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ロナス王国の脅威

 レジアス王国の事実上の崩壊を受け、隣国のロナス王国も動きを見せ始めた。


 この国は、レジアスと並ぶ大陸最強国家の一つであるが、国土の北半分は寒冷な地域であり、これまで領土拡大を積極的に行ってきた歴史を持つ。


 そして、レジアス王国ともその例に漏れず、幾度となく干戈を交えたライバルであり、特に9年前まで続いた二十年戦争では多くの命が失われた。


 そんな深い遺恨を持つ間柄であり、豊かな国土を持つレジアスは何が何でも版図に加えたい土地であるが、これまでハースティング辺境伯領に侵入できたことはあっても、版図を拡大できたことは一度もない。


 しかし、今回はレジアスが無政府状態に陥り、軍も機能していないのだ。

 天候不順と流民の多さから、ロナス国内でも侵攻に対する反対の声は大きいが、天候さえ回復すれば、途方も無い広さの穀倉地帯が手に入り、大陸の覇権を握ることは確実になる。

 ロナスがレジアス征服に舵を切るのは、当然のことだろう。


 彼らにとって唯一の障害は、ハースティング辺境伯家である。

 彼らは、兵力こそ少ないものの、要害に立て籠もり忍耐強く抗戦することで知られており、特に両国間唯一の街道の要衝、ダンテ峠の要塞は難攻不落なことで知られる。

 しかし、今回はこれまでと状況が異なり、辺境伯家が従うはずの王家も守るべき義理も存在しないのである。


 レジアスが無政府状態なら、ハースティングを交渉で取り込むことも可能と判断したロナス側は、早速辺境伯家に降伏勧告の使者を派遣した。


「父上、ただ今ダンテ要塞にロナスの使者が参っております。」

「ついに来たか。しかし、基本的には陛下への取り次ぎしかできんぞ。」

 翌日、エリオットはロナスの使者と面会する。


「それがし、ロナス王国宮中伯、マティアス・オーストレームと申す。武名名高いハースティング卿にお会いでき、まことに光栄に存じます。」

「これはご丁寧に。エリオット・ハースティングでございます。遙々お越しいただき、家中一同、歓迎いたします。」

「こちらこそ恐縮でございます。」

「それで、ご用の向きをお伺いしてもよろしいですかな。」


「はい。単刀直入に言えば、辺境伯様には是非とも我が陣営に加わっていただきたいと思い、伺った次第でございます。聞けば、すでにレジアスは国家としての体を成しておらず、騎士が働くべき王もいないと聞きます。」

「せっかくの申し出ではありますが、我が国の王は健在でございます。」

「国を支配していない者を王とは呼びますまい?」

「確かに現状はかなり厳しいと言わざるを得ませんな。しかし、ご健在なことは確かでございます。ならば、我らは王に忠誠を誓うものでございます。」


「大変、立派なお心構えと存じます。しかし、聞けばその原因はご息女レイア様を国外追放したことにあります。そこまでの仕打ちを受けてなお、忠誠を誓う甲斐がある主とは思えませんが。」

「それは先王であって、現王にあらず。既に謝罪を受け取っておりますので、それがしの主は依然としてジェラード陛下でございます。」

「なるほど。あなたはそれがしが見込んだ通りの方ですな。しかし、今の状況で領地領民のことを考えれば、答えは自ずと出るはずですが。」

「おっしゃるとおりの状況なのは、非常に口惜しくまた、恥ずべき状況ではありますが、そう簡単に騎士の矜持を捨て去れるものではございませんので、何卒ご理解願いたい。」


「残念ですな。我が国もそなたのような者こそ、歓迎するのですが。」

「そうおっしゃっていただき、光栄至極に存じます。できることなら、隣国の回復と発展を期待していただき、諍いの無いよう願っているところです。」

「分かりました。しかし、いつでもお待ちしておりますぞ。」

「有り難きお言葉でございます。」


~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/ 


「交わす言葉とは裏腹に、大変緊張した空気が漂っておりましたな。」

「さすがは宮中伯といったところであったな。」

「あれは来ますな。」

「ああ。しかも此度は援軍を見込めぬ戦いだ。」

「しかも、全軍を投入すれば、南の関門から流民が雪崩れ込んで来ます。」

「そうなると戦どころではない混乱が起こるな。」

「早急に、流民を南に押し返すべきですな。」

「そうだな。戦が近いことを知らせ、流民にはお引き取り願おう。それで、兵糧は十分か?」

「はい。何とか例年通りの量を確保しております。」

「それも中央からの援助は見込めん。流民への援助は止めよ。」

「畏まりました。」


 こうして、ハースティング領は準戦時体制に移行し、北部の各諸侯も同様の措置を取った。

 そして、程なくしてロナス軍の姿が国境沿いに増え始め、盛んに軍事演習を始めるとともに、陣も多く確認できるようになってきた。


「春になるのを待つと思ったがな。」

「よほど自信があるのでしょう。」

「まさか、我々が徹底抗戦するとは思ってないだろうしな。」

「普通はしませんぞ。」

「ああ。あまりに状況は絶望的だからな。それより、このことを陛下に知らせよ。」

「援軍は来ませんぞ。」


「ああ、分かっている。」


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