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待望の……

本編174話目の裏側。義父母はこうして王都の屋敷に駆けつけたのでした。

 静かなピエドラの領地で、いつもと変わりない静かな昼下がり。

 旦那さんとお茶を飲んでいる時だったわ。


「旦那様、ロージアのお屋敷から急ぎの使いが参りました」


 そう言って執事のフェンネルが、王都の公爵家からの使いを連れてやってきたの。

 屋敷からの急ぎって、なんでしょう? 屋敷で何かあったのかしら。

 いつもなら手紙で用件をすませるサーシスなのに、わざわざ使者を寄越すなんて……と、私がそわそわしていると、

「屋敷でなにが起こった?」

 旦那さんもそう思ったようで、すぐに使者に声をかけていた。

 嫌なことじゃなければいいんだけど……って考えは杞憂だったみたい。なぜなら、使いの者はニコッと満面の笑顔を見せると、


「はい。おめでとうございます。若奥様がご懐妊されました!」


 予想だにしなかった返事が返ってきたから。

「「えええ〜!?」」

 そりゃあ驚いたわ! 〝予想だにしなかった〟というのは言い過ぎかもしれないけど、息子の、ヴィーちゃんへの溺愛っぷりを見てたら『しばらく子供はいらない』とか言いそうな感じだったもの。だから、まさか、こんな早くにいい知らせが聞けるなんて!

「きゃ〜! ほんと?」

「はい」

「そうかそうか。して、懐妊はいつ頃わかったんだ?」

「いつ頃生まれるの? ヴィーちゃんはどお? 体調崩してない?」

「ええと……少し話せば長くなるのですが……」

 矢継ぎ早に質問を浴びせかける私たちに苦笑いした使いの者は、先日屋敷で起こった『偽男爵父娘による詐欺事件』の顛末と、それと同時に発覚したヴィーちゃんの懐妊について簡単に説明してくれた。

「その詐欺師、許すまじ。ねえあなた?」

「そうだねぇ、陛下に裏から手を回して……」

「そちらはご心配なさらずに。旦那様の部下のみなさまがしっかり絞ってくださるようでございますから」

 私たちが剣呑な雰囲気を醸し出したからか、使いの者は慌てて止めてきた。ふん、まあいいでしょ。

「それならいいか」

 旦那さんも納得したよう。

 公爵家うちに害をなすものは許すまじ。しかも、今回はヴィーちゃんは体調を崩しちゃってるし!

「それよりもヴィーちゃんよ! そんな体調悪い時にそんな事件が起こったりして……大丈夫かしら? 今すぐにでも会いたいわ! そうだわ、今すぐ『そっちに行く』旨の手紙を書くから、持って帰ってちょうだい! フェンネル、紙とペンを!」

「はい」

 ヴィーちゃんが精神的に参ってないか心配になった私は、いてもたってもいられなくなって、屋敷に行く旨の手紙をしたためて使いの者に持たせたの。


 なのに。


「『ヴィオラは悪阻で体調が悪いので当分こないでください』ですってぇぇぇ!? あの薄情息子が!」


 折り返し戻ってきた返事は、そんなそっけない一言なんて!

「私はぁ、サーシスに会いたいんじゃなくてぇ、ヴィーちゃんに会いたいの!」

「まあまあ。体調悪い時に私たちが押し掛けてもいいことないでしょ」

 手紙を握りしめて怒り狂う私をなだめる旦那さん。

 まあ、冷静になればそうよね。姑が来たって気を使うだけで、気が休まることなんてないわよね。うん、ここはヴィーちゃんのために我慢するところだわ。

「そうね。元気になったら会いに行きましょう」

 ここはぐっと我慢しましょ。




 それから数ヶ月。

 ロータスに言いつけておいたので、屋敷からはマメにヴィーちゃんの様子が報告されてくる。

 最初は悪阻がひどくてあまり食欲がわかなかったらしいけど、最近は落ち着いてきたから少し食べられるようになったとか、体調のせいか、おかしな夢を見たりしているとか。ちなみに悪夢は、サーシスもよく見るらしいけど。まあそっちはどうでもいいわ。


「ヴィーちゃんの顔を見ていいよ〜って言ってくれるのはまだかしら?」

「そろそろ落ち着いてきた頃だし、もうそろそろじゃないかな?」


 なんて待ち遠しく思っていた時のこと。

 王都の屋敷から立て続けに手紙が来た。

「最初のはサーシスからで、次はロータス。ロータスはいつもの報告だとして、サーシスはいったい何の用だろう」

 ロータスの手紙にしても、普段の定期報告の時期ではないから、別件なのかも。

 サーシスからの手紙にざっと目を通す旦那さんをじっと見ていると、

「これは君の方が適任だね」

 と言って、渡してきた。適任って、どういうことかしら?

 首を傾げつつ受け取ったそれは、

『ヴィオラが、生まれてくる子が男じゃなかったどうしようと悩んでいます。こちらでも言葉を尽くしたのですが完全には納得していない様子。できれば父上たちからも気にしないでいいと言ってやってほしいのですが』

 ということだった。

「これは、私にもあったわぁ。〝名門貴族に嫁いだ嫁あるある〟なのよねぇ」

「そういや君もこんなこと言ってた時期あったね」

「ええ。あの時も『どっちでもいいんだから』って、お義母様たちに励ましていただいたんだったわ」

「ロータスからの手紙にもサーシスのと同じことが書いてある。よっぽどヴィオラが落ち込んでるんだろう。みなが心配しているんだね」

 そうそう、私も妊婦の時に同じこと考えたのよね。あの時、義父母が飛んできて、『気にするな』『元気だったらそれでいい』って、言ってくれて元気が出たんだったっけ。

 まあ、それ以降も『子供が男の子だったのはよかったけど、もしもということもあるから、二人三人と生んだ方がいいんじゃないかしら?』って悩んだりしたけど、その都度『気にしなくていいから』って慰めてくれたりね。

 旦那さんや周りの使用人たちも気にしなくていいって言ってくれるけど、

やっぱり名家の重圧ってそれだけじゃ割り切れないのよ。

 ここは私たちの出番よね!


「ヴィーちゃんに、『気にせず元気な子を産んでくれたらいいのよ』って、伝えてあげなくちゃ」

「そうだね」

「手土産に、ヴィーちゃんが気に入ってるピエドラの果物をう〜んと持って行ってあげましょう。いっぱい食べて元気になってもらわなくちゃ」

「そうだね」


 ということで、私たちはいそいそとロージアに向かって出かけたのだった。


ありがとうございました(*^ー^*)

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