梨花、暮色に溶けて
周承は石橋の上に立ち、夕闇に飲み込まれていく最後の一筋の残照を見つめていた。岸辺の梨の花はみるみるうちに散り、白い花びらが渦を巻いては川面へと落ちていく。それはあてもなく彷徨う小舟の群れのようで、激しい潮流に飲み込まれ、粉々に砕け散っていった。
「ねえ、何を考え込んでるの?」
ポニーテールの少女が橋の欄干に寄りかかり、薄紫色のメモ用紙を折っていた。隣の家に住む阿栀だ。彼女はいつも屈託なく笑っている。
「……夢を見ていたような気分だよ」
周承は自嘲気味に笑い、水面を流れる落花を指差した。
「一生懸命生きてきたつもりだが、結局はあの花びらと同じだ。最後には何もかも、跡形もなく散ってしまう」
阿栀は言葉を返さず、ただ黙々と紙の角を折っていた。最後の工程を終えると、そのメモ用紙は一機の紙飛行機になった。
「いつかは落ちるし、流される運命なのは確かだけど、あの花の香りは、間違いなくそこに存在していたじゃない。流れていく影ばかり追いかけて、自分を追い詰めたところで、一体何が手に入るっていうの?」
彼女が勢いよく腕を振ると、紙飛行機は弧を描き、舞い散る花びらを追うように飛んでいった。
「どうせ留めておけないものなら、そんなに心を頑なにして、自分を苦しめる必要なんてないんじゃない?」
川風は相変わらず吹いていた。けれど、周承の胸に長く居座っていた澱は、散りゆく花や雲の影とともに、果てしない黄昏の向こうへと消えていった。
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