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それぞれの絶望

 王弟ジェラードと枢機卿ヴァージル、そしてその取り巻きたちは顔をつき合わせて悩んでいた。


 彼らは実質的に首都を制圧し、反目する各地の軍もこちらに戦闘を仕掛ける余力を持っていない現状のため、その勢力を維持しているものの、日々心許なくなる水と食料、手に入らない聖女の扱いに苦悩していた。



「このままではじり貧で共倒れだ。何か妙案は無いのか。」

「手遅れになる前に兵を挙げ、城を制圧しないと勝機を失ってしまうと考えます。」

「今のこの状況でクーデターを成功させても、後が続かないであろう。」

「今度はこちらが責任を取る側になる。しかし、国の立て直しは絶望的だ。」

「やはり、何としてでも聖女様にお帰りいただくほかはない。」

「どのような方法があるというのだ・・・」

「何とかこちらに来ていただくか、ダメなら拉致してでも手に入れるしかない。」

「ヴォルクウェインが敵に回りますぞ。」

「あんな小国では、こちらに攻め込む力はない。連れ戻してしまえばこちらのものだ。」

「こんな手しか無いとは・・・」


 こちらも妙案は出て来ない。

 これほど日照りが続くことは、彼らにとっても想定外だったし、僅か一年で聖女が他国の王妃になってしまったのも想定外だった。


 もう、クーデターが成功したとしても、何の旨みも無い事は分かりきっているが、すでに拳は上げてしまっている。彼らに漂うのは絶望感だ。


「だが、やるしかないな。」

「やるなら今が最後のチャンスといえるな。」

「幸い、向こうも弱り切っている。」

 ここで、教会は信徒に立ち上がるよう扇動するとともに、王都防衛軍による本格攻勢を行い、実権を掌握するとともに、グレッグ公爵家と教会合同で聖女奪還を図ることが決まった。

 これは、妙案が出ない中での半ばヤケクソの策であるが、すぐに実行しなければそれすらままならなくなることは明白で、彼らはそこまで追い詰められていると言える。


「まるで話にならん幼稚な策だ・・・」

 グレッグがようやく吐き出せた言葉は、ただそれだけだった。


~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/


「旦那様、関門前の流民が更に増えております。」

「こちらもそうだが、ダナーの領地はもっと大変だな。」


 ここはハースティング辺境伯領。

 夏でも比較的過ごしやすい当地は、ここのところ流民の増加に直面している。

 ここは、デリラ山脈に降った雨のお陰で、他の地方とは異なり、水不足ではないし、川も例年通りの水量がある。

 そしてそれは当然、隣接するダナー伯爵領にも流れているため、王都レヴフォートと比べると格段に暮らしやすい。

 このため、流民が急増しているのだ。


「最近は流民の中で自治組織が結成され、代表による陳情が後を絶ちません。」

「気持ちも言いたいことも分かるが、これ以上支援する力は無いし、領内に入れる訳にも行かん。」

「ええ。しかし、日ごとに流民が増え、非常に逼迫した状況となっております。」

「ついこないだまでは、貧しい辺境の民などと、笑われていたのだがな。」

「今は立場が全く逆になってしまいました。」

「なら、我々がかつての王都民のように裕福になったかと言えばそうではない。一部の商人は大儲けしているが、ほとんどの領民は食料価格の高騰に苦しんでおるし、蓄えも乏しい。すべて門の外に施しているではないか。これ以上、どうしろと言うのだ。」

「中には無理矢理門を押し破ろうとする輩までいる始末。」

「そんな者には武器の使用を認めているだろう。」

「はい。領内に入り込んだ者についても同様でございます。」


「他の諸侯も対応は横並びなのだな。」

「はい。彼らも流民を入れたらどうなるかは分かっておりますので。」

「せっかく水はあちらに流れているのだから、少しは耕せばいいのだ。」

「すでにそれをやろうとして、ダナー領の農民と激しく衝突したそうです。」

「そんな様子では耕作などできんな。」

「収穫前に全て盗られて終わりでしょう。」

「農業とは、平和でなければできないものなのだな。」


「それで、ロナスからの買い付けはどうなっている。」

「かなり足下を見られており、国内比べてと10倍の差額を要求してくるそうです。」

「流民で買える額ではないな。」

「絶望的ですな。」

「最近良かったことは、レイアが元気であることが分かったことだけだ。」

「はい。小国とは言え、王妃ですから。」

「教会の呪縛から解き放たれる。それだけで良い。」


~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/


「陛下、食糧支援に関するロナス王国との交渉は、打ち切りました。」

「良い。あんな条件、飲めるわけが無い。」


 昨年から行っていた食料支援に関する交渉だが、価格面でもそうだが、施政権の一部譲渡など、レジアスを属国化するような条件が盛り込まれており、到底飲めるものではなかった。


「それと、サリー王国から、婚約解消の書簡が送られてきております。」

「そうだな。こちらとしては、現状の食料輸入ができれば問題無い。応じよう。」

「よろしいのでございますか?」

「どうせまだ未発表だったのだ。それに、食料輸入が現状で手一杯ということなら、王妃に迎えるほどのインパクトはない。所詮は遠国ということだ。」

「承知いたしました。そのように動きます。」


「それと、城内の備蓄はあとどの位持つ。」

「まだ三ヶ月は持ちます。」

「この城は何もかもがオーバースペックだと思ったが、思わぬ所で役に立ったな。」

「はい。我が国のような大国におけるこのような堅固な城は、平時は民に見せつける以外の効果はございません。しかし初代カーディン王が建設したこの城は、広い堀や地下の井戸、脱出路、兵糧庫など、実践的な城としても大変優れております。」

「最早、城しか自慢するものが無くなってしまったな。」

「まだ望みを捨てるのは早いと考えますぞ。」

「さすがは我が宰相だ。」


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