怪奇事変 集合団地
第四十九怪 集合団地
この団地に住んで居る人達には奇妙な共通点がある。
それは身体の何処からしらに身に覚えのない“痣”が発症している事だ。
例えば子供のいる家庭で子供が発症した際には、ただ遊んでいた時に何処かを打っただけ……と片づけていた親が、次の日には首に手の痣が付いているなどいう怪奇現象にも似た事が起きた。
そしてそれは病の様に伝染していき、やがて地域に居る人々に噂がたってしまう程のものとなった。
「その痣どうしたの!?」
「先生、起きたらこうなってたんです」
小学生の男子の腕には奇妙な痣の形が残っていた。
靴底の跡、複数の手形、紐の様な物で強く縛り付けた様な一本線、当然幹部を刺激すれば痛みはあるものの大事にはなっていなかった。
だが、それを知った教師の顔つきもまた変わっていた。
「そう……ですか、席に…いえ、念のため保健室に行って診てもらいなさい」
「……はい」
何時も通りの日常と化してしまった現象、その奇妙な出来事でさえこれが日常の一部と化してしまった。
出水弥子、霊媒師の家系に生まれ数々の人を霊視するなどしてメディアにも出演した彼女は今まさにその団地へと足を運んでいた。
「弥子さん、深夜になるとその現象は多発しているそうですが、実際何か感じたりしますか?」
テレビのタレントの方がそう問いかけてきて、弥子は答える。
「ええ、感じます、とてつもない霊力が」
とは言うものの、この霊媒師、出水弥子には実際の所、霊視や霊を感じ取る力などはないのだ。
家系は間違いではない、だが才能がなかった、それだけの話である。
つまり、家系を利用してそれをビジネスに変えて生活をしていただけに過ぎないのだ。
「(馬鹿ばかりね、私が霊視なんてできる訳ないじゃない……)」
心の中でほくそ笑み今日も適当に演技をして金をもらう、そんな生活が当たり前になったのはもう数年前からの出来事だった。
初めは霊媒師の家系育ちと言う事もあって彼女のる父が応対をすることで徐々にだファンが付いてきた。
そこで更にテレビの監督から甘い話が出たのだ。
『君のお父さん、金輪際、もうテレビには出演しないって言うんだ、うちは霊とかそう言うものを取り扱ってる番組でね、もっとリアリティーとして取り上げたいから何でもいい!フリでも良いから一枚噛んでくれないか?』
そう言って渡されたのは万札の大金であった。
今思えばそれに目が眩んでしまったのが弥子の将来を分けた選択だったのかもしれない。
『やらせてもらうわ、私も霊媒師の家系生まれだから』
賄賂は無事に弥子の懐に入り、契約を結ぶこととなる。
それ以降、その事実を知った父には絶縁を言い渡され都会に上京してきたのは束の間、直ぐに仕事が入った。
当然、監督も私に霊媒師としての力があるなんて知らなかった訳だが、それでも番組を盛り上げるためと言う名目で金に目が眩んだ一人でもあった。
撮影が始まる中、それっぽい内容を口走りながら撮影を続けていると、弥子の言う通りの出来事が起きたのだ。
初めは誰かの悪戯?番組の仕掛けだと思っていたが、回数は重ねていくうちに違うと言う事が分かった。
そしていつの間にか、弥子の番組は人気として取り上げられ、現代の安倍の晴明とまで言われるようになった。
「居ます、此処ですわ!沢山の霊が私達を取り囲んでます!!」
そして今日の番組は何の変哲もない団地の出来事。
団地に住む人間には共通の痣があるとかないとか、そんな馬鹿みたいな話を信じて噂にするなんてどれだけビビッているのかと様子を伺ったが、確かに奇妙な痣は幾つか見つかったが、夫婦喧嘩、打撲、その程度に定めていた。
「霊に特殊な力場です、力のないものは私の後ろに下がって!」
そうして札を取りだして習った言霊を使ってお祓いをする。
だが当然、力のない弥子からその力を展開させる程の力量はなく、ただのフリだ。
そうして番組を盛り上げて金を巻き上げて行く、そう言う現実の中に居る中で、稀に感覚が麻痺する事がある。
それは——
「(ん?)」
何かに触れられた様な感覚がした。
するとそこに見覚えのない痣が発症していた。
「(そんな、こんな事……!?)」
同様に、苦痛に呻く者達も現れた。
「なんだこの痣!?」
「ッ!?い、いてぇ!!」
「弥子さん!一体どうなッ!?」
「お、落ち着いて下さい、皆さん!これは悪霊が私の——ッ!?」
鋭い痛みが走ると、それはまるで鞭で叩かれたかの様な、ミミズ腫れの跡がついていた。
「(こ、こんな事……一度だって!!)」
咄嗟にその場を後にする。
「ちょっと、弥子さん!?」
振り向かずにそこから遠ざかっていく、まだ呻いた声が後ろから聞こえてきたが、他人の命より自分の命の方が大事だ。
仮に今回の生放送で非難が来ようと、ギャラが落ちようと、命さえあれば何度だってやり直す事は出来る。
『弥子、悪戯に言霊を使うのではないぞ、あの世の者にとって、これは刺激が強い言葉になる』
今になって父の言葉を思い出す、そう言えばこの言霊を使っていたが、霊的な者によってはかなり刺激的な内容で相手を挑発する言葉になりかねないっと。
恐らく、知らず知らずとはいえ、霊の地雷を踏んでしまったのだろう。
そうなったら最後、ただその場から逃げて——
そんな甘い言葉を考えていた矢先、まるで亡霊の様に立っている住人を数人見かけた。
彼等は意識の無い瞳でこちらを見つめている。
顔には人の手形の様な痣が無数に浮かんでいた。
虚ろな瞳が弥子を捉える、それらはまるで映画やゲームに登場するゾンビの様に無数に群がってきた。
「ッ!悪しき魂達め!」
とは言うものの、弥子は生まれて幽霊と言う存在を目にした事はない。
1人、又1人と弥子を掴んむ、その腕力は常人を超えた力で肌に痣が付く程だった。
「い、いたぁ!いたぁい!」
鳴き叫ぶ弥子の事など気に留めず住人達は続いて弥子に群がる。
それはまるで空腹に飢えた獣のようであった。
警察が動き出したのは数時間後になる。
誰かが110番をして呼んでくれたのだろう、だが救われた者は少なく、少なくとも今回の件で大きなトラウマを抱えた者は多かった。
意識を失っていた住人は自分が意識を失う前までの記憶しか残っておらず、暴力行為をした事は記憶に残ってなかった。
そして——弥子は凄腕霊媒師からただのペテン師へとなり下がった。
弥子の身に起きた不運もまた彼女に大きなトラウマを残し、金輪際霊的な仕事や、そう言った行事には参加せず、今は静かに暮らしていると言う。
ただし、片時もあの団地で起きた事は忘れていない、何故ならば——彼女にはその印として痕が刻印されたのだから。
第四十九怪 集魂住宅
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