不穏なお茶会
<第三幕 ネズミは何者?>
朝のお茶が健康に良いってクルフィが言っている。
それをソルベはすかさず否定した。外国では朝にお湯を飲む人も居て、そっちの方が健康的なんだって。さすがソルベは物知りね。
グラニータが、どちらの意見にも一理あるという風に言うと、クルフィは良い反応をして嬉しそうに笑顔だった。ソルベはそっぽを向いてしまっていた。
だから「……私は」と、会話に入った。
「朝も夜もお茶を飲むわ。特に寝起きは喉が渇いているから……朝一番に水分を取り入れるのには、確かにお茶よりも水を飲む方が効率がいいのかも……」
「変な肩を持つのはやめてちょうだい」
ソルベにピシャリと言われてしまった。別に肩を持つために言ったわけじゃないのに……。だって本当に私の意見として言っただけだったのに……。
「ごめんなさい」
会話は途切れてしまう。
言葉少なく。こうしてただお茶を飲む四人には目的が無かったの。
「……はぁ。一体いつまで待たせるのよ」
イライラは、ソルベが分かりやすく表現する。カップの縁にそろえた爪をコツコツと当てていた。
私は、ソルベの怒りが頂点に来てもう帰ってしまうんじゃないかと冷や冷やしていた。けれどソルベにはソルベの考えがあるみたい。バルコニーに繋がる窓を眺めていて、時々歯の隙間からチッと音を出す。
「早く顔を見せなさいっての……」
未着席の人物はドンドゥルマ。私たち四人をドンドゥルマがカフェに集めたのに。その主催者がまだ来ていないということをソルベは許さない。
それは経営者としての未熟さを許さないから?
それとも友人にはぐらかされているとでも思って?
ともかくすごく怒っているわ。私は心が痛くなっていて、また話題を探しているんだけど。
「……」
ソルベがお酒を飲んでいるわけでもないのに、こんなに感情を露わにしているなんて。今までそんな事あったかしら……。
気まずい雰囲気。その助けを求めに私が見るのはクルフィだ。こういう時、思ったことをすぐに口に出来るクルフィが羨ましかった。
クルフィはソルベとは間逆でさっきから機嫌が良いばかり。ひとりだけお腹が空いたと言って、パンケーキセットを注文できるくらいに。
「ね、ねえ、クルフィ?」
私は呼びかけた。
「なあに? ファール-デ?」
クルフィはパンケーキを切りながら答える。
「ええっと……美味しい?」
ひとつひとつ言葉を選んで話すしかなかった。もっともここに居るみんなは会話なんて欲しくなかったかもしれないけれど。私には耐えられなかったのよ。
だけどクルフィとの些細な会話を聞いていたソルベ。彼女がまたチッと言った。
「……」
余計なことを聞かせちゃってごめんなさい……。
心の中で謝ると、また無言の時間が流れてしまっている。
この席だけがしんと静まる中「ちょっと音量を上げてくれないか」と、カフェの男性客が声を上げた。さらに民衆に向けても「邪魔して悪いね」と言葉をかけた。
店員さんは男性客の言う通りにラジオのつまみを回す。
せっかくの朝のティータイムに似合わないラジオの声。しかし私にとってはこの雑音がありがたい。私たちの空気感の邪魔になることをソルベも怒り出さないようだし。
ラジオから情報を伝える男性の声は、昨日の出来事を話すより、今朝の情報をいち早く伝えるようだ。
興奮気味に伝えた。
「おはようございます、アスタリカの皆さん! さあ、嬉しいニュースです! つい先ほど、アスタリカ海軍と陸軍が合同で旧エルサ領土・メルチ城跡地に堂々と拠点を移しました! さらに旧ベンブルク域にも新たな前進拠点を建設。すごい! そして気になるカイロニア域への進出ですが……なんとすでに七割が達成! アルデス司令部が誇らしげに発表しました。これはもう、勢いそのままに勝利への道を切り拓いているといえるでしょう」
パーソナリティーの方も拍手を交えて感心する声だ。
男性客は「よしっ」と、静かにこぶしを握った。
ラジオの声は続く。
「いやぁ~、やっぱりアスタリカは強い! 広大な国土と、揺るぎない国民の意志があるんです。『今回も勝つんだ!』そう実感できる瞬間ではないでしょうか。さらに早朝の首脳会議では、カイロニア王国が国土の所有権をアスタリカへ譲渡し、一部の民政権限も移す決定に至りました。これは大きな勝ち点です! まさに歴史的な朝。国を挙げての大試合に、私たちは一緒に立ち会っているんです! リスナーの皆さん、きっと胸が熱くなっているはずですよね!」
周りのお客も大きな拍手を送っている。私たちの席でも少しばかり拍手をした。ソルベもつまらなそうな顔をしても、我が国アスタリカの勝利には拍手を鳴らす。
みんな当然勝つことを信じてはいたけれど。でも、もしものことも考えなかったわけではない。グラニータは大いに安心したようだし、クルフィやソルベでも鼻で息をついている。
「まっ、当然よね。アスタリカは最強だもの」
鼻を鳴らして自信たっぷりに言う人物。それは、グラニータでもクルフィでもソルベでも、決して私でも無い。
「ドンドゥルマ!」
ようやく待ち人が現れた。
スッと手を上げて「シャンパンを」と店員さんに言うドンドゥルマ。
「戦場現地でもアスタリカに有利みたいよ? だって資金も物資も人手も十分だし、そもそもエルサ諸国自体に資源が豊富だもの。順々に侵略していけば消費した物が上乗せで手に入るっていうサイクルみたい。まあ要は、各国のトップが馬鹿で、大きな戦争に戦い慣れていないっていうのがエルサの敗因よね」
彼女が席に着くのと同時にシャンパンが届いた。
ドンドゥルマは喉が渇いていたらしく一気に飲み干した。その様子をみんなが無口で見守った。
「……ず、随分詳しいのね」
誰も何も言わないから私から反応をする。
「あら? 自分の国のことくらい勉強するべきでしょ? じゃないと、足元すくわれるわよファールーデ」
ドンドゥルマは暑い暑いと扇子を仰ぎ、おかわりのシャンパンもまたひと口で飲み干した。
(((次話は来週月曜17時に投稿します
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