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長編版5人の女たち【長編・連載中】  作者: 草壁なつ帆
第三幕 ネズミは何者?(視点:ファールーデ)
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ネズミが!

「別に折り入った話っていう程でも無いわ。でも、せっかくだからあなた達にも協力してもらえないかしらと思って呼んだのよ。だって実は私、リーデッヒに会う約束をしたの!」

 胸を打たれる感覚を覚えた。

「リーデッヒ……」

 出所の分からない小声。呟いたのは誰?

 ドンドゥルマは口元を緩ませて微笑む。

「とある海兵が私の噂を聞きつけてくれて、わざわざ電話を寄こしてね。一週間後の帰還日にパーティーを開くから来てくれって頼まれちゃって。私も暇じゃないって断ったんだけど、相手が有名人だと色々段取りが多くて大変みたいなのよ。肌の手入れにドレスの新調、ダンスのおさらいもしなくちゃで、書類も山のように書かされるし、合間合間に彼の友人たちの顔と名前も覚えなくちゃならない……」

 そして大きなため息をついた。

 話しながら「そうだ、あれもしなくちゃいけないわ」と、指折りしつつ何かを思い出すみたい。

「すごい大変ね! まるで結婚でもするみたい!」

 この高い声色に対して、すかさず「クルフィ!」とグラニータが制するけれど。

「やだ、結婚だなんてまだ先の話よ。ああ、でも……受け取った書類には教会に提出するものもあったかしらね……?」

 ドンドゥルマは大きなカバンを膝の上に乗せて中身を見た。そこにいくつも書類が入っているみたいで探している。

 結婚なんてありえない。ましてやリーデッヒに会えるなんて事もあるはずがない。だってリーデッヒは俳優を辞めて戦争に出ているんだから。

「あったわ。これなんだけど……」

 一枚の用紙はテーブルの上を飛び越えてグラニータに向けられた。

 グラニータは用紙を受け取って中身を見た。

「……」

 この中で唯一の既婚者。グラニータはこの用紙を見て絶句している。

 横から覗き込もうとするクルフィだったけれど、グラニータはこの用紙をクルフィに見られる前にドンドゥルマに返した。

 ますます調子付くドンドゥルマ。しかしそうはいかない。

「はぁ。馬鹿みたいな話だわ」

 ピシャリと空気を割るみたいなソルベの声。

「協力してあげるわよ。良い精神科を紹介してあげる」

「せ、精神科!?」

 ドンドゥルマは、用紙を受け取る手に少し力が入ったみたい。

「教会に行くならグラニータじゃなくって私を連れて行きなさいよね。用紙も別のものを書かせてあげるから」

「はあ!? ソルベ、あなた何を言ってるか分かってる!?」

「ええ、少なくてもあなたよりは分かっているはずよ!」

 二人は口論になる。

 ついに立ち上がって言いたいことをぶつけるようだった。

 カフェの静けさが二人の争いによって波立ってしまっている。店員さんも何事なのかと話し合い、ついに奥の人を呼んでくるようだ。

 ドンドゥルマの虚言が聞かれる前に誰かが止めに入らなくっちゃ。だけど一体誰が。

 パンケーキを食べ終わったクルフィ。もしくはグラニータ。あなた達が黙っていたら、ここで話を切り出せる人物がいなくなってしまう……。

「あ、あのね。……あのね、ネズミが!」

「はあ!?」と「何!?」とで、ドンドゥルマとソルベが同時に答えた。少し飛び跳ねて足元を探す二人だけれど、ネズミの姿が見えないと分かったなら、言い出し人の私のことを凝視した。

 私は二人の反応に思いがけず驚いたけれど、でも言い出してしまったからには続けるわ……。

「そ、そう。ネズミをね、ネズミを捕まえたのよ」

「ええっ!? 捕まえた!?」

 私の発言に対してまた大きな反応。

 思った以上の反応に締まりが悪くなり、私はもう少し話を続けることにするけど……。

「えっとね……うちの近くの川辺で見かけた生き物なんだけど。誰かがお世話をしていたのが逃げ出したのなら助けなくっちゃと思って、捕まえてみたんだけど。何の種類か分からなくって」

「ちょ、ちょっと待ってよファールーデ。ネズミってそれ、不潔じゃないの?」

 声を出したのはグラニータ。

「保健所に渡した方がいいわね」と、ソルベも続いた。

 リーデッヒについて口争いの途中だったけれど、さすがにドンドゥルマも怒りを鎮めていて、この時は「そうだわ」とソルベと同じ意見を口にする。

 ……ともかく。二人とも落ち着いて席に座ってくれてよかった。

「ファールーデ、健康被害は出ていない?」

 クルフィでさえ心配そうに眉をひそめて聞いて来るんじゃ、素直によかったと思えないのはそうだけど……。

「え、えっとね。全然そんな感じじゃないの。毛並みも綺麗だし、病気もしていなかったし。飼い犬や小鳥と何も変わらないから」

 言い訳をしているわけじゃない。本当に綺麗な子だったの。

 カフェの店長さんがこのテーブルにやって来た。ドンドゥルマとソルベの一件で駆り出されてきたようだけど事態はもう収拾している。

 困りごとは無いかって聞いてきた。でも、まさかカフェのテーブルでネズミの話をしていることを聞かれてはいけない。

「コーヒーをくださる?」

 ドンドゥルマが言う。すると真っ白な手もひとつ上がって。

「私にはシャンパンを」

 ソルベにはお酒が渡るようだ。

 大丈夫かしら。


(((次話は来週月曜17時に投稿します


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