表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
81/86

併合宣言

 最早、誰も聖女を疑う者などいない。

 懐疑的だったグレッグ公爵ですらだ。


 リンドの奇跡の再現を受け、チェスター伯爵領のヴォルクウェインへの併合が正式に決まり、さらにレジアス全土の併合も決まった。

 そして、ダレン教会において調印式と併合宣言が執り行われる。


 ジュタール、ジェラードの両国王が祭壇前に立ち、今正に調印が行われるところだ。


「では、私から。」

 そう言って、ジェラードがサインし、次いでジュスタールが署名する。

 そして二人は壇上に立ち、教会内に集まった両国政府首脳らを前に宣言する。


「ただ今、ヴォルクウェイン王国へのレジアス王国領土の編入に調印し、正式にこの地はヴォルクウェイン王国となった。これにより、レジアス王家は解体され、名実ともに、聖女の国はヴォルクウェインとなる。最後の国王としては、力及ばず悔やむ気持ちはあるが、これから国土の再建に向け、各々の持てる力を尽くして欲しい。最後に、これまで王家を支えてくれた全てのレジアス国民と、これを救ってくれた全てのヴォルクウェイン国民に感謝する。」


 湧き起こる拍手を制止して、ジェラードは静かに祭壇を降りる。


「先ほど、ジェラード陛下が申されたとおり、再びこの地に太陽と豊穣の神の祝福を与えるため、両国の併合について合意したことを宣言する。これからも、しばらくは苦難の道のりが続くだろうが、希望を捨てることなく互いに力を合わせ、必ず幸せを掴もう。私も皆のために全力を尽くすので是非、力を貸して欲しい。」

「ジュスタール国王陛下万歳!」

「ヴォルクウェイン王国の未来に幸あれ!」


 教会内に大きな拍手が沸き起こり、調印式は成功のうちに終了する。

 そして翌日、早速王都レヴフォートに向かうことになる。


 レジアス全土の併合は完了しているので、このままでも天候は回復するかも知れないが、治安の回復と新統治者の周知は最低限、行う必要があるとの判断だ。

 国軍のバーケット将軍を先頭にマンスール前騎士団長が後方を守る形で、長い隊列が続く。


「ヴォルクウェインの国旗を持ってくればよかったですね。」

「まあ、ここの民にはレジアスの旗の方が馴染みがあっていいんじゃない?それに、そんなにたくさんの国旗、持ってないからね。」

「そうでした。でも、これから作らないといけませんね。」

「国土は単純に倍、人口はきっと10倍にはなっただろうからね。」

 彼らの乗る馬車には、ジェラード大公も同乗している。


「しかし、他に方法が無かったとは言え、殿下には申し訳ないことをしてしまった。」

「いいえ。全ては兄が行ったことに端を発したもの。それを残った者が負うのは当然のこと。私は、命があっただけでありがたいと思っていますよ。」


「しかし、レイアを奪還しようとは思わなかったのですか?」

「お二人がご結婚されていると知る前は、我が妻にと考えておりましたし、クーデター時には奪還も試みました。しかし今では、そんなことをしなくて良かったと思います。やはり、レイア様の隣はあなたが相応しい。」

「ありがとうございます。私も彼女に比べればいたって不出来な男ですが。」

「そんなことはありません。先日の奇跡は、きっと私では起こせないものです。二人の神がいてこその恵みですから。」

「そう言っていただけるとありがたい。」

「問題を残したまま、陛下に後を託すことになりますが、よろしくお願いします。」

「大公殿下にも、これから西部ローウェン地方の統治をお任せしますよ。」

「はい。ジッダルも今は我が国同様、国力が著しく低下しているようですが、程なくして勢いを取り戻すでしょう。せっかく救っていただいたのですから、今度は私の手で、ベレル川以東の地は守ります。誰にも奪わせたりはしません。」


「それと、ロナスが動き始めておりますが。」

「彼らのことです。きっと攻めて来ます。いや、すでに衝突しているかも知れません。既にバーケット将軍から各地の将軍に北部救援を命じております。」

「しかしこの時期に厄介な敵です。」

「でも、レジアスの民は負けません。強いのですよ。」

「もちろん、勝利を確信しておりますよ。」

 そうして一行はレヴフォートに入り、セントラルワース大聖堂を目指す。


「しかし、随分激しかったのですね。」

「お恥ずかしながら、これが王家の失政と聖女を失った国の姿です。」

「大聖堂も焼け落ちてしまっています。」

「守り抜くことができず、申し訳ありません。」

 聖堂前でファルマン司教の出迎えを受ける。


「レイア様、お元気そうで何よりでございます。」

「枢機卿様、よくぞご無事で。」

「もう枢機卿ではございませんぞ。レイア様。」

「いいえ。私にとってはファルマン様こそ枢機卿様です。」

「頑固なところは相変わらずですな。このような状態で、何もお迎えする準備などできていないのですが、とにかく中にお入り下さい。」

 彼女はファルマンに伴われて聖堂内に入る。


「では皆の者は、祭礼の準備を始めよ。すぐに行うので、近隣の民も集めよ!」

「しかし、ここにいた時よりお元気そうで。」

「決して、怠けていた訳ではありませんの。」

「存じております。レイア様に限って、怠けるなどということは考えられません。」

「ヴァージル様が枢機卿になったと伺いましたが。」

「ここが焼き討ちに遭った際に、他の枢機卿とともに、命を落とされました。」

「大変な事になりました。」

「ええ。ここはカーディン様とリンド様が初めて奇跡を起こしたとされる伝説の地、このように汚してしまい、慚愧の念に堪えませんが、聖女様は戻ってきてくれました。もう大丈夫と安堵しております。」

「レジアスの聖女では無くなってしまいましたが。」

「どこの聖女かは関係ございません。神の恵みを民に届ける。これがあなたの役目なのですよ。」

 ファルマンは優しくレイアを抱きしめる。


「よく頑張りました。私に力が無かったために、余計に苦労をかけてしまいました。」

「いいえ。今の私があるのは、全てファルマン様のお陰です。」

「ささ、祈りまでしばし、ごゆっくりおくつろぎ下さい。」


 そうしているうちに、大聖堂前に即席の祭壇が設営される。

 全てを略奪された総本山に十分な資材は残ってはいないので、これが今できる精一杯だ。

 そして二人は祈り、ダレンの奇跡は再来する。

 光が天を目指して舞い上がると同時に、ファルマンらが大聖堂の鐘を鳴らす。

 レヴフォートの市民は聖女の帰還と、目の前の奇跡に歓喜する。

「これがリンド様、いや、レイア様の奇跡か・・・」


 そして、先日と同様、雲が湧き起こり、待望の雨が降り注ぐ。

「まさかこれを、本当に見ることが叶うなんて・・・」

 ファルマンは呆然としながら、小さく鎮まりゆく光をただ見つめていた。


 この雨は翌日も続き、道路にこびりついた血も、町に漂っていた焼け焦げた臭いも全て洗い流していった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ