ネズミは誰か
穏やかな日常だったらいいのにな。それこそ可愛い動物をずっと撫でていられるような。
ドンドゥルマが戻って来るまでまたネズミの話を続けようか。ネズミが嫌なら猫の話で皆は楽しんでくれるかしら。
そんな私の考えをよそにソルベはイライラしっぱなしだ。お酒も飲んでしまい、思ったことをハッキリと言えてしまう。
「帰るわ。これ以上ここに居たってファールーデの無駄話を聞かされるだけだものね」
店員さんを呼びつけてチェックをお願いするようだ。
「ちょっと待ってよソルベ。ドンドゥルマはどうするの!?」
「どうもしないわよ。夢だか愛だか知らないけど勝手に追いかけてれば良いんじゃない?」
そんな、ひどい。
「グ、グラニータ!」
いつも頼りになる彼女からも何か言って欲しい。
だけどグラニータは私から目を逸らしてしまう。それに対して「グラニータは正しいわ」とソルベが言った。
伝票を確認し、コインを数えているソルベ。そして彼女はついに立ち上がってしまう。
続いてクルフィが立った。クルフィはソルベに自分の分を払わなくても良いのかと問うている。
グラニータはどうなの? ずっと下を向いたまま。まだ立ち上がってはいない……。
このままで私は帰りたくない。
「ねえ、どうして今日みんなは来たの? ドンドゥルマに来て欲しいと言われて素直に聞くには理由があるはず」
みんなはドンドゥルマの事が嫌いだったのよね?
ドンドゥルマがあんなに変わってしまって、まるで夢の中にいるみたい。本当に精神病院へ連れていくべきなのかしら?
それとリーデッヒとの関係はどうなっているの?
ドンドゥルマが言っていることは本当? ねえ誰か違うと言ってよ。
「じゃあアンタはどんな理由なのよ」
冷たい声。ソルベが獲物を捉えるような目で私を見る。
「わ、私? 私はドンドゥルマが心配で」
「……そう」
ソルベは話を続けず、会計のコインを店員に渡した。
「それだけなの?」
「……」
「ソルベはどうなの?」
「……」
返事をしてくれない。
こんなのっておかしいわ。まるで皆、何かを隠しているみたいじゃない。
「ねえ、クルフィは? 悔しくないの? ドンドゥルマがリーデッヒの話をしているのに、どうして普通に食事なんて出来るのよ」
やっぱりは返事はしないで、私の事から目を逸らすようなところも感じる。
「グラニータはずっと下を向きっぱなしじゃない。ドンドゥルマと何かあったんでしょ?」
教えてよ。私の目を見てよ。
「グラニータってば!」
「そこまでにしなさい、ファールーデ」
ソルベが溜め息をついた。
「まるでネズミ捕りね。ああ、そのための伏線だったの? あの話題」
財布を納めた手で指を立て、自分、グラニータ、クルフィへ順々に爪先を向けた。
「ネ、ズ、ミ、は、だ、れ、か……」
最後はファールーデ。私にも爪先が向く。
「ち、違うわ! そんなことよりも、だっておかしいと思うじゃない!?」
「思わない。あなた忘れてるかもしれないけれど、私たちには集まる共通点があるでしょう?」
共通点? それはそうよ。だってみんなドンドゥルマの知り合いで共通しているじゃない。
「……はぁ。その顔じゃ忘れているのね。それとも、とぼけているのかしら? ファールーデって実は酷く計算高い女だものね」
「そ、そんなんじゃ無いわ!」
「そうかしら? だってアンタは人の不幸を嗅ぎまわって、その辺にばらまいていく病原体持ちのネズミと何も変わらない。私の周りをうろついて来るかと思えば今度は」
「違うってば!」
知らずに大きな声をあげていた。
さすがにこれだけ騒ぎ立てれば私たちはもうこの店を出なくちゃならない。でもその前に、この話を訂正しないと。ソルベが言い出そうとしたことは全て違うんだって、クルフィやグラニータに伝えないと。
「私は、ただ……みんなが……」
「はいはい。もういいわ」
手のひらを返して去ってくソルベ。ふわりと揺れる彼女のドレスが目について、まるで風に揺れて蝶の羽ばたきにも見えた。
その時、思い出した。
初めて観劇したリーデッヒの姿が目に焼き付いて、ひらひらと舞う蝶の演出のこと。とても綺麗で感動したのよ。
私は決して忘れたわけでは無いし、今だってとても愛しているわ。リーデッヒのことを。
「ファールーデ?」
呼びかけて来る。
グラニータが私の袖を掴んで、帰りましょうと誘ってくれているのに。私ったら、この声も手もリーデッヒのものだったらいいのにな……なんて。
「そうか……。そうね。みんな、リーデッヒのことが好きなのね……」
これが共通点。
なんて私は今更当然のことを口にしたんだろう。
私もリーデッヒを愛している。
だからドンドゥルマの事をおざなりにしても良いだなんて、とても酷い話。
(((次話は来週月曜17時に投稿します
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