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【夢幻の大陸詩】 月姫楽土の子供たち  作者: 水城杏楠
二章  出逢いの先に
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 いつもこの東の森で遊んでいる三人ではあるが、今日は仕事である。

 薬草取りの仕事がしたいと常々言っているラフィは最近、近所の薬草取りの仕事をしている女性を手伝っているのだ。休息の日をもらったアストと、銀の儀式を三日後に控えたチェザは、そのラフィを手伝ってこの森まできたのである。

 必要以上に狩りをしないのはあたりまえだが、必要以上に薬草や木の実をとったりしないのもまたサーラの民の習慣だった。彼らはこうやって森羅万象と共存している。だから子供であっても木の実を不必要にもぎ取ったりはしない。彼らはラフィが探しているというジュオンの葉だけを探していた。

「あったー?」

「う~ん。前はこの辺にあったんだけどなー」

 ジュオンの樹は背丈こそさほど大きくはならないが、大きな葉が特徴で、それはチェザの片腕の長さと同じほどになったりする。ラフィは丁寧に葉を確認しながらあたりの木々を選別していった。ジュオンの葉は毒草であるセキアの葉によく似ているのだ。間違えてはならないことは彼らもよく承知している。

「あ、あった! これだよな」

 チェザが葉の一枚をラフィに示した。チェザはこういった仕事の手伝いを直接したことはなかったが、それでもいつもラフィたちに付き合っていたので、薬草の見分け方はそれなりに詳しくなっていた。それでも、チェザが世間知らずだと思われるのはたぶんきっと、その経験のなさなのだろうと思う。

 子供たちはいろいろな仕事を経験して十五歳を迎える。その経験の中から生活を学ぶのだ。このサーラがどのように成り立っているのか。生きていくために必要な仕事。そして自分に見合う仕事。そういったものを知っていく。どんな仕事を選んだとしてもそこでの経験はもちろん、生活のすべてで役に立つはずだ。

 チェザはそれを知らない。生まれたときからリアスしか見えていなかった。それがいいことなのか、それとも悪いことなのか、まだ誰も知らないけれど、だが少なくとも世間知らずなことは確かだ。とはいえ、カリや母のファーリーなどから得た知識はそれなりに豊富である。昔から賢い子供だったから、行動力や瞬発力、記憶力などに優れていたのだ。

 ラフィがチェザのもとに駈けより、葉を確認する。

「うん。たしかにジュオンの葉だ。えっと……大きめのを三枚だったかな」

 葉を余分に取ってはいけない。森は彼らの命の源だ。日々の食べ物を育み、薬を提供し、癒しの風を吹かせる。ラフィは虫に食われていない葉を三枚だけ選んでもぎとった。

「あれ? アストさまは?」

 ふと二つ目の葉をとりながら、ラフィがあたりを見回して言った。幼い子供であっても、年齢を尊重するサーラでは年上の友を呼び捨てにはしない。

「……そういえば」

 たしかに見える範囲にアストの姿はなかった。

「アストぉ~?」

 チェザは少しだけ声を張り上げてアストを呼ぶ。彼は年上であろうとなかろうと、まったくといっていいほど態度に変化がない。アストやラフィもそんなチェザの態度には慣れていた。

 安全とされる東の森なのだから、もしはぐれたとしても身の危険を心配することはないだろうし、もう何度もこの森を訪れている彼らだから、迷子になることは考えられない。何かあったとしても、彼らは一人だけで家に帰ることは十分可能である。

 だからそのとき二人は、ジュオンの葉を探して少し深く森に入り込んでしまったのかと思ったのだ。それだけだった。

「いないね」

 獣道を奥へ進みながら、大きなジュオンの葉を両手で抱えたラフィが前を歩くチェザに声をかけたが、チェザからの返事はなかった。ただ、唐突に立ち止まり、ラフィはチェザの背中に頭をぶつけていた。

「チェザさまぁ」

 少し憮然とした声で抗議するものの、チェザは振り返らない。

「……アスト?」

「え。いたの?」

 チェザの瞳はくねった獣道とは違う方角を見ている。唐突に固まったように動かなくなったチェザの背中を見遣り、ラフィが少し不安そうな声で尋ねた。その声が案外響いたのか、チェザが驚いたようにラフィを振り返った。

 その眉は怪訝そうにゆがめられている。

「あそこにアストが……。でも」

 チェザは前方を指差した。獣道から少し外れたところ、木々や葉によって隠されてはいるが、かろうじてアストの白い麻の衣服が見える。だが、今のチェザはそんなものを見ていなかった。チェザの視線はそれよりもう少し低い位置にある。

「どうしたの? チェザさま、アストさま」

 ラフィがチェザの背中から覗き込み、そしてそのまま彼も言葉を失った。

 アストが立ち尽くすその足元には、ひとが倒れていたのだ。

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