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矜持と誇り

 既に季節は盛夏を迎え、レジアスは昨年同様、厳しい猛暑と少雨に見舞われている。

 王都を始め、各地で餓死者が当たり前のように発生し、治安も社会も崩壊している。


 そんな中、王都では圧倒的な兵力を誇る王都防衛軍が、王城を取り囲む状況が続いている。


 攻城側は、食糧が尽きようとする中で、短期決戦を目指して激しい攻撃を加え、守備側は各方面からの援軍を期待して守備に徹している。


「しかし、ジェラードもなかなか諦めないな。」

「名将バーケット将軍の部隊ですからな。そう簡単に音は上げないでしょう。」


「しかし、水も食料も無いはずなのに、あの炎天下でよくやるな。」

「双方極限での我慢比べです。そして、この戦で全てが決まります。」

「向こうもか。」

「はい。互いにあと1ヶ月が限界でしょう。それが分かっているから、向こうも損害度外視で攻めて来ております。」

「この城も堀に水は無いようだが、ちゃんと堀として機能しているから、こちらは門を守備すれば良いだけだ。」

「しかし、騎士団だけではあまりに少なすぎます。向こうは昼夜兼行で、委細構わず攻め続けております。」

「だが、こちらは水と食料に若干の余裕があるし、武器の備蓄は万全だ。」

「ええ、そうで無ければ既に陥落しております。」


 戦特有の喧噪が遠くに聞こえる。

 ルシアンは、いつものように窓の外を見る。

 もう、何ヶ月も城外に出ておらず、この風景しか見ていない。


「しかし何より、ここに籠もるだけで、王として国のために何一つ仕事をしていないのが腹立たしいし、悔やまれることだ。」

「心中お察しします。」

「いずれにせよ、もうすぐ終わる。」

「陛下・・・」

「敗色濃厚なのは理解している。そして、たとえ勝ったとしても、崩壊した国しか残っていないこともな。」

「王として、最後まで諦めてはなりませんぞ。」

「そうだな。ここで弱音を吐いてはいかんな。」


 各城門前では、依然として激しい攻防が続いている。

 城門の上から騎士団が矢を放ち、敵の侵入を何とか食い止めているが、圧倒的に数が少なく、放たれる矢は散発的である。

 他方、攻め手は数を頼んで城門の破壊を試みているほか、後方から矢を放って、守備側にダメージを与えようと懸命である。

 ただし、王都防衛軍はその性質上、攻城用兵器が配備されておらず、このため手詰まりの状況が長く続いていたのだった。


 しかし、この日ついに、グレッグ公爵家が保有する破城槌が到着し、均衡が破れた。

 門が破られると数に劣る騎士団に軍を押さえ込む力は無く、そのまま城内各所に軍兵が雪崩れ込んでくる。

 そして、伝令から次々に報告が上がってくる。


「陛下、南門が破壊され、敵兵多数乱入!」

「東門、北門はすでに敵方が占拠。開け放たれました!」

「陛下、すぐにお逃げ下さい。」

「宰相、玉座の間に向かうぞ。」

「しかし、それでは・・・」

「宰相よ、余に付いてくるか?最早これまでだ。無理について来なくても責めはせんが。」

「しかし、地下通路を通れば、あるいはまだ間に合うかも知れません。」

「余は王だ。玉座以外に居場所など無い。」

 そう言ってルシアンは歩き始める。


「いいえ、なりません。たとえ一時、辛酸を舐めたとしても、再起を図るべきです。」

「この城を去れば余は王でなくなるし、王でない私に生きる理由など無い。」

「承知いたしました。では、最後までお伴いたしましょう。」

「そなたは・・・いや、愚問だな。」


 ルシアンと宰相オランド・マクニールは玉座の間に入り、定位置につく。

 そこに軍兵が雪崩れ込んでくるが、彼らは事前に指示があったのか、入口付近に整列し、それ以上は近付いて来ない。


 そして、しばらくして王弟ジェラード、グレッグ、シンクレアの両公爵、バーケット将軍が入ってくる。 


「ジェラード、久しぶりだな。」

「兄上もご健勝そうで何よりでございます。」

「私は生きて玉座を去るつもりは無いのだが、どうする?」

「誇り高き王は最期まで玉座にあった、ということにしておきましょう。」

「そうか・・・」

「栄えあるレジアスの玉座を血で濡らすは、兄上も本望ではないでしょう。」

「確かにそうだな。厚情、痛み入る。」

 それだけ言うと、ルシアンは立ち上がり、段を降りる。


「では、処分が決まるまで、自室にて謹慎願おう。」

「地下牢では無いのか?」

「もう勝敗は着きました。兄上が無様に逃げるとは思っておりませんので。」

「後は頼んだ。」


 ルシアンはバーケット将軍に伴われ、玉座の間を去った。


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