えば、
「まあそう言わず」
横にいた隊長に苦笑いされた。
幸い会議は短時間で終わり(めずらしくな!)、屯所に戻ってきた時だった。
「フィサリス副隊長! 公爵家から伝言がきております」
そう言って取次の者がメモを渡してきた。
屋敷からの伝言? まさか……?
僕は奪い取るようにしてメモを受け取った。
そこには『奥様が産気付きました』と書かれてあった。
ヴィオラが産気付いたら連絡するようにと言っていたので首尾通りなのだが、いかんせん、この伝言がいつきたかというのが問題だ!
「この伝言はいつ届いたやつだ?」
「そうですねぇ、少し前、ですかね?」
「少し前って、いつだよ!!」
今じゃないのか!
「う〜ん、もうちょっと前ですかね?」
「なんですぐに届けなかった!」
「だってぇ、副隊長ってば御前会議入ってたじゃないですかぁ」
「会議室まで持ってこい!」
一刻も早く受け取りたかったんだ、そんな大の男が拗ねた顔して唇突き出しても可愛くもなんともないっ! むしろイラつき倍増するわ。
すると、
「まあまあ。そんな、産気付いたくらいで御前会議に割って入れませんて。俺が、副隊長帰ってきてからでいいって言ったんですよ」
とユリダリスがなだめに入ってきた。
そうか、お前が伝言遅らせたのか。
僕がギラッと睨んでも、ユリダリスが全然気にしてないのがムカつく。
「『産気付いた』よりむしろ『産まれた』、とかの方がよかったんじゃないですか?」
「私は生まれるところも見たいんだ! 何より頑張っているヴィオラを励ましたい……って、こんなところで言い合ってる場合じゃないぞ。今日は帰る。ユリダリス、後は頼んだ」
「はいはい。じゃあ、仕事帰りにお屋敷寄りますね〜」
「いや、まて。なんでお前がうちに寄る必要がある?」
僕とユリダリスが言い合っていると、
「え? 何? 副隊長のお子さん生まれたんですか!?」
「マジっすか!?」
「奥様は無事で? お子様も?」
「え? まだ? 産気付いただけ?」
「とにかく、後宮で警備している姐さんたちにも報告しなきゃ!」
話を聞きつけた部下どもが寄ってきた。
今ここにいない綺麗どころトリオにこの吉報を知らせようと腰をあげる者までいる。
それぞれ我が事のように大喜びしてるけど、まだ生まれたわけじゃないからな!
喜ぶのはまだ早い。
なのに、
「「「「「今日は残業なしで公爵家に寄っていこう!」」」」」
ユリダリス以下「さ〜この後の仕事頑張るぞ〜」と張り切りだした。
……もう好きにしろ。その頃に生まれてるかどうかわからんけどな。
とにかく今は急げ! プチ(仮)が生まれるところに間に合うように……!
馬を飛ばして屋敷に急いだ。全速力で頑張った。
でも、
男か、女か。男だったらヴィオルって名前もいいかな。ヴィオラの息子だし。女の子だったら……そうだな、バイオレットとか、いいかも。ヴィオラの娘だし……って、どっちにしてもヴィオラの子だ、かわいいに決まってる!
なんて、ぼんやりと名前を考えてみたりしながら。
「もうすぐでございます」
エントランスで僕を出迎えたロータスからそう聞き、僕は寝室に急ぐ。
今すぐ、頑張るヴィオラを励ましたいから。
……なのに。
寝室の扉に手をかけたと同時に中から聞こえてきた、元気な赤ん坊の泣き声。
「…………間に合わなかった」
「いえ、ギリ、間に合った……のでは?」
ロータスに微妙にフォローされたけど、これはどう考えても間に合わなかったよなぁ……。
ありがとうございました(*^ー^*)




