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第十六話 〈叛逆の天使〉作戦

 風呂上がりには、烹炊(ほうすい)部隊によって夕食の準備がなされていて。それを食べ終わっていくらか経ったころ。

 時計の針が夜の八時を告げる時間帯に、ミユキたち特設(S)技術(T)試験部隊(T)とアレンたち第一八九魔導小隊は、食堂で作戦説明の時間を待っていた。


 全員の前には、『〈ルキフェル〉作戦』という題目の資料が配られていて。恐らく、これが今回の作戦名なのだろうなとミユキは思う。先程ユウキに聞いたところによると、〈ルキフェル〉とは堕天使――つまりは天使に叛逆(はんぎゃく)するものを表すのだそうだ。

 視線を左へと移すと、そこには一人の将校――統合軍司令部司令長官のエーリヒ・フォン・クライスト陸軍元帥が厳然とした面持ちで立っている。一目見るだけでも背筋が伸びるような雰囲気に、ミユキも自然と背筋を伸ばしていた。


 時計の針が、午後八時を告げる。


 食堂内の証明が消され、予め展開されていたスクリーンの画面が暗闇の中に浮かび上がる。


「――では、これより対〈天使〉反攻作戦、〈叛逆の天使(ルキフェル)〉作戦についての作戦説明を始める」


 司令長官の低い声に、一同の緊張感が増す。全員が資料をめくったのを確認してから、彼は続けた。


「まずは作戦概要から説明する。君たちも知っての通り、今回の作戦は人類における初の大規模対〈天使〉反攻作戦となる。よって、今作戦は戦略的および政治的に極めて重大なものであり、絶対に成功させなければならないものだ」


 人類による初めての反攻作戦。それは、成功すれば全人類にとっての希望の灯火(ともしび)となるのだろうなと思う。

 しかし、もし失敗すれば、それは全人類に途方もなく大きな絶望を与えることになるのだ。故に、この作戦は文字通り『絶対』に失敗できない。


「目標地点は北部戦線北端から五〇〇キロメートル先、旧スェーヴェル連邦都市ラヴェトラーナ。現在は大陸北端の海岸線となっている場所だ」


 約三〇年前に北極点基地(エルドラド・ベース)が爆発した際、北半球に存在していた陸地はそのほとんどが爆発の余波で吹き飛び、津波によって海に没した。そのため、現在の北半球は約九割が海へと変貌している。


「資料に記載の通り、現在既に第一段階の核攻撃隊が出撃し、敵拠点となる〈ドーム〉周辺の〈天使〉を掃討中である。よって、君たちの行う第二段階は、放射能汚染が一定以下まで減少した一週間後だ」


 全員が資料をめくったのを確認して、司令長官は続ける。


「第二段階は、魔導士部隊による敵前進拠点――〈ドーム〉の破壊および直接占領だ。以下、“目標α(アルファ)”と呼称する〈ドーム〉は〈座天使(ソロネ)〉および〈智天使(ケルビム)〉の存在が確認され、そしてさらなる増大が予測されている。そこで、だ。君たち特別編成部隊には、これらの掃討に当たってもらう」

「俺たちが〈智天使(ケルビム)〉を……ですか?」


 隊員の一人が尋ねるのに、司令長官は答える。


「正確には、特設(S)技術(T)試験部隊(T)が〈智天使(ケルビム)〉を、〈座天使(ソロネ)〉以下の〈天使〉を第一八九魔導士小隊が担う形だ。君たちの協働(きょうどう)は、作戦指揮上の都合によるものだ」


 堅い面持ちを一切崩さずに言い切るのに、ミユキは視線を少し下へと落とす。


「……また、あんなやつと戦わなくちゃならないのか」


 思わず、そんな声が出ていた。

 前回の〈智天使(ケルビム)〉――〈オファニエル〉一体にすら、二人は死力を尽くして戦ったのだ。それともう一度戦わなければいけないのだと思うと、気が重くなる。


「だが。私たちがやらなければ、人類は敗北する」

「……そう、なんだろうけどさ」


 ユウキの声は、決然が色濃く表れていて。だから、ミユキは何も言えない。

 とはいえ。指令がある以上、軍人であるミユキたちは従うしかないのだ。それに。彼女や司令長官の言う通り、この作戦を成功させなければ人類全体の未来が潰えることとなる。

 ユウキやみんなと一緒に過ごせなくなるなんて未来は、見たくない。


「第三段階にあたる〈ドーム〉本体の破壊は、周辺の〈天使〉掃討を待って大型の核弾頭を搭載した攻撃機隊が担う予定だ。……以上、この三段階が今作戦についての概要となる。詳細については各自、または部隊内会議で確認しておいてくれ」


 司令長官が言い終えると。待機していた士官が食堂の照明がつけていた。天井から吊るされていたスクリーンを戻しながら、司令長官はミユキたちに視線を向ける。


「ここまでの説明について何か質問があれば受け付けるが」


 手を挙げたのはアレンだ。司令長官が「そこの少年」と応じるのに、アレンは席を立つ。


「第一八九魔導小隊小隊長のアレン・フリーダーです。作戦予定日は六月二二日――つまり一週間後となる訳ですが、その間、俺たちに出撃要請は下るのでしょうか」

「戦力の万全を期すため、明日から作戦実施予定日までは戦線とは別個の部隊として扱われる。よって、君たちに出撃要請が下ることはない」


 ……どうやら、今日から作戦日までは休暇になるらしい。

 アレンが席に座るのを確信して、司令長官は再び全体に視線を移す。


「他に何か質問は…………」


 そう言って見渡すが、アレン以外に手を挙げる人は見当たらなかった。

 これ以上の質問はないと判断したらしい、司令長官は厳然とした声音で告げる。


「では、これにて作戦説明を終了とする。今回の作戦は、人類史における初の対〈天使〉反攻作戦となる。各員、死力をもって任務に当たってくれ。……以上、解散」

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