Program-3- 消滅
廊下にでた勇牙は、教室の上をみて初めて今いた教室が1年2組である事を知った。
全部で6階まであるこの学校で、1年の教室があるのは北校舎の1階と2階だ。
廊下の窓から外を見る限り、ここは2階。
窓から、向かいの南校舎をみてみるが、結構遠いため人がいるか確認できない。
勇牙は、1年の時2組だったため1年の時を懐かしんだ。
外には明るく夕日がでている。勇牙は、正確な時間はわからないが夕方ぐらいであろうと思った。
廊下には奥から、タブレットについての授業をより深く行うためのプログラミング室1,プログラミング室2があり、その向かいに北校舎と南校舎をつなぐ大きな渡り廊下が、校舎内地図で見たとき勇牙の今いる廊下に垂直方向につながっている。
廊下は端から端まで雑巾掛けしたら間違いなく息切れを起こすだろうほどの距離がある。
長い廊下を恐る恐る歩いくと、隣の1年3組にクラスメイトの兎川雪がイスに座っているのが見えた。
後ろの入口から、
「兎川さん?大丈夫?」
と声をかけた。
勇牙が話しかけると、一瞬ビクッとした後こちらを向いて少しの間勇牙の顔をみたあと、うなずいた。兎川は普段から静かめで勇牙とはあまり喋った事はないが、顔立ちは結構良いので一部の男子には人気があり、勇牙も当然名前を知っている。
あの瑞希が少しだけ狙っていた事もある。
教室に入り、兎川のところまで行くと、勇牙が聞いた。
「ルール説明って読んだ、、?」
兎川がゆっくりうなずいた。
「じゃあさ、、良かったら協力しない??」
その質問に兎川は少し微笑んでうなずいた。
(うわぁ、兎川さんってこんな可愛かったっけ。)
兎川の顔を改めてちゃんと見たのは初めての気がする。
今にも惚れそうな勇牙をキラキラした瞳で見ながら、兎川がか細い声で話しかけてきた。
「獅子岡くんって、、優しいよね、、。」
それを聞いた勇牙の顔はみるみる真っ赤になっていく。
「あ、、ありがとう!じゃあ、どうしようか。」
「そういえば、、さっきの大きな音って、、」
「あ、俺だよ。ゴメンね、能力の確認してたんだ。」
冗談半分に話すと、そっか、と安心したように微笑んだ。
勇牙は緊張を隠そうと必死だった。
、、、、。
沈黙が続いて教室には気まずい雰囲気が流れている。
しばらくして、廊下の奥から足音が聞こえた。
廊下にでて、見るとプログラミング室の前をヒョロヒョロな男子生徒が走っている。
(あれは、、蛇村大輔だ!)
蛇村は痩せほそっていて、丸い縁のメガネがガリ勉のように見える事で頼りがいが無さそうだが、クラスメイトとの出会いに勇牙は少しテンションが上がった。
「蛇村~、大丈夫か~?」
勇牙が蛇村の名前を呼ぶと兎川が大きく反応を示した。
「蛇村くん、、、!?」
「どうした?」
「いや、、、」
蛇村が勇牙の前まで来ると
「人がいて良かった~。凄く不安だったから。」
と、疲れた表情で言った。そして、教室の中を覗いた。
「あ、兎川さん、、、」
蛇村が少し驚いた。
「そういえば、タブレットを壊して何かあった人を見たかい?僕はないけど。」
急に真面目な表情になった蛇村は急に兎川の方へ走った。
(コイツ、もしかして、、、あの事を、)
勇牙は嫌な予感がした。
「まて蛇村!何する気だよ!!」
勇牙が止めるのも聞かず、兎川の持っている白色のタブレットを奪おうとする。
兎川は今にも泣きそうな顔で必死に抵抗した。
が、それも虚しくタブレットを奪われてしまった。
タブレットを奪ってすぐに窓の方へ後ずさりする蛇村。
(やっぱりか、、、くそっ)
勇牙がすぐ近づこうとすると
「いいか?獅子岡もあまり近づいたら、兎川さんのタブレットを壊すからね。」
勇牙と兎川は激しく動揺する。
「なんでそんな事をするんだよ!!逆恨みか!?」
蛇村が少し黙ったあと、言った。
「、、そうか、、、やっぱり獅子岡も知ってたんだね!」
勇牙はクラスの噂を思い出していた。蛇村が兎川に告白をして振られた。その後もストーカーまがいの事をしていた蛇村だが、兎川がその事を友達に相談した事により、それがクラス中に広まってしまった。
まさに昨日瑞希が話していたストーカーの話の張本人だった。
「この女が噂を流したんだ!僕が嫌いだから!!」
「違うっ!」
さっきまでのおとなしさとは打って変わって泣きそうになっている兎川が、必死に否定する。
「それは、お前の自業自得だろ!兎川さんが嫌がっているのに付きまとうなんて!」
説得しようと徐々に勇牙が近づこうとしたとき、蛇村が怒りに任せて、教室の壁に白のタブレットを投げつけた。
壁にぶつかったA4大のタブレットは、ガラス瓶を叩き割ったような音と共に画面に大きくひびが入った。
兎川と勇牙はタブレットのもとへ駆け寄った。必死に電源をつけようとする兎川だが、画面は真っ黒のままだった。
そして、アナログテレビのノイズのような音が鳴った。
それと共に、兎川が透明になっていく。
「キャァァーーーーーーーーーッッ!!」
兎川も自分の体が薄れて行くのに気づき、悲鳴を上げた。3秒ほど悲鳴が続いた後、兎川の姿は完全に見えなくなった。
「兎川さんっ!!!」
勇牙が兎川のいた場所で手でかき回すように動かした。
そこには人がいたあとすら全くなくなっていた。
残っていたのは、画面の割れた白のタブレットだけだった。
(今のが、、、消滅!?)
だが、人間が床に叩きつけただけでタブレットの画面が割れるなんてこの時代ではまずない話である。
(まさか、、タブレットは弱く作られているのか。)
唖然としている勇牙をよそに蛇村はにやけていた。そして、自分に何かを言い聞かせるようにブツブツ言いながら、今度は勇牙を襲おうとした。
「僕は、、はぁはぁ、、悪く、、ないんだ!!」
蛇村は天井と頭がぶつかりそうなくらい高くジャンプし、上から勇牙に飛び乗った。
(足を強化する能力か!?)
そんな事を考える時間もあまりなく、勇牙は勢いよく背中から倒れた。
そして、蛇村が馬乗りになると、勇牙の頬を一発殴ってきた。
「ウッ」
勇牙がひるんでる間に、蛇村は勇牙のズボンのポケットから黄色のタブレットをとりだそうとした。
(ヤバい!、、、あれを壊されたら!)
頭の中で兎川が消えていった映像と悲鳴が鮮明に再生される。
勇牙は兎川を救えなかった悲しみよりも、消滅したくないという気持ちが勝ってしまう自分を情けなく思った。
無我夢中で、寝てる体制から蛇村の脇腹を制服のブレザー越しに強く殴った。
その拳をまたも鉄のグローブが
「ウグッ、、、」
情けない声をあげた蛇村は、2mほど後ろに飛んでいった。
再度右腕に出現した鉄のグローブは殴ってまたすぐに消えていった。
勇牙が、上半身を起こすと蛇村との間に何やら紫色の破片が飛び散っているのに気づく。
蛇村はすぐに状況を判断した。
「紫色、、、僕のタブレット!?、、、」
蛇村がブレザーの内ポケットからだした "それ" はもはや下半分しか残っていなかった。
徐々に透明になっていく蛇村に近づいていくと、蛇村は大きく咳をした。咳と同時に口から勢いよく黒い液体が出てきた。
その液体は蛇村の横の机にかかる。
すると、液体のかかった部分が焦げたように黒くなった。
(これも能力なのか?、、、でも、2つも?)
蛇村が少しにやけると、
「今のが、、、僕の能力か。。僕じゃ、、守る戦いは、、できないのかな、、、」
そう言って、完全に見えなくなった。
(今のが蛇村の能力か?じゃあさっき高く跳んでたのは一体?)
ポケットからタブレットを出し、画面を開いた。
するとルール説明のさっきまでの能力に追加がされていることに気づいた。
以上、健闘を祈ります。
2年3組 16番 獅子岡 勇牙
能力・
FIST↑10
SOLE↑7
BLOOD↑20
青い SOLE という字をタッチすると、黒い背景にリアルな足裏の絵、BLOOD をタッチすると、黒い背景に赤い液体の絵がでてきた。
(なるほど、戦いに勝つと相手の能力が奪えるのか。それで破壊がUPなんだな。おそらく高くジャンプするのは兎川さんの能力、血を毒性のあるものにするのが蛇村の能力か。、、、兎川さん、、、)
勇牙はしばらく放心状態だった。。
そして、重く悲しい気持ちを消すように戦う事を決心した。
”クラスメイト”とではなく、”黒幕”と。