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外交による打開を試みる

「そうですか・・・陛下が。」

 聖ポルテン教会に、ファルマン司教の意を受けた使いが来訪し、レジアスの現況について情報がもたらされたのである。


「まさかクーデターが成功してしまうとは思わなかったな。」

「はい。とても政情の安定した国ですので。」

「ご実家は大丈夫なのかなあ。」

「はい。とても心配です。」


「陛下、レジアス王国から、外交使節団の来訪について打診がされております。」

「分かった。応じると伝えよ。それと、いつ来ても構わぬよう、準備は進めておくように。」

「畏まりました。」

「すぐに来ますね。」

「ああ。追い詰められているからね。」


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 そして、打診の翌週、早くもマーク・フィッシャー外相が入国したとの知らせがはいった。こちらの返答など待ってはいないタイミングでの来訪は、相変わらずの外交下手さである。

「お目通りが叶い光栄でございます。マーク・フィッシャーです。」

「うむ。遠路大儀であった。また、先王のご冥福と新王の健勝を祈る。」

 フィッシャーの顔色が一瞬変わったように見えた。


 本来、クーデターで倒された王の話題は避けるべきで、それがヴォルクウェインのような小国なら尚更であろうが、ジュスタールは、ことレジアスに対しては遠慮がない。


 これも、小国なりの意地であり、非礼を続ける隣国に対する意趣返しでもある。


「それはお心遣い、感謝する。それで、今回まいりましたのは、我が国の新たな王、ジェラード陛下からの親書をお持ちし、変わらぬ親善を図りたい目的と、国王夫妻のご来訪をいただきたいからでございます。」

「うむ。親書は謹んでいただこう。」


「それで、国王夫妻にも是非とも我がレジアスにご来訪いただきたいと思っておる次第。」

「それは当面、見合わせたい。」

「それは、何故でございましょう。」

「二月ほど前に、我が妻が乗った馬車が何者かによって襲撃されてな。今は厳戒態勢を敷いておる。国外はおろか、国内ですら警備がままならぬゆえ、妻の身の安全が保証されるまでは、いかなる外遊もお断りすることにしておる。」

「しかし、我が国は大国。その警備についても最高峰でございますぞ。」


「はっきり申し上げるが、妻を襲撃するのはレジアスか聖教関係者が最も疑わしいのだ。もちろん、ロナスやシェンドラという可能性も僅かにあるが、そのような状況で渦中の場所に赴くなど認められん。」

「それはいささか我が国に対して非礼が過ぎるのではございませんか?」

「妻を守るためなら手段は選ばぬ。危険が排除されない以上、応じる訳にはいかん。」

「そこを何とか曲げて頂く訳にはいきませんか。」

「何故そこまで来訪に拘る。別に貴国からこちらに訪問しても良いのではないだろうか。」

「それは、食料支援など、これまでの協力に対し、御礼の意味を込めてでございます。」


「一つ聞くが、妻の国外追放処分は解かれたのか。」

「それは・・・陛下が暫定王位に就いた時点で先王の裁定は無効でございます。」

「王が個人的に出したものだったのか?」

「はい。先王の独断でございます。」

「いいえ。国家叛逆罪とおっしゃっておりました。」

「ならば法に基づく措置だな。つまり入国した途端、王妃が逮捕されるということだ。」

「いいえ、そのようなことは絶対に無いとお約束いたします。」

「分かった。では、その件については、互いに状況が落ち着けば考えて行くことにしよう。」

「いえ・・・」

「急ぐことではあるまい?」

「・・・はい。」


 外務卿はどうしても来訪して欲しい様子だし、レジアスの内情も分かるが、ジュスタールにとってのレジアスは、信用に足る相手ではない。

 結局、これといった成果も無いまま、フィッシャーは帰国の途に就いた。


「お断りしてしまいましたね。」

「やむを得ないさ。罠かも知れないし。」

「それにしても、聖女を追放しておいて、王妃になったら招くというのも、釈然としませんな。」

「確かに、追放した王は去り、新たな王が立ったのだろうが、都合良すぎの感はあるな。」

「まあ、加護を期待してのことでしょうが。」

「そっとしておいて欲しいな。」

「そうですな。」


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「デニスよ、よくぞ無事であった。」

「ああ、城内で兵に取り囲まれた時は覚悟したが、何とか生きてるよ。」

 ここはハースティングの執務室。

 こちらには、デニス・タナ-内務卿が使者として派遣されている。


「それで、職を追われたか。」

「いやそれが、暫定措置ではあるが、留任した。」

「アーヴィング派だったのにか。それは陛下も相当余裕が無いのだな。」

「そう言うな。危機的な状況であることは、何も変わらん。」


「それで?留任なら骨休めで来た訳じゃ無いのだろう?」

「陛下の謝罪文を持ってきた。レイア嬢の名誉回復とその公表、そなたへの賠償、次代以降の聖女の身分保障、全てお認めになるとのことだ。」

「そうか。できれば前のにそうして貰いたかったが、今となっては叶わんことだからな。追って、陛下から直接謝罪を受けよう。」

「そう言ってもらえるとありがたい。」

「そこで終わってくれるとこちらもありがたい。」

「そんな訳あるまい。飴と鞭は常にセットだ。」

「小さい飴と鋼の鞭がな。」

「まあ、残念ながら否定はできん。」


「それで、今度は何だ?」

「追加の食糧支援と関門の解放、それと、ロナスからの食料買付依頼だ。もちろん、買い付けの資金は国庫から出す。」

「おいおい。追加なんて出せる訳無いだろう。ただでさえロナスがきな臭いのに。それに関門の解放も無理だ。お前も流民の多さを見ただろう。」

「あれ、私の領地なんだが。」

「お前は内務卿だ。職務の範疇なんだから我慢しろ。」

「お前は小さな飴すらくれないのだな。」

「無い物を出せるか。」

「分かった。取りあえずロナスからの食料購入は協力してくれ。残念ながらこちらは馬すらまともに用意できん。」

「輸送は軍にやらせろよ。こちらの兵は国境警備で手が離せん。」

「分かった。何とかする。」


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