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騎士団長の奮戦

 夜になって、オリバーたちの隊は戦闘主体の前進から、敵兵を躱して貴族街に向けて潜行する作戦に切り替えた。


 既に皆、疲労が限界に近付いているが、これが最後のチャンスである。

 前進しないわけに行かない。

 そして、哨戒兵を倒してはその装備を剥ぎ取り、軍の兵士に偽装を始めた。

「これより王都防衛軍兵に偽装して公爵邸に向かう。全員、整列!」

「はっ!」


 オリバーらは、軍式の行進隊形で裏通りから貴族街に入り、公爵邸入口に到達した。

 公爵邸はこの時間、まだいくつかの部屋に明かりが灯っている。


「では、これより廷内に突入する。建物内に入ったら槍を捨て、剣を抜け。いいな。」

「はい。」


「公爵邸の造りは王城本館とほぼ同じであろう。ホールに入ったら第一隊は向かって右、第二隊は左に進み、階段を制圧、そこを死守せよ。モリー、バート、クリスの三名は私について来い。」

 そして静かに、しかし一斉に門衛に襲いかかり、邸内に突入する。


 第一隊が体当たりで玄関のドアを破壊し、およそ15名の団員は一斉に建物内に侵入。

 邸内の敵を蹴散らしながらオリバーは二階に駆け上がり、まだ明かりのついている執務室に向かう。

 そして、執務室のドアを部下の一人が開け、オリバーが入口に立つ。


「私は近衛騎士団長オリバー・マンスール。王命により、反乱軍の首魁を捕縛するためにまかり越しました。どうか、神妙にしていただきたい。」

 室内にはジェラード殿下、グレッグ公爵、ベッドフォード侯爵がいる。


「これはこれは団長殿。よくここまでまいられた。その胆力、褒めてつかわすぞ。」

「恐れながら、反逆者に褒められる謂われはございません。モリー、バート、クリス。三人を拘束せよ。」


 三人が入室するやいなや、ベッドフォード侯爵が剣を抜き、斬りかかってきた。

 三人の団員は怯むが、オリバーは瞬時に彼らの前に出て、ベッドフォードを一刀のもとに斬り伏せる。

「グァッ!」

 ベッドフォードは一言叫んだ後は、無言で倒れる。致命傷を与えた感覚はある。


「抵抗すれば容赦はしませんぞ。」

「そうは言いますが団長。ここからどうやって城までお帰りに?」

「私は職責を全うするまででございます。公爵殿。」

 すでに階下では異常に気付いた多くの兵が集まって来ており、階下で剣戟の音も聞こえる。


「さすがの腕前に感服しますし、さすがは栄えあるレジアスの近衛を預かる者。しかし、惜しいですなあ。その忠誠も高い戦闘力も、愚王の下では発揮できない。」

「不敬ですぞ公爵。大人しくせねば、多少手荒なことになり申す。」


 そこで、ここに向かう足音が。

 まだ一時は団員も踏ん張ってくれると思ったのだが。

 これに気付いた部下の一人が入口に向かったが、室外に出た途端、彼が吹き飛ぶのが見えた。


 そして、圧倒的な力を見せた御仁が姿を現す。

「そうか。そなたがここにおったか。」

 現れたのは、王都防衛軍を率いるジャック・バーケット元将軍。

 ルシアンによってすでに罷免されてはいるが、これに従わず今でも軍を率いている。

 人望厚い人物ながら、個人としての戦闘力も並外れた武人である。


「団長殿、罷免以降は初めてであるな。」

「まさか敵として相まみえるとは思ってもみませんでしたが。」

「げに、残念なことよ。これほどの武人、それがしとそなた以外におらぬというに。」

「では将軍。胸を借りるつもりでまいりますぞ。」

「来るが良い」

 両者、瞬時に戦闘態勢に入り、剣をぶつけ合う。


 モリーとクリスの領騎士団員はグレッグ公爵とジェラード殿下を守りながら室外に退避する。

 互いに力比べをした後は、間合いを取り、相手の隙を窺う。

 いくら広い執務室とは言え、巨躯を誇る二人が剣を振り回すにはいささか狭い。


 剣を上段に構える将軍と、身をかがめて突きを繰り出す体勢のオリバーはしばらく睨み合ったあと、互いに渾身の技を繰り出した。

 そして勝負は一瞬で決まる。

 オリバーの背にバーケットの剣が叩き込まれ、オリバーは意識を手放す。


「そこの騎士、全ての手の者に抵抗を止めるように命じよ。さもなければ団長の命は無い。」

 そして程なく戦闘は終わり、騎士団渾身の作戦は失敗に終わった。


「此奴が万全なら、勝負は分からんかったが。まあ、年寄りには少しばかりハンデがないとな。」

「将軍。その者を早く討ってくれ。」

「殿下、それはなりませんぞ。近衛の騎士は王に従う者。殿下が王になれば是非も無く味方に付く者。そこいらの軍人よりよほど頼りになりますぞ。それに、これほどの逸材、もういないかも知れません。」

「しかし、今は敵なのだろう?」

「勝利を目指すならそのようなことは些事でございます。」

「そうですな。敵将を用いる度量も必要かと。」

「しかし、侯爵を失ってしまった。」

「惜しいことではあるが、戦ではよくあることでございます。」


 こうして、近衛騎士団長オリバー・マンスールは捕縛され、騎士団長を失ったルシアンは城外での戦闘を諦めて撤退を指示。籠城戦に入った。


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