Program-6- 轟音
「あぁ~~~~~。マジで遅ぇなぁぁ。何してんだろー?消しちゃおぉかなぁ。どうせ体育館いんのは"アイツ"だろぅよ。」
勇牙達が体育館に向かった時、″その生徒″は1階の教室でうなだれていた。
勇牙が体育館のドアを開けると、そこに広がっていたのは、想像とは大きく違う風景だった。
広い天井に付いている折り畳み式のバスケットボール8つのうち、手前の入口側の4つと、それについている鉄柱や天井の鉄板、ぐにゃぐにゃに変形した鉄パイプが体育館の床におちている。床は隕石でも落ちたように何ヵ所も大きくヒビ割れていた。
ドアを開けてすぐにその光景をみた勇牙は、驚きを隠せなかった。
(なんだよ、、、これ!さっきまでの大きな音はこれが原因だったのか。。誰がやったんだ、、、)
いつも明るい体育館は夕方ぐらいの時間だというのに薄暗い。
上の窓から、少しの夕日が射し込んでいて、より気味悪さを引き立てる。
だが、人の気配はない。
勇牙達が体育館に入ってすぐに、奥のドアから航大と豹原も入ってきた。
勇牙が驚いてヨロヨロと歩く猫羽の手を掴んで、航大達の方へ歩きだす。
4人の距離が徐々に近づいていく。
体育館の真ん中で4人で集まった時、
「まだ生きてたの??結構しぶとい奴らが固まってんだな。」
と、体育館ステージ上から冷酷な声がした。
「お前、、鹿沼!」
勇牙が声の主を見て叫んだ。そこには同じクラスの鹿沼啓太がいた。
鹿沼は伸長平均少し上で、少し釣り目の冷たそうな顔立ちと細めのわりに筋肉質な体つきが特徴である。常に無表情で、1年生の時に同じクラスの男子生徒2名と担任教師に大怪我を負わせて、謹慎を受けた事があり、学年の中では悪い意味で有名だ。
不良という訳ではないが、先輩や区内の不良達に目をつけられている。成績の面では、留年をする心配も全然なく、むしろ優秀な方である。
「もしかして、、お前、ここでクラスメイトを!?」
勇牙は怒りに満ちた表情で鹿沼に怒鳴った。
「それがどうかした??どうせ一人しか生き残れないのに、仲間組んでる方がおかしくない??それに人を殺してる訳じゃないんだし、また出会えるかもよ??勇牙、お前もいつかそいつらを裏切り、切り捨てるんだよ??」
勇牙は鹿沼が言ったことを真っ向から否定できない自分に嫌気がさした。
「俺は、、そんなこと」
勇牙がいいかけた時、航大が大声で叫んだ。
「勇牙は、絶対に裏切らない!お前に勇牙の何がわかんだよ!!」
「、、航大、、、」
その言葉を聞き、勇牙はさっきまでの疑心を振り払い、自分の考えを悔いた。
「そうか。それは残念。勇牙はこっちがわの人間だと思ったんだけどな。」
鹿沼はそういってステージから降りると、ステージ下部の収納を端から全て開けた。そして、収納の中に入っている鉄性のパイプ椅子が沢山入った台車を全て引きずり出した。
鹿沼はその台車の上に立ちパイプ椅子を両手に一個ずつ持つと、まるでフリスビーを投げるかのように勇牙達の頭上の天井に投げた。
「キャッ!」
「何なの!?」
猫羽と豹原が身の危険を感じ、後退りをした。
鹿沼が投げたパイプ椅子は、勇牙達の目では追えないほどの猛スピードを出し、天井の折り畳み式のバスケットゴールに勢い良くぶつかった。
ぶつかったパイプ椅子二つは、バスケットゴールと天井をつなぐ鉄柱を貫通し、天井に一度ぶつかってぐにゃぐにゃに変形し地上に落ちてきた。
(これは、、、まずいぞ!?)
勇牙が考えている間に鹿沼はもう一度パイプ椅子を両手に持った。
「皆!なるべくステージから離れろ!!バスケットゴールが落ちてくるぞ!」
すぐに鹿沼の作戦に気づいた勇牙は、他の三人に注意を促した。
落ちているバスケットゴールを避けて正面入口側まで四人が逃げた時、鹿沼は両手に持ったパイプ椅子を天井のバスケットゴールめがけて思い切り投げ飛ばした。
そして今度は、バスケットゴールをかろうじて支えていた最後の鉄柱を貫通した。
金属がちぎれたような轟音をたてたそのバスケットゴールは、一気に地上へと落ちてきた。
地上とバスケットゴールの距離が0になった瞬間、またもや凄まじい轟音が鳴った。
さっきまで遠くで聞いていた音は、近くで聞くとなお凄まじかった。
砂ぼこりのような物が舞い、ステージの方が見えなくなる。
勇牙は三人に避難を呼び掛ける。
「皆逃げてくれ、、俺は、、、、アイツと戦う!!」
「待って!そんなんじゃ危ないって!」
必死に猫羽が止めようとする。
「なら俺も行く!」
航大が男気を見せる。
「ありがとう航大。。じゃあ豹原は猫羽を安全な所に連れていってくれ。」
「わかった。。。獅子岡って良い奴、、だね。」
豹原が改まったように言う。そして正面入口から豹原と猫羽は廊下に出た。
勇牙が航大にタブレットを見せて言う。
「俺の能力はパンチ力のアップと、蛇村の血液を毒性にする力、あと兎川さんのジャンプ力アップの三個だ。」
「そうか。俺は確か爪を鋭利な鉤爪にできる能力だ。」
航大がその能力を使って見せた。
「ネイル!!」
航大がそう叫ぶと両手の爪は瞬時に15cmほどの鉤爪になった。
「よし!両側から行くぞ!」
勇牙と航大は決心した。