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落ちきるその時まで ~砂が紡ぐ小さな出会いの記録~

作者: 日御碕 出雲
掲載日:2026/10/23

【第31作目】今回は、しっとり系で書いたつもりです。自分なりには…(柄にもないものなので自信は50%?)


----------------

死んだあと、私は真っ白な空間に立っていた。

どこまでも続く白い世界。

地平線すら見えない。


目の前には一人の人物がいた。老人にも青年にも見える不思議な存在だった。

「異世界へ転生させてやろう」

穏やかな声が響く。


「ただし与えられるスキルは一つだけだ」

私は少し考えた。


剣術。

攻撃魔法。

回復魔法。

鑑定。

収納。


便利そうな能力はいくらでも思いつく。

でも私は別のことを考えていた。


「砂を出せる魔法が欲しいです」

 相手が目を瞬いた。

「砂?」

「はい」

「本当にそれでいいのか?」

「はい」

神様らしき存在は少し呆れたように笑った。

「出せるぞ。だが出した後は操れん」

「操れない?」

「ただ現れるだけだ。動かしたり集めたりはできん」

「それで十分です」

 私はそう答えた。

しばらくして神様は肩をすくめる。

「面白い娘だな」

そして手を軽く振った。

「では良き人生を」

世界が光に包まれた。

目を開くと、草原の真ん中だった。


青い空。

白い雲。

風に揺れる草の海。

遠くには森と山並みが広がっている。

私は大きく息を吸った。

空気が美味しい。


「さて」

まずは能力の確認だ。

着ている服の裾を少し破り、小さな袋代わりにする。

その中へ手を入れて念じた。

さらさら、と何かが現れる。

取り出して太陽にかざす。

「やっぱり」

黄金色の粒がきらりと輝いた。

砂金だった。

私は思わず笑ってしまう。

砂金も砂の文字がついているのである。

神様は砂を出せると言った。

種類までは限定しなかった。

これは完全に賭けだったが、どうやら勝ったらしい。


その日の夕方。

私は近くの町へ辿り着いた。

石壁に囲まれた小さな町だ。

市場には人が溢れ、焼きたてのパンの香りが漂っている。

私は裏路地で砂金を小袋へ移した。

本当に少量だけ。

目立つほどではない。

宝飾品を扱う商人へ持ち込むと、予想以上の値段で買い取られた。

銀貨が何枚も手に入った。


そのお金で旅道具を揃える。

丈夫な靴。

マント。

寝袋。

水袋。

小鍋。

ナイフ。

旅人として生きていく最低限の装備だ。


そして宿で一晩過ごしながら決めた。

もう砂金は出さない。

お金はいくらあっても困らない。

でも金を持っている、出せると知られれば面倒事は増える。

盗賊。

悪徳商人。

貴族や権力者。

関わりたくない相手は沢山いる。

「ほどほどが一番」

私はそう呟き、眠りについた。



そこから旅が始まった。

春は花畑を歩いた。

黄色や白の花が風に揺れ、蜂が忙しそうに飛び回る。

夏は広い平原を進んだ。

草の匂いを乗せた風が心地良い。

秋は紅葉の森を抜けた。

赤や金色に染まった木々はまるで絵画だった。

冬には雪景色を眺めながら暖炉の前で過ごした。

そんな穏やかな旅だった。


旅の途中で気付いたことがある。

砂糖も砂がついていたのだった。

試しに出してみると本当に作れた。

細かな白い粒。

さらさらとした触感。

どう見ても砂糖である。

「便利すぎない?」

自分で少し引いた。

こちらの世界では砂糖は高価だ。

私は村々で少量ずつ交換した。

卵や野菜。

チーズや干し肉。

保存食や毛織物。

決して大量には出さない。

市場を壊さない程度に。

目立たない程度に、慎重に。

それで十分旅を続けられた。



二年目の春。

私は湖のほとりにある町へ辿り着いた。

湖面は空を映し、きらきらと光っている。

白い鳥が水辺を歩き、春風が花の香りを運んできた。


町外れを歩いていると、一軒のガラス工房を見つけた。

興味本位で中を覗いてみる。

若い職人が炉の前で作業していた。

真っ赤なガラスが竿の先で膨らみ、美しい器へと変わっていく。

「わあ……」

思わず声が漏れる。

青年が振り返った。

「旅の人か?どうかしたか?」

「いえ、綺麗だなと思って」

青年は少し照れたように笑った。

「ありがとう、見ていくといいよ」

しばらく話していると、彼がため息をついた。

「最近は材料集めが大変なんだ」

「材料?」

「良質な珪砂ですよ」

そう言って材料壺の中からすくって見せてくれた。

白く細かな砂だった。


私は平然を装いながら頷く。

「へえ」

内心では確信していた。

これ、出せる。

間違いなく出せる。

だがもちろん目の前で出したりはしない。

そんなことをすれば説明が面倒になる。


三日後。

私は麻袋を抱えて工房を訪れた。

「こんにちは」

「あっ、旅人さん」

「この前の珪砂なんですけど」

私は袋を差し出した。

「知り合いの商人さんから少し分けてもらえたので」

もちろん嘘だ。

知り合いの商人などいない。

いるのは私だけである。

青年は袋を開き、砂を確かめる。

そして驚いた顔になった。

「これ……すごい品質です!」

「本当ですか?」

「はい!」

目を輝かせながら何度も確認している。

「ぜひ買わせてください!」

こうして取引が始まった。


数か月おきに少量だけ。

旅の途中で仕入れたという体裁で珪砂を持ち込む。

すると少しずつ工房の評判が上がっていった。


半年後。

工房を訪ねると青年が嬉しそうに迎えてくれた。

「おかげで工房が繁盛しているんです」

「それは良かったです」

「ぜひお礼をさせてください」

「お礼?」

「何か作ります」

私は少し考えた。

そして前世で見たものを思い出す。

「砂時計なんて作れます?」

「砂時計?なんですそれは?」

完成まで十日ほどかかった。

青年は何度も試作品を作り直した。

ガラスの厚み。

中央の穴の大きさ。

落ちる砂の量。

全てを調整したらしい。

そして完成品を見せてもらった時。

私は息を呑んだ。

「綺麗……」

透明なガラスの中を金色の砂が流れている。

湖の陽光を閉じ込めたような美しさだった。

「気に入ってもらえました?」

「うん。すごく」

本当にそう思った。

青年は照れ臭そうに笑う。

「お礼です」

「でも代金くらいは」

「あなたのおかげで助かりましたから」

結局ほとんど受け取ってもらえなかった。


その砂時計は旅のお供になった。



ある夏の日。

森で魔狼に遭遇した。

灰色の毛並みを持つ大型の魔物だった。

鋭い牙が並んでいる。

「これは無理」

一瞬で判断する。

私は英雄ではない。

勝てない相手とは戦わない。

風上に回り込み、砂を大量に出して思い切り蹴り上げた。

砂煙がぶわりと広がる。

魔狼が目を閉じた。

「失礼しまーす!」

私は全力で逃げた。


木の根につまずきそうになりながら走る。

走る。

ひたすら走る。

安全な街道へ出た頃には息が切れていた。

でも生きていた。

「うん、生存勝利」

地面に座り込みながらそう呟いた。



それから何年も旅を続けた。

訪れる村が増えた。

顔見知りも増えた。

「また来たのかい」

「今年も砂糖を持ってる?」

「泊まっていきなよ」

そんな声を掛けられることが増えた。

帰る場所はなくても、迎えてくれる場所は増えていった。



冬のある日。

山間の小村で雪を眺めていた。

暖炉の火がぱちぱちと鳴っている。

窓の外では雪が静かに降り積もっていた。


私の隣には砂時計が置かれている。

湖の町の若いガラス職人が作ってくれたものだ。

もう何年も使っているのに壊れない。

金色の砂がさらさらと落ちていく。

その様子を眺めながら私は思った。


剣聖にはならなかった。

魔王も倒していない。

世界を救ってもいない。


だけど。

綺麗な景色を見た。


沢山の人と出会った。

美味しいものを食べた。

笑顔を沢山見た。

それで十分だった。


私は砂時計をひっくり返す。

また砂が流れ始める。

ゆっくりと。

穏やかに。

まるでこの旅のように。


暖かなスープを飲みながら、私は窓の向こうの雪景色を眺めた。

春になればまた旅へ出よう。

花の咲く丘を歩いて。

新しい村を訪ねて。

知らない景色を見に行こう。


あと何年、こうして旅を続けられるだろう。

五年かもしれない。十年かもしれない。あるいは明日、思いもよらない理由で終わるかもしれない。

それでも、終わりがあるからこそ旅は愛おしい。


私は砂時計の中を落ちていく金色の砂を眺める。

一粒一粒が過ぎていく時間のようだった。

落ちきるその時まで、私は私の好きな景色を探して歩こう。

そんなことを思いながら、静かに微笑んだ。

---------------

秋なので、スイートポテトの如く、しっとりしっとりとつぶやきながら書きました。

いろんなジャンルの話を挑戦してますw (実際は迷走しているが正しいかも)


5分で読める話ばかり書いています。 方向性もジャンルもバラバラですが、もし良ければ以前書いた話も読んでみてみてください。(基本はギャクコメディー重視で書いています)

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