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辺境伯の意地

「やはり、来ましたね。」

 ここは北の国境に聳えるダンテ関門要塞。

 エリオット、アンドリュー親子は、目の前の大軍を見据える。


「いつものことだ。ここを一歩も退かず、できなければ死ぬまでのことよ。」

「しかし、2万くらいはいますね。」

「だが、この狭い関門を一度に攻められるのは精々二百がいいところだ。まあ、兵糧も心許ないし、援軍も来ないが。」

「それでも、敵に痛打を与えてみせます。」

「その意気だ。怯むなよ。」


 両軍は事前の交渉も口上もなく、いきなり戦闘を開始する。

 もちろん、ロナスにとってレジアスは既に国家として存在しないのだから、宣戦布告すらされない。


 ロナス軍は門の破壊に特化した工兵と弓兵を主体に攻めかかってくる。

 こちらが城門を開け、打って出てくることは無いと踏んでいるのである。それはその通りで、寡兵の辺境伯軍に打って出る兵力は無い。関門の向こうは左右とも切り立った崖であり、伏兵も包囲戦術も採れないため、ただここで食い止めるのみだ。


「遠くの兵には矢を放て!至近の兵には石を喰らわせてやれっ!」

 辺境伯軍はありったけの矢で応戦するとともに、城壁に取り付き、あるいは門扉を破壊しようとしている兵に対しては、石を落としたり、煮えたぎった油を撒いて火を付けるなどして抗戦する。


 ロナス軍はとにかく数を頼んで城壁に取り付こうと試みているだけでなく、何とか破城槌を城門前に設置しようと奮戦している。


「いつもなら、もう退いているところだがな。」

「ええ。敵の被害もかなりなものです。」

「こちらに援軍がないことを知ってて、無理に押してきている。」

「しかし、我々にもあの兵を全滅させる力が無いこともまた事実です。」

「こちらは長期戦もできないしな。」

「いえ、何とか冬まで持ちこたえるよう、戦況をコントロールすべきです。」

「できるかな?」

「父上、ここで弱気は禁物です。」

「とにかく、今は目の前の敵を殲滅するのみ。」

 緒戦は一昼夜続き、ロナスは一旦兵を退いた。


「どうにか一息つけそうだな。」

「しかし、敵にはまだかなりの余裕がございますな。」

「アンドリュー、矢はあとどれくらいある?」

「昨日の調子で討つなら、あと3回くらいかと。」

「まあ、その前に城壁より高く敵兵が積み上がると思うけどな。」


「それと、レイアが王都で雨を降らせたそうです。レジアス王国は無くなってしまったようですが・・・」

「王国が無くなったとしても、民がおり、豊かな大地が戻って来るなら、やはりロナスに渡す訳にはいかん。」

「そうですね。では、また明日からもう一頑張りしますか。」

「頼んだぞ。」


 翌日からもロナスの猛攻は続く。

 当初は心許なかった物資についても、北部諸侯から送られて来たため、変わらず敵を撥ね除け続けている。


「敵は昼夜問わず攻撃を続けてきますね。」

「夜はこちらも反撃しづらいからな。」

「でも、何とか破城槌の接近だけは阻止しております。」

「しかし奴ら、投石機の準備を始めたぞ。」

「では、こちらも投石機で応戦しますか。」

「石は節約したいのだがな。」


「旦那様、ヘクター・エイデン、ただ今参上仕りました。」

「おおっ!良く来た。というより、よく来れたな。」

「はい。南の関門前の流民も急速に数を減らしておりますので、援兵を率いて馳せ参じました。」

「おい騎士団長殿。私を忘れてもらっては困るな。」

「おお、デニスも来てくれたか。」

「そなたらはしばし休まれよ。ここから一時は我らがロナスを防いで見せる。」

「飯を食いに来たのかと思うたが。」

「軽口が叩けるなら上等だ。だが我らダナー騎士団も少数精鋭だぞ。」

「そういや随分減ったな。」

「その代わり、強い者だけが残った。」

「では、少し休ませてもらおう。」

 こうしてダンテ要塞は抵抗を続ける。


 兵力こそロナス軍が圧倒しており、要塞陥落は時間の問題なのだろうが、辺境伯軍は鬼気迫る勢いでこれを押し返し続けている。



「いつもならそろそろ使者殿が来る頃合いなのだがな。」

「来ますでしょうか。」

「今回に限っては来んな。」

「さすがの我が軍兵も、かなり疲労の色が濃いですな。」

「終わりが見えない状況なら尚更だろう。それでも、よく耐えてくれている。」

「敵軍、再度総攻撃の構え!来ます!」

「応戦せよ。維持を見せよ!」

 ダナー軍に辺境伯軍が加わり応戦する。

 しかし、今度はロナス軍も退かない。戦闘は三日三晩続き、さらに新手の部隊が休み無く投入される。


 エリオットは雲霞の如く攻め寄せてくる敵兵を泰然と眺める。

 すでに声は枯れ、疲労も限界を超えているが、この戦に撤退は無い。


「意地は見せたかな。」

 その場でへたり込む部下を見やる。

 彼らだって手塩にかけて育てた強兵であり、決してロナス兵に後れを取るような者達ではないが、彼らの顔は、もうすぐこの戦が終わることを表している。


「行くか。」

 そこにアンドリューが駆け込んで来る。

「姉上が、姉上が援軍と共に!」


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