聖女、再び故国へ
「そうですか。チェスター様はご決断下さったのですね。」
「叔父上も長旅、お疲れ様でした。」
「いいえ、何のこれしき。それに交渉としてはほぼ失敗でしたし。」
ファンバステンが帰国し、レジアスの状況と交渉の経過が明らかになった。
「しかし、現地の領主が承諾するとは思わなかったな。」
「はい。全く歯牙にもかけないかと思っておりましたので。」
「却って厄介なことにはなったが。」
「たとえ、どんなに危険でも、私は行きたいです。」
「まあ、レイアならそう言うと思ったけど・・・」
「問題は、チェスター卿が国王を説得できるかですな。」
「そのチェスター伯爵とは、どのような人物なのだろう。」
「レジアスの南部人気質そのものだと言われております。非常に切れ者で商売人気質だと言うのが一般的な評価です。」
「レイアは会ったことがあるの?」
「はい。何度かお話させていただいたことがございます。決して武人ではありませんが、かなり気骨たくましい方という印象を持ちました。」
「王子の婚約者で聖女様なら、知ってるか・・・」
「信用できる方とお見受けしましたし、できない約束はしないと思います。」
「まあ、嘘をついて我々を貶める動機もメリットも無いのは事実だけど、不安だなあ。」
「そうですな。鍵となるのは、国王に従い、かなりの数の騎士や兵がダレンに駐屯していることです。国王の考え次第では、これとの衝突が懸念されます。」
「伯爵の私兵団とどちらが強いか、だね。」
「あとは、我が軍の上陸が認められるかです。国王から見れば、これが最も承服しがたいことかも知れません。」
「逆の立場なら、まず断るね。」
「それで、これからどのような手順で進めることになるのでしょう。」
「まずは、船の準備だね。兵だけで無く、馬や食料も輸送しないといけない。次に、協定内容の精査と正式文書の作成。そして、上手く行かなかった場合は安全に帰って来る方法。上手く言った場合は次の協定の準備と全体の作戦立案だね。」
「作戦は今からでも案を作っておくべきです。」
「そうだね。何種類か必要になると思う。何処までを併合し、我々がどこまで進軍するか。」
「ロナスが動くなら、王妃様のご実家まで進むことすらあり得ます。」
「でも、そこまで陛下に危険な事をさせるつもりはございません。」
「いや、そうなれば行くよ。レイアは止めたって行くんだから。」
「バレておりましたわ。」
「そして、国元には叔父上とポールに残ってもらう。」
「ロナスと対立するなら、サルマンも帰国させないといけませんな。」
「そういった種々のことを進めながら、ダレンからの情報を待とう。」
こうして、およその方針が決まり、出発準備を整えた。
そして10日後、ジェラードからの正式な要請が来たことで、出発が決定した。
ヴォルクウェインからは、ジュスタールとレイア。
そしてヴォルクウェイン軍千名が派遣されることとなった。
「では陛下、王妃様、くれぐれも御身大事でお願いしますぞ。」
「分かっている。兵達とともに、必ず無事に帰ってくる。」
「私も、必ずお役目を果たしてまいります。」
「兄上はともかくレイア様、どうぞご無事で。」
「殿下も、後の事をよろしく頼みます。」
「ともかくって何だよ・・・」
船はダレンに向かって出港する。
「ここに来たときは、まさかレジアスに戻る日が来るとは思いもよりませんでした。」
「やっぱり、彼の地には聖女が必要だったんだよ。」
「そう言っていただけると、とても嬉しいです。」
「しかし、レイアは強いよ。」
「そうでしょうか。」
「これから危険な地に向かうというのに、何か堂々としてる。」
「それはジュスタール様も同じですよ。」
「いや、私はおまけ。あくまで罠を仕掛けるならレイアに対してだからね。」
「大丈夫です。レジアスではどこに行っても皆さん、よくしてくれましたよ。」
「そう信じてるよ。」
「陛下こそ、途轍もない大国の王になるかも知れません。」
「半分はポールに任せてもいいかな。それにしてもアイツ、どさくさに紛れてレイア様って呼んでたな。」
「そうでしたね。でも、とても親しみやすい方ですね。」
「まあいい。これからアイツものんびり遊んでなんかいられなくなるんだから。精々今のうちに休んでおくがいい。」
「まあ、意地悪ですね。」
「本当は、アイツが王になればいいと、ずっと思ってたんだ。」
「ポール殿下は、そう思ってらっしゃらないようですよ。」
「まあ、面倒くさがりだからね。」
そう言うと、ジュスタールは遙か西の海を見つめる。
「大丈夫です。全て上手くいきます。」
「やっぱり、レイアは強いよ・・・」
船は大きく進路を変え、一路ダレンを目指す。




