内乱勃発
教会やジェラード派の扇動により、ついに内乱が勃発した。
これまでの食料を求めるデモではない。ルシアンの失政を糾弾し、退位を求める暴動である。これは王都のみならず、王都近郊の各都市でも同時に起こった。
軍の対応はまちまちである。
王都防衛軍のように反体制側の部隊もいれば、任務に忠実な部隊もあり、指揮官により異なるが、これを機に軍を離脱、いや逃亡する兵も相次ぎ、いつものような戦闘力を発揮できないでいる。
「団長、敵の兵力は約4千。とても騎士団で防ぎきれる相手ではございません。」
「まだだ、陛下から撤退命令が出るまで戦線を死守せよ。」
「しかし・・・」
「数は少なくともこちらは精鋭、向こうは一般兵だ。気を強く持て!」
貴族街で挙兵した王都防衛軍に対し、騎士団は市街地を利用し、少人数の隊で攪乱することで敵の前進を阻んでいる。
このような戦法を取っているため、前線に指令本部などは置かれていない。
このため、騎士団長オリバー・マンスールも槍を振るっている。
「ええい、邪魔だ!どけっ!」
十字路の左右から騎士が牽制し、注意が逸れたところをオリバーが突撃し、軍兵を蹴散らす。
そして斥候を放ち、次の場所へ密かに移動して再度、攻撃を加える。
これを繰り返しながら、敵陣深く潜入しつつ、敵の連携を絶つ。
こうして、寡兵ながら何とか持ちこたえている。
「人影を見たら、全員敵と思え。一般市民も、それに扮した兵も皆敵と見做せ!」
「はっ!」
通常なら、騎士団はこのような非人道的な戦いをしない。しかし、現状で王都内の全ての人が敵というのは、ある意味当たっている。
寡兵で戦線を維持するためには、このくらい割り切らないといけないのだ。
「しかし、敵があまりに多すぎます。」
「そうだな。いくら個々の技量で上回っていると言っても、僅か300でいつまでもこんなことは続けられないな。」
そう言いながらオリバ-は敵兵を突く。
「かなり深入りしましたが。」
「勝つためには、一か八か、敵将を狙うしか無い。」
そして、オリバーは通りの反対側の団員に向き直る。
「命が惜しくない者は、我に続け!」
オリバーの視線の先だけではない。後方からも声に応える団員がいる。
「団長様・・・」
「命が惜しくば下がって良いぞ。どうせ、勝っても負けても地獄行きだ。」
「いえ、最後までお伴いたします。」
「向かうはグレッグ公爵邸だ!」
彼ら決死隊は、軍兵を各個撃破しながら少しづつ前進を続ける。
王都では騎士団が奮闘しているが、これは王都に限ったことである。
南部ダレン以外の都市では、反乱側が勝利したようだ。
民衆の側に立った軍幹部が多かったためだが、そうでない将軍も兵の士気の低さと、これに起因する兵の離脱、サポタージュにより、暴動を止めることができず、戦闘を止めたためだ。
ただ、ダレンに限っては、元々治安が保たれていたことに加え、領主アーノルド・チェスター伯爵の采配により、瞬く間に暴動が鎮圧されたために、大事には至らなかった。
しかし、教会とジェラードの起こした内乱により、レジアスのほとんどの地域は無政府状態となる。
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「ついに、武装蜂起しましたか。」
「ああ、軍も民衆も混じった集団らしい。」
「騎士団ではとても対処できないと思いますが。」
「しかし、一当たりしてこちらに戦う力があることを示しておかないとな。」
「そうですな。籠城するにしても、我らの強さを印象づけておく必要がありますな。」
「まあ、援軍がなければ、城はいつか落ちるが。」
「各方面軍は健在でございましょう。とにかくここ数日中は持ちこたえること。これが最初の山場でございます。」
「さすがの私も、これが初陣なのだがな。」
「ご武運を祈っておりますぞ。」
「ありがたいな。」
ルシアンも、これが絶望的な戦になることくらい承知している。
そしてもちろん、我が身を惜しむ気持ちはあるし、心が落ち着かないのも事実だ。
しかし、王である場では、それを顔に出すことは出来ない。
「全く、思うに任せないものだな。」
そう言うと、やっと決心がついたか、今度は力強く立ち上がる。
「余の戦を見せてやる。」




