灰の賢者オリバー ~友と世界を旅し、友と世界を守り、そして友と敵対した~
ルイス、我が友よ。君と出会えて本当によかった。
オリバーとルイスは幼い頃からかけがえのない友達で、親友と呼ぶほかに言いようがない関係だった。
「オリバー。俺は早く世界のふもとに行きたいんだ」
幼き日に街を訪れたエルフの女性に聞いた世界のふもとの話。世界のふもとに行きたいとずっと夢見ていて、すぐにでも旅立とうとするルイスを止めていたのはオリバーだった。大人になるまでしっかりと準備した方が良いと、旅の仲間は多い方が良いと、無茶をしようとするルイスを制していたのは他ならぬオリバーだった。
世界のふもとに行くために必要なことを2人で話し合っていた。世界のふもとに旅立つ日を2人で決めていた。世界のふもとになにがあるのか2人で語り尽くしていた。
そして、いよいよ旅立ちの日となり、他に6人の仲間を迎え入れて8人で世界のふもとへと旅立った。
長い旅の末に辿り着いた世界のふもと。
心を奮わせながら世界樹を見上げていた8人に、贈り物が授けられた。
それは、魔法と永遠の命。
未来永劫、終わることのないオリバーの人生の始まりだった。
8人で過ごす世界のふもとでの生活は、オリバーにとってもとても楽しいものだった。だが、なにかが足りない。
世界のふもとに来ることをずっと目標にしていて、世界のふもとで生活できるというのは幸福なことのはずだった。だがどうしても、オリバーの心は晴れなかった。
オリバーはルイスと2人で相談することが多くなった。人間の街に戻らないかと。初めは渋い顔をしていたルイスをずっと説得し続けた。
魔法と永遠の命。身に余る力を、もっと大勢の人のために使うべきだとオリバーは考えたのだ。
オリバーの意見は少しずつ浸透していき、8人中5人に賛同してもらえるようになる。賛同者の中には、もちろんルイスがいた。
8人で話し合い、最終的には全員で帰ろうということになる。オリバーは満足していた。8人全員揃っていた方が、出来ることが多いとわかっていたからだ。
なぜなら、8人はそれぞれ違う魔法を授けられていたからだ。
ルイスの鏡の魔法。
全てを反射してしまう鏡を盾のように使っていた。
メグの篝火の魔法。つまるところ炎の魔法。
邪魔なものを全て燃やし尽くしていた。
リズの水の魔法。
自在に操られた水の塊は便利なものだった。
マリーの榊の魔法。つまるところ木の魔法。
癒やしの力が強く、どんな怪我も立ちどころに治してくれた。
ケビンの塩の魔法。
どんなものでも塩化させ砕いた。
オリバーの札の魔法。
札の用途は無限大で工夫次第でなんでもできた。
サルマンの米の魔法。
米を作れるだけ。謎めいた魔法だったが、きっと使い道があるはずだ。
バルフォアの酒の魔法。
酒の効能を変えることで様々な効果が得られた。
8人それぞれの良さがあり、組み合わせればもっとたくさんのことが出来るのだろうとオリバーは考えていた。異なる魔法を授けられたことには、なにか意味があるのではないかとオリバーは考えていた。
そして人間の街に帰り、見知った顔が全くいないことに時の経過を感じながら、オリバーはこれからどうしようかと考え始めていた。
しかし、サルマンが米の魔法を人々に見せたことで状況は一変してしまう。
魔法と永遠の命というものは喉から手が出るほど欲しいもの。誰もが血眼になって世界のふもとを目指すようになる。
しかしそれを、他種族が許さなかった。
世界の麓へと押し寄せる人間は、他種族の妨害によって全てせき止められる。特にエルフの妨害は激しいもので、かつて自由に行き来できていたエルフの都は固く閉ざされ、人間の前に立ちはだかる巨大な要塞と化した。
人間たちは憤慨し、エルフへ戦いを挑む。オリバーは率先して人間と共に戦った。一度行った世界のふもとへの道を、他種族がどうして閉ざしてしまうのか理解できなかったからだ。
様々な種族と対峙し、戦いを繰り広げている最中、8人を訪ねてくる者がいた。それは、黄金のドラゴン。
「皆さんに、お伝えしたいことがあります」
ラウレリンと名乗るドラゴンは、他種族がどうして人間を止めるのか伝えに来たのだ。その理由とは、魔物が生まれてしまったからというもの。
ただの偶然かもしれない。だが、8人が世界のふもとに辿り着いた後に魔物が生まれたのは事実。だからこそ、これ以上人間を世界樹に近づけるわけにはいかないと伝えられる。
オリバーはラウレリンの主張に懐疑的だった。ただの憶測に過ぎないと考えたからだ。それだけで人間が世界のふもとに行ってはならないと決めつけられるのはおかしいと思っていた。
だがルイスは違った。ラウレリンの主張には一定の説得力があると考えていた。そしてオリバーとルイスは対立してしまう。今までも意見が完全一致していたわけではなく、意見が異なることはよくあったが、ここまで完全に対立するのは初めてのことだった。
8人で話し合いがあり、それが終わった後もオリバーとルイスはずっと議論していた。ラウレリンの主張は根拠がなく、要求は理不尽だと主張するオリバー。ラウレリンの主張は理解でき、要求も呑めないものではないと主張するルイス。
議論はずっと平行線を辿ったが、ある出来事をきっかけにオリバーは折れることになった。その出来事とは、仲間の1人のバルフォアが倒れてしまったということ。
人間と他種族の戦いではあったが、人間という種族はとても弱い。現実としては8人と他種族の戦いになってしまっていた。オリバーもそのことを蔑ろにしていたわけではない。むしろ、他の7人を酷使しないように一番働きかけていたのはオリバーだ。それでも戦いは過酷なもので、バルフォアが倒れてしまったのもなるべくしてなったものだっただろう。
それだけならオリバーも折れなかったかもしれない。オリバーの心を完全に折ってしまったのは、その後も人間が謝りもせずに戦うことを要求し続けたから。世界のふもとには行かないで欲しいと、ただそれだけ要求してくるラウレリンと比べて人間の態度はあまりに酷いものだった。
そして8人は人間を止める側になった。裏切り者と呼ばれながら、人間と戦うことになったが、オリバーは全く後悔していなかった。
他種族の中でもエルフと最も関わりを持つようになり、8人を賢者と名付けた。そして、オリバーは灰の賢者と呼ばれるようになる。戦いのさなか、8人は少しずつ離れ離れにされていく。あまりに強大な魔法の力を恐れたエルフにより、そう仕向けられたからだ。
それぞれの戦場で、それぞれの魔法で、それぞれの敵と戦う。
オリバーは孤独だった。たまに他の賢者と会うことはできるが、共に戦うのは常にエルフだけ。
「みんなはどうしているだろうか」
前線で戦いながらオリバーは常に他の賢者のことを気にかけていた。親友であるルイスのことも脳裏をよぎるが、それより一度倒れてしまったバルフォアの方が気がかりだった。
親友だからこそ、心配する必要はないと思っていたからだ。
やっと戦いが終わった頃には、他の賢者の行方がわからなくなってしまっていた。オリバーは7人を探すために世界中を旅するようになる。
ドワーフの都市の片隅で家族に囲まれているメグと笑った。
ドラゴンの住処で一人で充実した日々を過ごすリズと話した。
ガーダンの村に祈りを捧げているマリーがいた。
巨人と共に無茶をしているケビンを諌めた。
どこにも見当たらないサルマンはなにをしているのかと訝しんだ。
妖精に振り回されているバルフォアを助けた。
様々な土地で、様々な種族と、様々な出会いがある。賢者たちがそれぞれの人生を歩み出している姿を見て、オリバーはとても嬉しかった。
そして最後に、親友のルイスと再会する。
オリバーは長い人生の中で一番驚いていた。ルイスが結婚、しかも幼き日に世界のふもとのことを話してくれたエルフの女性と結婚しているとは夢にも思わなかったからだ。
ルイスはとても幸せそうだった。他のエルフから疎外されてしまっていたらしく、妻を守りながら慎ましく暮らしてきたらしい。最近は少しずつ他のエルフとも雪解けしてきたのだと、本当に嬉しそうだった。
そんなルイスに、オリバーは世界を旅した経験を語った。ルイスは興味深げに話を聞いていて、特にドワーフの都市に興味を示していた。長くルイスの家に滞在したオリバーだったが、やがてまた世界を旅することにした。
もっとゆっくりしていけばいいとルイスに言われたが、オリバーは笑って断った。結婚して幸せそうな親友の姿を見て、オリバーも自分自身の人生をもっと充実させたいと思ったからだ。
もう一度原点へ。東の人間の住む土地を一回りして、オリバーも自らの伴侶を得ることになる。普通の人間の女性。結婚してからたった50年で先立ってしまったが、充実した50年だった。
結婚生活の間にオリバーは老人になっていた。伴侶と共に歳を重ねたからだ。先立たれた後もオリバーの人生は永遠に続くが、再婚しようとは思わなかった。
たった50年の歳月ではあったが、オリバーにとってかけがえのないものだったのだ。たった50年の大切な思い出を、再婚者との生活で上書きしたくなかったからだ。たった50年とはいえ、一生分の思い出を伴侶と作り上げることが出来たからだ。
孫が独り立ちする姿を見届けた後に、オリバーは重い腰を上げた。人間の街に、自分の居場所がないことを理解していたからだ。そのことを悲しいとは思っていなかった。またゆっくりと世界を旅しようと、そんなことだけ考えていたのだ。
一通り東の人間の土地を周った後に、北のドワーフの土地や、西のガーダンの土地、東のエルフの土地、北の妖精の土地、西の巨人の土地、最後に南のドラゴンの土地。
世界を旅する間にオリバーは異変に気付いた。魔物が増えていたのだ。
8人の賢者が世界のふもとへ行ったから魔物が誕生した。
確たる証拠はないが、否定する根拠もない。世界の様子を見て、オリバーの中に疑念が生まれてくる。魔物が増えてしまったのは、本当に自分たちのせいではないのだろうかと。
魔物に苦しめられている世界を旅しながら、オリバーは心の中の疑念とずっと戦っていた。決して自分たちのせいで魔物が生まれたわけではないのだと言い聞かせていた。
魔物からドワーフを守っては西へ発つ。魔物からガーダンを守っては東へ発つ。魔物をどうしようかとエルフ少し交流しては北へ発つ。妖精が魔物と遊んでいる様子を見て西へ発つ。巨人が魔物を蹴散らしているところを見て南へ発つ。
南ではラウレリンと話し合うことが多かった。賢者との縁が深い黄金のドラゴンは、オリバーの良き友人だった。親友というわけではないが、良い関係だったことは間違いない。
魔物が増えているといっても、その被害はまだ限定的だった。
エルフ、妖精、巨人、ドラゴン。アキシギルにおいて、この4つの種族は上位種族と呼ばれていて魔物など脅威でもなんでもなかったのだ。
人間、ドワーフ、ガーダン。一方で下位種族と呼ばれる3つの種族にとって魔物は生存を脅かすほどの存在だった。
ラウレリンからはドワーフとガーダンを守ってやって欲しいと言われていた。東の人間の土地はルイスが国というものを作って魔物を防いでいるらしく、特に心配いらないとのことだった。
さすがはルイスだとオリバーは感心しながら、ドワーフとガーダンの土地を行き来するようになる。いつかは挨拶に行こうと思ってはいたが、親友だからという信頼から結局ルイスの国へ行くことはなかった。
それが過ちだった。
あまりに突然の出来事だった。あのルイスが、幼い頃からの親友で、長い間会っていなかったとしても親友であることに疑いなどなくて、世界で最も信頼しているルイスが、あろうことか魔物を率いて世界を蹂躙し始めたのだ。
なにかの間違いだ。オリバーは最後の最後までルイスのことを信じていた。
魔物が人間の土地を飲み込み、ドワーフの都市へ侵攻し、ガーダンの村を燃やしていく。
それだけでは収まらない。
集団で魔法を駆使するエルフを嚙み砕き、逃げ回る妖精を捕縛し、立ちはだかる巨人を引き倒す。
そして、アキシギルの最強種であるドラゴンとの戦いが始まろうかとしていた。どんなに魔物に蹂躙されたとしても、アキシギルに住まう全ての者はドラゴンの方が恐ろしかった。
もしドラゴンが本気で戦ってしまえば、世界が焦土と化す程度ではすまないからだ。特に寿命が長い種族ほど、かつてのドラゴンの全開の記録を持っており、危機感を強めていた。
特に危機感を募らせていたエルフは、死力を尽くしてルイスを止めようとしていた。だが一向に止められる気配がない。
そんな中、オリバーはなかなかルイスの行方を掴めずにいた。2人が親友同士であることは周知の事実だった。ゆえに、協力されてますます手に負えなくなることを恐れたエルフによって妨害されていたのだ。
途方に暮れたオリバーは、最も頼れる者を訪れることにした。黄金のドラゴン、ラウレリン。最初から会いに行かなかったのは、ルイスのことを助けたいと思っていたからだ。
ドラゴンというのは理不尽ではないが恐ろしく冷徹な存在だ。事情がなんだったとしても、魔物を率いて世界を蹂躙しているルイスに対して、どんな残酷な決断をするのかと思うと、足を運ぶ気にはなれなかった。オリバーは、出来ることなら自分だけでルイスと対峙したいと思っていた。
最後の手段として事情を説明した。オリバーの不安とは裏腹に、ラウレリンは親身になってくれた。というのもルイスがこれほどのことをするのには、よほどの事情があるのだろうというオリバーと同じ意見を持っていたからだ。
ラウレリンはエルフからルイスのことを聞き出し、オリバーと共にその居場所へと向かう。途中で青の賢者リズと合流し、急いで向かう。
やっと会えたルイスは、何故か安心したような顔だった。なぜこんなことをしたのか、問い詰めると全てを話しだした。
この世でただ1人の最愛の人に先立たれてしまい、もう死にたいのだと。何度も死のうとしたが死ねず、その末に魔物を操る力を得たのだと。きっと誰かが殺してくれると信じていたのだと。
そしてルイスは言った。やっと死ねると。
オリバーは動けなかった。ルイスの気持ちが、とても理解できたからだ。そんな理由であるならば、仕方がない面もあると思った。そんな理由があったならば、もっと早く相談してほしかったと思った。そんな理由を聞くと、親友らしいなと思った。
ラウレリンはためらうことなくルイスを殺そうとした。だが殺せない。青の賢者リズも泣き叫びながらルイスを殺そうとした。だが殺せない。オリバーもルイスを殺そうとした。だが動けない。
殺せなかったのではなく、動けなかった。殺したくなかったのではなく、殺せないと理解してしまったのだ。それだけラウレリンとリズの攻撃は苛烈なものであった。
オリバーは友としてなにが出来るのかずっと考えていた。ルイスを殺すことは出来ない。かといってこのまま放置するわけにもいかない。
一緒に世界のふもとに行こうと、ずっと一緒だった。だが旅のさなかに感じていたことは全く異なるものだったのだと、オリバーは思っていた。
ルイスはきっと、人との関わりを大事にしていたのだろうと。対してオリバーは、旅そのものを楽しんでいたのだろうと。たったそれだけの違いだが、長過ぎる人生はそのわずかな違いを大きくしてしまった。
人との関わりというものは、失われてしまうものだ。ルイスはそれに耐えられなかったのだろう。旅そのものを楽しむということは、無尽蔵に得られるものだ。オリバーが耐えられるのそのためだろう。
ルイスを救うことは出来ない。
オリバーがそんな結論に至ったのは、親友として誰よりもルイスのことを理解していたからだった。ルイスの本質を理解していたからこそ、もう取り返しがつかないところまで来てしまったと認めざるを得なかった。
静かに札の魔法を発動させながら、オリバーはゆっくりと親友へと歩みだす。静かに見守るラウレリンと、やめるように懇願するリズ。
殺すことは出来ない。だが放っておくわけにもいかない。これ以上、親友が悪名に走ることを放置したくはない。
ルイスを8つに引き裂き、札の魔法で封印していった。ラウレリンとリズの攻撃を無防備に受けていたルイスは、死なないまでも弱っていて封印するのには苦労しない。
決して封印が解けることのないように自分の目の届く範囲に封印するつもりだった。だが最後の最後で、せめて思い出の地に封印してやって欲しいというリズの願いを聞き入れた。
そして、途方もない時が過ぎた。
オリバーはずっと、封印が解けてしまわないかと気にかけていた。ルイスの思い出の地に封印したことを、後悔しているというわけではない。だが仮に解けてしまったとき、どうなってしまうのか心配だったのだ。
親友だからこそわかっていた。どんなに長い年月が流れたとしても、ルイスの気持ちが変わるはずがないということを。
そのときが、来てほしくないと思っていたときがやってきてしまった。
東の人間の地の、ルイスがこの世でただ1人の最愛の人と最後の時を過ごした国で、8つの中の1つのルイスが解き放たれてしまったのだ。
オリバーがそのことに気づくのには少し時間がかかってしまった。白の賢者サルマンが情報を遮断していたからだ。
気づいたときにはルイスは各地に封印された自分自身を7つ取り戻していて、残り1つでかつての力を取り戻すところまで来ていた。
ルイスを封印した最後の地。8人の賢者が集まっていた。ラウレリンもいた。エルフも妖精も巨人もガーダンもドワーフも人間も、そして魔物も。アキシギルに住まう全ての種族が一同に介する。中でも一際目立っていたのは、ファニーという王女。
ルイス。リズ。サルマン。
一体なにがあったのかオリバーの知るところではないが、この3人がルイスの封印を解こうとしている。そしてファニーという王女もその中にいた。
オリバー。メグ。マリー。ケビン。
5人でそれを阻止しようとする。そしてエルフたちも共に戦った。
ラウレリン。バルフォア。
なにを考えていたのか。戦いを見ているだけの者もいた。
3対4の戦いは互角のまま続いていく。そしてオリバーがルイスを再び封印しようとした瞬間に、王女ファニーが割って入ってきた。
押しのけてルイスを封印することも出来ただろう。だがオリバーはためらってしまった。ファニーというただの人間が傷つくことを避けようとしたからだ。
それが致命的だった。ルイスは封印されていた最後の1つを手に入れて、完全な復活を果たしてしまう。それだけなら、オリバーがショックを受けることはなかっただろう。
封印が完全に解けたルイスは、最後に自分を救ってくれたファニーのことを、その場で捨てたのだ。もう用済みだと言い放っていたのだ。
「ルイス。もう人の心もないのか」
地面にへたり込んでしまったファニーの横で、ルイスを責めた。だが当の本人は悪びれる様子もない。そんな姿に、かつての親友はもうどこにもいなくなってしまったのかとオリバーは悲しんだ。
「人の心?人としての生き方を捨てた君に言われたくないね」
ルイスの返答を聞き、オリバーは眉間に皺を寄せていた。
「ただ1人と出会い。ただ1人を愛し。ただ1人と生き。最期に、ただ1人と死ぬ。それが人の生き方というものだろ?それを捨てて、永遠に生きようとする君に、人の心がわかるものか」
ルイスの言葉を、友の想いを、オリバーはこの時初めて理解した。そして、かつての友はもう決して戻ってこないのだと理解した。
オリバーは嬉しかった。友が人の道を外れたわけではないと知り、友が人として壊れているだけなのだと知り。
オリバーは悲しんだ。友と敵対する道しか残されていないことを、友と語らうことはもうできないことを。
オリバーは恐れた。友を悪の道から引き戻せないかもしれないと、友を制することはできないかもしれないと。
そしてオリバーは再び決意した。かつて友を封印した時と同じ決意。たとえどんな理由があったとしても、世界を守る決意、暴走する友を止める決意。
制しよう。もう一度。
あの日夢見た世界のふもとと。