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辺境伯エリオット・ハースティング

 あの衝撃の夜から一週間。


 レイアの父エリオットら、辺境伯の一家が領地に帰還してきた。

 もちろん、これは新国王への抗議の意味もあるが、何より家族の身の安全を考慮した結果である。


 何台もの馬車と多くの護衛を引き連れた車列は、ただ辺境伯家の威光を示している訳では無い。明らかに都との決別の意を示しているのである。


 そして車列は、辺境伯の城に入る。

 辺境伯家は、北の大国ロナスに対応するため、このような大きな城と王国有数の私兵団を保有しているのである。


「ようやく着いたな。もう大丈夫だ。」

「あなた・・・」

「良い。ポーラの気持ちは痛いほど分かるが、今は長旅の疲れを取りなさい。アンドリューよ、しばらく母に付いていてあげなさい。」

「分かりました。父上。」

「ではチャーリー、騎士団長を呼んでくれ。」

「畏まりました。」


 執務室に集まったのは、当主でレイアの父であるエリオット、執事長のチャーリー・ダウニング、騎士団長のヘクター・エイデンの三名である。


「既に早馬を飛ばしたから、両名とも事情は把握しておろう。」

「はい。大変お労しいことでございます。まさかお嬢様がそのような目に遭われるとは、何とも嘆かわしいことでございます。」

「そうですな。罰当たりこの上ない。それだけではない。国外追放など、何の謂われがあったというのだ。」

「儂も同じ気持ちだ。」


「それで、陛下からは謝罪などございましたでしょうか?」

「何も無い。一方的に婚約破棄し、娘を国外追放して終わりだ。いかに王と言え、あまりに不躾な仕打ち。許すわけにはいかん。」

「では、戦ですか・・・」

「場合によってはそうならざるを得ん。しかし、これはあくまで私怨だ。できればそんなことに領民を巻き込むことはしたくない。」

「では、多数派工作ですか?」

「当面は、都への街道を封鎖し、人と物資の往来を全て止める。これは、王家の密偵を入れぬ効果も兼ねる。」


「それで、反主流派となるのでございましょうか。」

「そうだな。既になってしまっていると言っても良かろう。」

「しかし、いくら当家が精強をもって鳴らしている騎士団がいても、とても王家の軍勢に勝てるとは思えませんが。」

「場合によっては領地ごとロナスにくれてやるわ。ただ、それはあくまで最後の手段だ。今は状況を見つつ、レイアがここに戻れる策を考えるべきだ。」

「そうでございますな。では、公爵のいずれかか、教会と組みますか?」

「まあ、それも王とそれを巡る派閥の行方次第だ。今は下手に動くべきではないし、教会とは組まぬ。」

「信用できませんか・・・」

「ああ、娘を奪う時は神の意を振りかざしておきながら、いざという時は保身に走り、娘を守らずあっさり罪を認めてしまったような連中だ。奴らには今後一切の支援はせんし、何を言ってきても門前払いだ。」

「承知いたしました。」


「では、こちらも何名か密偵を放った方がよろしいですな。」

「団長、頼めるか。」

「お任せください。」

「しかし、街道封鎖は当家と領内にも痛手になりますが。」

「大丈夫だ。東のカーク領との通行は制限付きで許可する。」

「制限を付けますか。」

「あくまで都から怪しい者を入れぬための措置だ。」

「分かりました。そちらについても至急、進めましょう。」


「しかし、これからどうなるのでしょうか。」

「さあな。それは分からぬが、このままでは終わらせんよ。娘の無実を証明し、きっちり落とし前を付けてもらう。」

「左様ですか。では、我々も最後までお伴いたします。」

「苦労を掛けるな。」

「いいえ、当然のことでございますし、どう考えても大義名分はこちらにございます。ここで黙っていては騎士の名が廃ります。」


「そのとおり。当家はこの国境を守り、これまでロナスの侵攻を幾度となく食い止め、歴代当主も戦で命を落とした者が多い誉れ高き忠義の家でございます。それを何とも思わずに汚名を着せるなど言語道断。最早ロナスに裏切れと言っているようなものでございます。」


「まあ落ち着け。儂より頭に血が上ってどうする。とにかく、奴らに今回のこと、後悔させてやらねばならんが、当家は未だ力不足だ。あらゆる面で力を蓄え、必ずや本懐を遂げねばならん。短気はいかんぞ。」

「分かり申した。」


 こうして、辺境伯家も反国王に舵を切ることになる。

 あくまで静かに・・・


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