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冬が過ぎて、春になった。
雪が融けて、華が咲いた。
サーラ国は開花の月を迎えていた。そしてその月の一日目、つまり金の日の翌日にある重大な結論を出すことになっていた。
リアス総勢十五名は、月姫の巫女のいる聖月の宮へ集合していた。
「……ではリアスを国から出すということですか?」
イーザの説明を一通り聞き終え、最初に口を開いたのはネオンだった。
「そうだ」
「そしてその役目を私とケアラ、そしてリィウに任せると」
「そうだ」
イーザはただ一つうなずいた。
誰も賛成も反対もしなかった。ことの大きさに圧倒されるばかりだ。
国外へ出ること。
サーラの民はサーラ以外を知らない。ましてやこの土地以外に似たような人々が住んでいるなどとは思っていなかったのだ。それがリュシルエールのおかげで大きく変わった。
そして今、この国を始めて公式的に離れようとしているのだ。
外交。
初めて彼らはこの言葉を知った。
「わたしは、大地の広さを知ってみたい。大地の広さを知ってほしい。それがサーラにとって幸運を招くかどうか、金の御剣なき今はわかりませんが、わたしは信じています。大地に息づいた人々はみな、わたしたちとおなじこころであるのだと……」
熱く語る月姫の巫女。とても五歳の少女とは思えぬ聡明たる瞳だった。それもそのはず、彼女には例えようもないほどの大きな記憶があるのだから。月姫の巫女として、システィザーナとして。それがいかようのものであるのか、とうていリアスである身では想像すらできないことであった。
「奪われたという剣。おそらく我が国にあるものだと思う。私はそれをこの国に帰したいのです」
かなりサーラの言葉を流暢に操れるようになったリュシルエールが、よどみない言葉を紡ぐ。
先日、月姫の巫女自らがリュシルエールに御剣を見せた。それとよく似た剣を見たことがあると彼は言ったのだ。それで月姫の巫女は決意したのかもしれない。
だがその一言はリアスたちの心をも動かした。
「金の御剣が戻るのですか? 本当に……」
ケアラが呟いた。
「あの日から十五の暦を経て……、やっと金の御剣が戻るのですか」
「そうすればサーラも安泰になるはず」
イーザが言葉を続けた。
金の御剣を取り戻すこと、それはリアスにとってなによりの悲願である。月より遣わされし剣は、月姫の巫女の力の象徴として擁かれるものであるのだから。
「道中はこのリシーが案内する。なにも心配はいらぬ」
「サーラ国のような素晴らしい国との外交ならば、我らが王もきっと喜ばれます」
リュシルエールの言葉に、リアスたちは少し首を傾げた。
「……おう、とは?」
「え?」
サーラには王という概念がないのだ。そもそも国を治めているという感覚がない。あくまで月姫の巫女は巫女であり、象徴。リアスはその象徴を守っていくものたち。
「月姫の巫女様のように、国の中心にある人物のことです」
リュシルエールは一番近いと思われる言葉を選んで説明した。それでリアスたちは少し納得した。
だが、王制を敷く国というものの相違や欺瞞を、彼らはのちに知ることになる。
神聖なる巫女などではない……王というものを。