男女逆転!?
書籍第6巻発売記念リクエスト小話より♪
本編171話目の、旦那様の見た夢の内容です。
私——サーシア・ティネンシス・フィサリス公爵令嬢は、最近結婚した。
相手は貧乏伯爵家の息子、ヴィオル・マンジェリカ・ユーフォルビア。どこと言って取り柄のない、フツーの男。どこにでもある政略結婚ね。ていうか『契約結婚』と言ったほうが正しいかもしれないけど。
別に結婚適齢期を焦って結婚したんじゃないわよ。
私には以前から付き合ってる恋人がいて、本当はその人と結婚したかったんだけど周りの反対がひどくてできなかったの。彼は定職についていない自由人。出自は……よくわからないけど、愛さえあればいいの! 私を『名門公爵家のお嬢様』としか見ていない貴族たちと違って、『私自身』を見てくれる人だもの。
彼をよくわかってない周りは、彼のことを『ヒモ』だの『ニート』だのと散々言うけど、彼はちょっと仕事運に恵まれてない だ け なのよ! なのにみんなはちっとも理解してくれない。
でも公爵家の一人娘だから、絶対に婿養子を迎えて後継ぎを作らないといけないって親に迫られて、仕方なく適当な人物を探したわ。
私の恋人を容認して、そして仮面夫婦になってくれる人をね。
それで白羽の矢が立ったのがヴィオルだったってわけ。
いろいろ込み入ったお話が必要だから、私が 直 々 にユーフォルビア家に出向いてヴィオルと話をしたんだけど、あの人ったら私のことちっとも見てなくてキレそうになったわ。だって『フルール社交界一の花』と呼ばれるこの私の微笑みをスルーして、庭に咲いてる花を見てるのよ? あ り え な い !!
思えば最初から変わった人だったわね……。
そして、結婚してヴィオルがうちに来た。
王宮で近衛騎士をしているヴィオルは真面目に仕事して、お父様の仕事も手伝い、使用人たちと打ち解け……ってしてたら、なんと、あっという間にうちの両親だけでなく使用人たちの心すら鷲掴んでしまった。もともと朗らかで優しいヴィオルがいるところ、いつも明るい笑いに溢れている。私といる時、みんなそんな笑ったりしないのに! どういうことよ? 別棟の彼が姿を現した途端に『さっさと帰れ』みたいなオーラを出すくせに!
堅物で有名な執事のダリアーノをして、
「ヴィオル様は本当にできたお婿様でございます」
なんて言わしめて。
なによ! 私の彼がダメだって言いたいわけ?
そりゃ確かに彼は私のお小遣いで生活してるわよ。仕事がないからって、日がな一日別棟でゴロゴロしてるわよ。
「…………」
「ああ、サーシア。ちょっといい?」
ダリアーノの言葉でちょっとグルグルと考え込んでしまっていた私に、ヴィオルが声をかけてきた。
「…………なんですか?」
「近くパーティーがあるんで、サーシアも一緒に出てほしいんだけど……」
私の機嫌が悪いことを察知して、遠慮気味に言うヴィオル。
そういう集まりが好きではないヴィオルが珍しく出席するパーティー。そりゃ妻として当然一緒に出席しなくちゃいけないけど、堕ちてる私はそんな気分になれなくて。
「その日はもう用事が入っちゃってるから行けないわ」
全く予定なんて入ってないけどね。
そっけなく断ったというのにヴィオルは、
「そっか。じゃあ仕方ないですね」
そう言って苦笑すると部屋を出て行った。
いつもそう。
私がわがままを言っても、こうして受け入れてくれる。
寛容なのか、それとも、私に無関心なのか…………。
よく見れば整った綺麗な顔立ちをしているヴィオルの、サファイアの瞳をじっと見つめても、本当の気持ちはわからない。
それでも、いつも私の気持ちを最優先にしてくれるヴィオル。優しいヴィオル。いつも私の方が機嫌をうかがわないといけない別棟の彼とは大違いだわ、って……あれ?
私のわがままを苦笑しながらも受け入れてくれるヴィオル。別棟の彼のわがままを聞くのはいつも私…………あれれ??
だ、大丈夫よ! 私は別棟の彼が好きなんだから! あは〜ははははは…………はぁ。
そしてパーティー当日。
「今夜の夜会は、プルケリマ侯爵家のユリー様をお誘いになったそうでございますよ」
「え?」
私が断ったから、ヴィオルは別の人と参加するということをダリアーノから聞かされた。
プルケリマ家のユリーって、美人なのになぜか騎士をしてるっていうあの子よね。美人で気立てもいいって評判を聞いたことがあるわ。
「………………」
「ユリー様はヴィオル様の部下なんだそうでございますね」
ダリアーノが私の気持ちを見透かしたようなことを言ってきた。そ、そうなの、ユリーはヴィオルの部下なんだ。ふ〜ん、知らなかったわ。
「案外ヴィオル様とお並びになればお似合いかもしれませんね」
「そんなことないわっ!!」
ダリアーノが、いらないことを言うから!! 思わずムキになって否定してしまったじゃない。
「おやおや」
生暖かい微笑みで私を見るなっ!!
その夜。
ヴィオルがユリーの元に行くのが我慢できなくなって。
「今日の夜会は私が行くから!! 私があなたの妻なのよ? どうして他の人をエスコートするの?!」
私が断ったからだろう! というセルフツッコミは置いといて。
ヴィオルに思いっきりわがままをぶつけた。
いつものヴィオルなら『仕方ないね』って言って受け入れてくれる。
そう思ったのに。
「サーシア、君は彼氏のところに行ったほうがいいんじゃないかな? もう夫婦ゴッコも飽きたでしょう?」
あっさり。本当にあっさりと拒絶の言葉が返ってきた。
一瞬理解できなくて固まる私。
「え?」
「離縁届はダリアーノに渡してあるから」
「えっ!?」
「あんまりわがままばっかり言って彼氏さんを困らせちゃダメだよ?」
「えっ? えっ!? ちょっと待って?」
「じゃあね」
こちらを振り向かず後手にバイバイしながら出かけていくヴィオル。
わ、私、振られちゃったの!?
どういうこと? どういうこと? どういうこと〜〜〜??
* * *
「わぁぁぁぁぁ!!!!」
「サーシス様!? どうしました!?」
ガバッ。
叫び声とともに飛び起きた『僕』。
その横で『妻』の『ヴィオラ』がその大きな目を目一杯見開いて僕を見ていた。
嫌な夢に心臓がバックンバックンと音を立てている。
「いや……ちょっと、変な夢を見た」
「はあ」
いきなり叫び声で起こされたヴィオラがキョトンとしているけど、仕方ない。ごめん。
「ヴィー」
「なんですか?」
「ユリダリスはやめとけ」
「はぁ!? 何言ってんですか!?」
ありがとうございました(*^ー^*)




