落ちきるその時まで ~砂が紡ぐ小さな出会いの記録~
【第31作目】今回は、しっとり系で書いたつもりです。自分なりには…(柄にもないものなので自信は50%?)
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死んだあと、私は真っ白な空間に立っていた。
どこまでも続く白い世界。
地平線すら見えない。
目の前には一人の人物がいた。老人にも青年にも見える不思議な存在だった。
「異世界へ転生させてやろう」
穏やかな声が響く。
「ただし与えられるスキルは一つだけだ」
私は少し考えた。
剣術。
攻撃魔法。
回復魔法。
鑑定。
収納。
便利そうな能力はいくらでも思いつく。
でも私は別のことを考えていた。
「砂を出せる魔法が欲しいです」
相手が目を瞬いた。
「砂?」
「はい」
「本当にそれでいいのか?」
「はい」
神様らしき存在は少し呆れたように笑った。
「出せるぞ。だが出した後は操れん」
「操れない?」
「ただ現れるだけだ。動かしたり集めたりはできん」
「それで十分です」
私はそう答えた。
しばらくして神様は肩をすくめる。
「面白い娘だな」
そして手を軽く振った。
「では良き人生を」
世界が光に包まれた。
目を開くと、草原の真ん中だった。
青い空。
白い雲。
風に揺れる草の海。
遠くには森と山並みが広がっている。
私は大きく息を吸った。
空気が美味しい。
「さて」
まずは能力の確認だ。
着ている服の裾を少し破り、小さな袋代わりにする。
その中へ手を入れて念じた。
さらさら、と何かが現れる。
取り出して太陽にかざす。
「やっぱり」
黄金色の粒がきらりと輝いた。
砂金だった。
私は思わず笑ってしまう。
砂金も砂の文字がついているのである。
神様は砂を出せると言った。
種類までは限定しなかった。
これは完全に賭けだったが、どうやら勝ったらしい。
その日の夕方。
私は近くの町へ辿り着いた。
石壁に囲まれた小さな町だ。
市場には人が溢れ、焼きたてのパンの香りが漂っている。
私は裏路地で砂金を小袋へ移した。
本当に少量だけ。
目立つほどではない。
宝飾品を扱う商人へ持ち込むと、予想以上の値段で買い取られた。
銀貨が何枚も手に入った。
そのお金で旅道具を揃える。
丈夫な靴。
マント。
寝袋。
水袋。
小鍋。
ナイフ。
旅人として生きていく最低限の装備だ。
そして宿で一晩過ごしながら決めた。
もう砂金は出さない。
お金はいくらあっても困らない。
でも金を持っている、出せると知られれば面倒事は増える。
盗賊。
悪徳商人。
貴族や権力者。
関わりたくない相手は沢山いる。
「ほどほどが一番」
私はそう呟き、眠りについた。
そこから旅が始まった。
春は花畑を歩いた。
黄色や白の花が風に揺れ、蜂が忙しそうに飛び回る。
夏は広い平原を進んだ。
草の匂いを乗せた風が心地良い。
秋は紅葉の森を抜けた。
赤や金色に染まった木々はまるで絵画だった。
冬には雪景色を眺めながら暖炉の前で過ごした。
そんな穏やかな旅だった。
旅の途中で気付いたことがある。
砂糖も砂がついていたのだった。
試しに出してみると本当に作れた。
細かな白い粒。
さらさらとした触感。
どう見ても砂糖である。
「便利すぎない?」
自分で少し引いた。
こちらの世界では砂糖は高価だ。
私は村々で少量ずつ交換した。
卵や野菜。
チーズや干し肉。
保存食や毛織物。
決して大量には出さない。
市場を壊さない程度に。
目立たない程度に、慎重に。
それで十分旅を続けられた。
二年目の春。
私は湖のほとりにある町へ辿り着いた。
湖面は空を映し、きらきらと光っている。
白い鳥が水辺を歩き、春風が花の香りを運んできた。
町外れを歩いていると、一軒のガラス工房を見つけた。
興味本位で中を覗いてみる。
若い職人が炉の前で作業していた。
真っ赤なガラスが竿の先で膨らみ、美しい器へと変わっていく。
「わあ……」
思わず声が漏れる。
青年が振り返った。
「旅の人か?どうかしたか?」
「いえ、綺麗だなと思って」
青年は少し照れたように笑った。
「ありがとう、見ていくといいよ」
しばらく話していると、彼がため息をついた。
「最近は材料集めが大変なんだ」
「材料?」
「良質な珪砂ですよ」
そう言って材料壺の中からすくって見せてくれた。
白く細かな砂だった。
私は平然を装いながら頷く。
「へえ」
内心では確信していた。
これ、出せる。
間違いなく出せる。
だがもちろん目の前で出したりはしない。
そんなことをすれば説明が面倒になる。
三日後。
私は麻袋を抱えて工房を訪れた。
「こんにちは」
「あっ、旅人さん」
「この前の珪砂なんですけど」
私は袋を差し出した。
「知り合いの商人さんから少し分けてもらえたので」
もちろん嘘だ。
知り合いの商人などいない。
いるのは私だけである。
青年は袋を開き、砂を確かめる。
そして驚いた顔になった。
「これ……すごい品質です!」
「本当ですか?」
「はい!」
目を輝かせながら何度も確認している。
「ぜひ買わせてください!」
こうして取引が始まった。
数か月おきに少量だけ。
旅の途中で仕入れたという体裁で珪砂を持ち込む。
すると少しずつ工房の評判が上がっていった。
半年後。
工房を訪ねると青年が嬉しそうに迎えてくれた。
「おかげで工房が繁盛しているんです」
「それは良かったです」
「ぜひお礼をさせてください」
「お礼?」
「何か作ります」
私は少し考えた。
そして前世で見たものを思い出す。
「砂時計なんて作れます?」
「砂時計?なんですそれは?」
完成まで十日ほどかかった。
青年は何度も試作品を作り直した。
ガラスの厚み。
中央の穴の大きさ。
落ちる砂の量。
全てを調整したらしい。
そして完成品を見せてもらった時。
私は息を呑んだ。
「綺麗……」
透明なガラスの中を金色の砂が流れている。
湖の陽光を閉じ込めたような美しさだった。
「気に入ってもらえました?」
「うん。すごく」
本当にそう思った。
青年は照れ臭そうに笑う。
「お礼です」
「でも代金くらいは」
「あなたのおかげで助かりましたから」
結局ほとんど受け取ってもらえなかった。
その砂時計は旅のお供になった。
ある夏の日。
森で魔狼に遭遇した。
灰色の毛並みを持つ大型の魔物だった。
鋭い牙が並んでいる。
「これは無理」
一瞬で判断する。
私は英雄ではない。
勝てない相手とは戦わない。
風上に回り込み、砂を大量に出して思い切り蹴り上げた。
砂煙がぶわりと広がる。
魔狼が目を閉じた。
「失礼しまーす!」
私は全力で逃げた。
木の根につまずきそうになりながら走る。
走る。
ひたすら走る。
安全な街道へ出た頃には息が切れていた。
でも生きていた。
「うん、生存勝利」
地面に座り込みながらそう呟いた。
それから何年も旅を続けた。
訪れる村が増えた。
顔見知りも増えた。
「また来たのかい」
「今年も砂糖を持ってる?」
「泊まっていきなよ」
そんな声を掛けられることが増えた。
帰る場所はなくても、迎えてくれる場所は増えていった。
冬のある日。
山間の小村で雪を眺めていた。
暖炉の火がぱちぱちと鳴っている。
窓の外では雪が静かに降り積もっていた。
私の隣には砂時計が置かれている。
湖の町の若いガラス職人が作ってくれたものだ。
もう何年も使っているのに壊れない。
金色の砂がさらさらと落ちていく。
その様子を眺めながら私は思った。
剣聖にはならなかった。
魔王も倒していない。
世界を救ってもいない。
だけど。
綺麗な景色を見た。
沢山の人と出会った。
美味しいものを食べた。
笑顔を沢山見た。
それで十分だった。
私は砂時計をひっくり返す。
また砂が流れ始める。
ゆっくりと。
穏やかに。
まるでこの旅のように。
暖かなスープを飲みながら、私は窓の向こうの雪景色を眺めた。
春になればまた旅へ出よう。
花の咲く丘を歩いて。
新しい村を訪ねて。
知らない景色を見に行こう。
あと何年、こうして旅を続けられるだろう。
五年かもしれない。十年かもしれない。あるいは明日、思いもよらない理由で終わるかもしれない。
それでも、終わりがあるからこそ旅は愛おしい。
私は砂時計の中を落ちていく金色の砂を眺める。
一粒一粒が過ぎていく時間のようだった。
落ちきるその時まで、私は私の好きな景色を探して歩こう。
そんなことを思いながら、静かに微笑んだ。
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秋なので、スイートポテトの如く、しっとりしっとりとつぶやきながら書きました。
いろんなジャンルの話を挑戦してますw (実際は迷走しているが正しいかも)
5分で読める話ばかり書いています。 方向性もジャンルもバラバラですが、もし良ければ以前書いた話も読んでみてみてください。(基本はギャクコメディー重視で書いています)




